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トーキョー・アサシン 隔離都市東京特別治安維持課  作者: 三上 渉
第二章:少年の願いと少女の未来は暗い闇の中に
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少女の未来は闇の中に


「お兄ちゃんの仇!!!殺してやる!!!!!」


そう叫びながら、アイリが檻を破壊した!

そして自らがへし折った鉄棒を手に持って、殺意に満ちた視線をリーダー格の男に向ける!だがその時・・・


「お・・・お姉ちゃん・・・」


檻の中に居た他の子供達、ユウヤとアイリよりも年下であろう子供が震えた声を上げた

それを聞いたアイリはピタリと動きを止めると、ゆっくりと後ろを振り返る

そして、迸る殺意とは裏腹に穏やかに微笑むと言った


「大丈夫だよ、みんな」

「お姉ちゃん・・・?」

「みんなを傷つけようとする人は、私が全員殺してあげるから」


以前と変わらぬ穏やかさのまま殺意をむき出しにするアイリに、子供達はすすり泣くのも止め言葉を詰まらせる

そしてアイリは再び男に視線を向けると、ゆっくりと檻から出て歩いてくる


「・・・そうだ、その前に」


しかしその時、アイリは突然歩いていた方向を変えると倉庫の隅へと向かって行く

そこにあったのは、先程13が始末した巨漢の接続者の死体

そして死体の前に立ったアイリは手に持っていた鉄棒を両手で振り上げる!次の瞬間!


ゴシャッ!!!


骨が砕ける音!

アイリは手に持っていた鉄棒を思いきり死体に向かって叩きつけたのだ!

そしてアイリはもう一度鉄棒を振り上げる!


グシャッ!!!


今度は肉が潰れる音!


ビシャッ!!!


死体に詰まっていた血が飛び散る音!


ベチャッ!!!


肉片が飛び散り倉庫の壁に張り付く音!


「お前のせいでお兄ちゃんが・・・!!!潰れろ・・・!!!潰れろ・・・!!!」


ブツブツと呟きながら何度も何度も鉄棒を振り下ろすアイリ!

超人的な力で何度も殴打された死体は、あっという間に血と臓物だけの何かに変わり果てた

そしてアイリはフッと軽く息を付くと、ゆっくりと振り返る


「あとは・・・そっちのやつ・・・」

「ヒッ・・・!!!」


返り血でドス黒く染まったアイリが殺意に満ちた視線をリーダー格の男に向ける!

そして血が滴り落ちる鉄棒を持ったまま男に向かって近づいていった!


「・・・う、ああ!!!」


それに対し、男は逃げ出す事も出来ず倒れたまま後ずさるだけだ

逃げ出す事の出来ない男に、アイリは悠々と近づき目の前に立つ


「お兄ちゃんの仇・・・」


そしてゆっくりと血に濡れた鉄棒を振り上げ!それを思いきり振り下ろそうとした・・・!その瞬間!


「止めろ」


振り下ろされようとしたアイリの手を、後ろから現れた男が掴んで止める!

アイリの手を掴んだのは黒コートに仮面の男、13だった!


「どうして・・・止めるんですか?御音さん・・・」


振り返る事なくそう呟いたアイリに13が答える


「オマエがソイツを殺せば、今度は俺がオマエを殺す事になる。だからその手を下ろせ」


その言葉にアイリが勢いよく振り返る!そして!


「そんなの・・・!関係ない!!!」


ブンッ!!!


手に持っていた鉄棒を横に薙ぎ払う!

だがその直前!13は間合いを離しそれをかわす!


「邪魔するなら!御音さんだって!!!」


そしてアイリは鉄棒を13に向かって振り下ろした!だが!


ブオンッ!!!


その攻撃をいともたやすく回避する13!


「くっ!このお!!!」


アイリは躍起になり何度も鉄棒を振り回すが、13にはカスリもしない

アイリの攻撃をかわしながら13が告げる


「止めろ、接続者になったからと言って戦闘のプロになれるわけじゃない。お前に暴力沙汰は向いていない」


そう、アイリの力は接続者になった事で常人離れした物となっていた

しかし普段穏やかで暴力を嫌うアイリの動作は素人その物、いやそれ以下と言えた


「それでも私が!お兄ちゃんの仇をうつんだ!!!」


そう叫ぶと、またもやアイリが鉄棒を滅茶苦茶に振る!だがその時!


バキィッ!!!


滅茶苦茶に振ったアイリの一撃が13の顔面に直撃した!


「あっ!!!」


当たった事にではなく、当ててしまった事に、アイリは思わず体を震わせると後ずさる


「・・・たったこれだけの事で動揺するくせにか?」

「・・・え?」


だがその時、鉄棒に殴られたはずの13の顔が無傷である事に気付く

そう、アイリの一撃が直撃したのは13の顔面ではなく、被っていた仮面の部分だけだったのだ

その時、アイリに仮面を外した13の、暗殺者の瞳が冷たい輝きを放っているのが見えた。しかし・・・


「・・・あ」


その冷たい輝きの中に隠された、13の本当の心の中がアイリには見えた気がした


(さっきの言葉は脅しや警告のつもりで言ったんじゃない。あれは・・・御音さんの願いなんだ。私を殺したくない、そして私に殺させたくない・・・。だから御音さんは私を止めたんだ・・・)


それは暗殺者という姿とは全く違う姿

13という青年が心の中で願い、そして今まで諦めていた本当の思いだった


「御音さん・・・」


鉄棒を握ったまま茫然とするアイリ、そんなアイリにゆっくりと13が近づく

そして、13はアイリの目の前で膝をつき目線を合わせると


「アイリ。俺の眼を見ろ」

「え?」


瞬間!13の右目が輝き「接続」が発動する!そして・・・


「・・・あ」


次の瞬間、アイリの瞳からぽろぽろと涙がこぼれ落ちた


「これ・・・お兄ちゃんの・・・!」

「ああ。ユウヤが最後に残した想いだ」


それはユウヤとの「接続」で伝えられた、ユウヤの最後の言葉・・・






(アイリ。オレの分も幸せにな)






「う・・・ああ・・・」


その身に纏わせていた殺意が失せ、正気に戻ったアイリは13の胸に顔を埋め嗚咽を漏らす


「それでいい。オマエはそれでいい」


そんなアイリを、13は優しく抱きしめ落ち着かせるのだった






しばらくして、13はゆっくりと立ち上がり呟く


「さて、残っていた仕事を済ませるか・・・」


そして、疲れて寝息を立てていたアイリに視線を向け


「人殺しは、俺達に任せろ・・・」


そう言うと、13はホルスターから銃を抜き倉庫の隅で震えるリーダー格の男に向かって歩いていく


「なっ!?や・・・やめろ!情報が!!!情報が必要じゃないのか!?」


そう狼狽えた様に叫ぶ男に向かって13が答える


「そうだな、確かに情報は必要だ」

「だ、だろ!?なら・・・!」

「だが、オマエに喋ってもらう必要はない」

「なっ!?」


そして13は、視線を男に向け言った!


「俺の眼を見ろ」

「は?」


次の瞬間!

13は一瞬で「接続」を完了させる!


「なっ!?今のは・・・!?まさか俺の頭の中を!?」

「ああ、そういう事だ。必要な情報は全て貰った・・・そしてオマエは用済みだ」

「まっ!待ってくれ!!!」


命乞いを続ける男に構わず、13はゆっくりと銃口を男に向ける


「冬香、命令は?」

「・・・殺せ、13」

「了解」


13は通信機に向かってそう答え・・・


「まっ・・・!!!」


ダンッ!


躊躇なく、その引き金を引いた

脳天から血を流し男が倒れたのを確認すると13は通信機に向かって言う


「こっちの状況は終了した。だが、どうやら今からこいつらの取引相手が現れるらしい、子供達の保護も必要だ」

「ああ、分かった。すでに応援は手配してあるから、そちらは任せよう。念の為、近くで待機していてくれ」

「了解」


そしてしばらくした後

船で埠頭に現れた取引相手は伏せていた完全武装の警官隊によって制圧され逮捕、連行されていき

アイリを含めた路上孤児達はその全てが解放された






一週間後、新宿近くのグラウンド・ゼロ外縁部

今は誰もいなくなった子供達の街に御音と冬香、そしてアイリの姿があった

3人の前にあるのはただ木の棒を立てただけの墓、ユウヤの墓だ


「皆も国の施設で暮らしていけるようになりました。だから安心してね・・・お兄ちゃん・・・」


アイリが墓に向かって手を合わせたまま呟く

そして他にも墓に向かって色々と報告を終えた後、アイリは立ち上がる

その時、冬香がアイリに向かって問いかけた


「アイリ、ここで良かったのか?もっとちゃんとした場所に葬る事も出来たんだぞ?」

「いえ、ここが良いんです。私達はずっとここで暮らしてきたから、お兄ちゃんもここが一番安心すると思います」


そう言って穏やかな笑みを浮かべるアイリ

その笑みは、接続者となる前のアイリと変わらない笑みだった


「そうか・・・」


そして冬香も、アイリに向かってややぎこちなく笑みを返す。その時・・・


「・・・そろそろ時間だ、行くぞ」


少し離れた位置から、二人に向かって御音が告げた


「はい!分かりました!」


御音の言葉にそう返事を返すと、二人の後に続くアイリ

その途中、アイリはユウヤの墓の方を振り返ると呟く


「・・・安心してお兄ちゃん。これからは私が皆を守るから、「暗殺者」として皆を・・・」


そしてアイリは、少しだけ悲しそうな笑みを浮かべた。だがその時・・・


「なら、アイリの事は私達が守るさ」


その言葉にアイリが正面に目を向けると、そこには足を止めアイリの事を見つめる冬香と御音の姿があった


「ユウヤにも約束だ。御音もそれでいいだろ?」

「・・・可能な限り援護する。・・・約束だ」

「冬香さん・・・御音さん・・・」


アイリはそう答えると少しだけ俯き・・・


「はい!私も頑張ります!」


そして澄み切った空の様な笑みを浮かべると、アイリは駆け出すのだった






たとえその先が闇の中だとしても

側で輝く、二つの光を追って

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