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トーキョー・アサシン 隔離都市東京特別治安維持課  作者: 三上 渉
第二章:少年の願いと少女の未来は暗い闇の中に
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芽生える黒い衝動


新宿から旧山手線沿いに南下

品川区東京湾沿いにある、今は使われていない埠頭付近

深夜1時ごろ、闇と静寂が辺りを包む中

無数のコンテナが立ち並ぶ場所のすぐ側、近くの倉庫に人の気配があった


「よし・・・、後はこいつらで今日の積み荷は最後だな」


そう言って男が目を向けた先にあったのは檻

動物を入れておく様な、鉄の格子で作られたシンプルな作りの檻だ

だが、その檻に閉じ込められているのはライオンや虎などではない

年端もいかない子供達、そして・・・


「大丈夫だよみんな、きっとお兄ちゃんが助けにきてくれる・・・」


その中にはユウヤの妹、アイリの姿もあった

その時、人攫い達のリーダー格と思われる男が時計を確認しながら言った


「あと1時間程で船が来る!他の積み荷をコンテナに積めとけ!」


その命令に従い、部下の男達が倉庫から出ていき子供達を出荷する為の作業を進める

天井の窓ガラスから見える月の光だけが照らす暗闇の中

倉庫に残ったのはリーダー格の男と檻に入れられた子供達

そしてもう一人、ユウヤを殺した巨漢の接続者だけになった

その時、巨漢の接続者がリーダー格の男に向かって問いかける


「なあ?コイツラ一体何処へ出荷するんだ?どっかの変態にでも売り飛ばすのかい?」


そう言って下卑た笑みを浮かべる巨漢の接続者

それに対し、ややイラついた様な声でリーダー格の男が答える


「それならわざわざ「東京」でやる必要はねーだろ。上が欲しいのは「東京のガキ」だ」

「じゃあ・・・つまり~?」

「・・・大方、接続者関連の実験にでも使うんだろうよ。詳しくは知らないし知りたくもねーがな」

「へぇ~。実験かぁ~」


その時、何かに気付いたかの様に巨漢の接続者が言った


「あ~、だったらあのガキ捕まえておいた方が良かったんじゃねえの?オレが潰しちまったガキ」


その言葉に、檻の中に居たアイリがピクリと反応を見せる


「ああそうだよ!接続者のガキなら他のとは比べ物にならないぐらい高く売れたんだ!それをお前が潰しちまうから!」

「悪い悪い。生意気そうなガキだったからついさぁ~」


そう言って、特に反省していない様な笑みを返す巨漢の接続者。その時・・・


「どうして・・・」

「あ?」


檻の中に居たアイリが二人に向かって呟く様な小さな声で言った


「どうしてそんな酷い事が出来るの・・・?私達は何も悪い事なんてしてない・・・、お兄ちゃんだって私達を守ろうとしていただけなのに・・・」


だがその言葉に、巨漢の接続者がニヤニヤと笑いながら答える


「理由なんて簡単だろ~?」

「・・・?」

「オレがそうしたいと思ったからさ」


その言葉に愕然とした様な目を向けるアイリ、そして巨漢の接続者は続ける


「オレは接続者だ、つまり強者って事だぁ。オレにはお前らを好き放題にする権利がある。なのにあのガキは歯向かった、弱いくせにオレに歯向かった。だからぶっ殺してやった」

「お兄ちゃんが・・・死んだ・・・・?」

「あ~そうさぁ~、なるべく苦しんで死ぬ様に潰しておいたからなぁ~。今頃はとっくにくたばってるはずだぜぇ~」


そう言ってゲラゲラと笑う巨漢の接続者

アイリは鉄格子を掴んだまま顔を伏せると茫然と地面を見つめる、そして・・・


「・・・してやる・・・」

「あぁ~?」


アイリが顔を上げて巨漢の接続者に視線を向ける


「殺してやる・・・!お前達全員・・・!殺してやる!!!」


そこに宿っていたのは憎悪

おそらく彼女が初めて宿したであろう、黒い黒い衝動

涙を流しながらも激しい憎悪を向けるアイリに、巨漢の接続者は舌なめずりをする


「・・・なあ。コイツ、オレにくれよ」


その言葉にリーダー格の男が答える


「さっきの話聞いてたか?コイツラは売り物だって言ってんだろ」

「一人くらいいいじゃねぇか~。コイツみたいな奴を無茶苦茶にして壊すのがいいんだよ~」


その言葉にリーダー格の男は心の中で舌打ちをする


(クソッ・・・ツイてねぇ・・・!街のチンピラから「組織」のメンバーになり、現場を任されるぐらいまで上り詰めたってのに。任されたのはよりにもよって東京、しかもそこでガキ攫いだ。挙句の果てに、暴力要員としてあてがわれた接続者がこんな頭の悪い男だ、ツイてねぇ・・・)


そして、下卑た笑みでアイリを見つめる巨漢の接続者に視線を向ける


(接続者になると凄い力が手に入るって言うが、どうやら頭の中身と品性は手に入らないらしい。どっちが変態だ、この異常者め・・・)


そう思いながら、今度はアイリの方へ視線を向ける


(だがこの馬鹿も接続者には変わりない、下手に機嫌を損なえば俺の命が危うい・・・。ガキ一人で済むなら・・・)


考えをまとめると、リーダー格の男は巨漢の接続者に答える


「分かった、好きにしろ」

「おお!サンキューリーダーさんよぉ~!」


そして、リーダー格の男は倉庫の外に向かって叫んだ


「おい!誰か!檻の鍵を持ってこい!」


それは十分、外に響き渡る大声だった。しかし・・・


・・・・・・


外は全くの無音、静寂そのもの

誰もリーダー格の男の声に答えない


「あ?なんだ・・・?おい!誰かいねーのか!?オマエら!」


なおもリーダー格の男は叫ぶが、やはり返答は返ってこない。その時・・・


コッ・・・コッ・・・


静寂に包まれた倉庫の中に、ブーツの足音が響く・・・

そして倉庫の入り口、外の闇から溶け出す様に一人の男が現れた


「なんだテメェ・・・?」


そう問いかけるリーダー格の男

だが黒いコートにフードを目深に被った男は、その問いには答えず別の言葉を返す


「他のヤツらならもういない・・・」

「何・・・?」

「全員外で眠っている。ただし、もう二度と目覚めない眠りだがな・・・」


そう答える男の両手に握られているのは拳銃

そしてその拳銃の先に付けられていた銃剣から、赤い液体がポタりと滴り落ちる


「まさか・・・!全員殺ったってのか・・・!?」


男の雰囲気にただならぬ物を感じ、リーダー格の男が後ずさる!しかし・・・


「へぇ~。やるじゃねぇか」


巨漢の接続者はニヤニヤと笑いながら、黒コートの男の前に立ちはだかる。その時・・・


「聞こえるか?「13」」


黒コートの男、13の耳に取り付けられていた小型通信機に通信が入る


「ああ。映像は届いているな?」

「見えている。ソイツが例の・・・ユウヤを殺した接続者だな」


現場から数キロ離れた車内から、13の服に取り付けられたカメラの映像を確認する冬香


「さて、どうする?命令は先程までと同じか?」


そう静かに問いかける13に冬香はゆっくりと、しかしハッキリとした声で命令を告げた


「ああ・・・。殺せ、13」


その言葉を聞いた13は、両手の拳銃を構え戦闘態勢に入る!


「・・・了解。当該対処の殺害許可を受諾。「NO.13」暗殺開始アサシネイションスタート


そして夜の埠頭に、死神が降り立つのだった!






ダンッ!ダンッ!!!


戦闘を開始した13が巨漢の接続者に向かって銃弾を放つ!しかし!


「あぁ~?なんだそりゃあ?」


巨漢の接続者が呆れた様な声をあげると同時に!


バスッ!


男に向かって放たれた銃弾が、突然地面へと軌道を変えコンクリートにめり込む!


ダンッ!ダダンッ!!!


だがそれに構わず、13は距離を取ったまま銃弾を連射する!


「おいおいふざけてんのかぁ?銃なんて接続者に通じるわけないだろぉ~?」


バスッ!!!


だがやはり、13の放った銃弾は全て地面へと軌道を変える!


「・・・なら、これならどうだ」


その時!13は左手の銃の照準を巨漢の接続者に向け、右手の銃の照準を後ろの機材に向ける!そして!


ダダンッ!キィィンッ!!!


右手の銃の弾丸が機材に当たり跳弾!巨漢の接続者の真後ろから迫り!

同時に!左手の銃の弾丸が正面から挟みこむ様に襲い掛かる!だがしかし!


「だからぁ~、無駄だっての」


二つの弾丸が同時に地面にめり込む!

13の放つ銃撃は巨漢の接続者に対して全くダメージを与える事が出来ない!


「接続者に銃は効かない、常識だろぉ?それよりその銃の先に付いたナイフで斬りかかってきた方がいいんじゃないかぁ~?」


そう言いながらじりじりと間合いを詰める巨漢の接続者

そして、接近戦の間合いに飛び込もうとした瞬間!


タンッ・・・


「あぁ~?」


13はバックステップで間合いを離すと、再度銃撃を仕掛ける!


「おいおい腰抜けかぁ~?いくらやっても無駄だって分からないのかぁ~?」


無意味な銃撃を繰り返す13に対し、馬鹿にした様な視線を向ける巨漢の接続者

だがその時・・・


「どうだ?冬香」


銃撃を続けながら、13が通信機に向かって呟く


「ああ、データは取れた。ヤツの能力はお前が「見た」とおり、「重力グラビティ」だ。効果範囲は自分を中心に約2メートル、真後ろからの攻撃も防いだ事から、おそらく自分の周囲に目に見えない重力バリアの様な物を張っているんだろう」


13から送られてくる様々な戦闘データを次々と処理しながら、冬香が答える


「能力適正はC。しかしヤツの能力は飛来する銃弾を一瞬で地面に沈める程凄まじい物だ、射程範囲に捉えられれば一瞬で「潰される」ぞ」


ユウヤを地面に押しつぶし、骨と内臓を砕いた能力

迂闊に飛び込めば、13も一瞬で致命傷を負うのは間違いない

しかし、その冬香の言葉に13は冷静に答える


「ああ。だが能力が割れている以上、問題はない。ヤツを殺る方法はいくらでもある」

「なら、あと3分で殺せ」

「1分で十分だ」


冬香の言葉にそう答えると、13は右手の拳銃を腰のホルスターに仕舞い

右手の手のひらを巨漢の接続者に向ける!そして!


ガシャンッ!


「な、なんだぁ!?」


義手である右手の手のひらから砲門が現れると、13はそこからグレネード弾を発射した!

そのグレネード弾は巨漢の接続者の手前の地面に着弾する!それと同時に!


バシュゥゥゥッ!!!


周囲が煙に覆われた!

13が放ったのはスモークグレネード、煙幕弾だった!


「チクショウ!?何も見えねぇ!!!」


煙に覆われ、視界が遮られた巨漢の接続者!その時!


ダダンッ!!!


銃声が鳴り響くと同時に銃弾が巨漢の接続者に襲い掛かる!

全く見えない場所からの銃撃!だがしかし!


「こんな小細工でどうにかなると思ってんのかぁ~!?」


バスッ!


やはり銃弾へと真下へと軌道を変え、地面に一つのひび割れを作る!

そして次の瞬間!


「うおらぁぁぁぁっ!!!」


ドゴォォォッ!!!


巨漢の接続者は地面に思いきり拳を叩きつけると、その爆風で一気に煙幕を吹き飛ばす!


「くっ・・・!」

「そこかぁ~!?」


煙幕を吹き飛ばし13の姿を捉えた巨漢の接続者は13に向かって猛然と突撃!

13を能力の範囲内に捉えようとする!しかし!


バッ!!!


間一髪!

能力の範囲内に入る前に13はこれを回避する!だがその時・・・!


トッ・・・!


「ッ!?」


13が回避し背にしたのは倉庫の壁

巨漢の接続者の突撃を回避した13は、倉庫の隅に追い詰められていた!


「へっへっへ・・・、袋のネズミってやつだなぁ~」


追い詰められた13に対し、巨漢の接続者がニヤニヤと笑いながら悠々と近づいてくる

そして13を能力の範囲である2メートル圏内に捉えようとした、その時・・・!


「ああ、少し待て」

「あぁ~?」


唐突に13は銃をホルスターに仕舞うと、巨漢の接続者に向かって手のひらを向ける

そして13は通信機に向かって言った


「時間は?」

「あと3秒だ。2・・・1・・・」


そして・・・!


「ゼロ」


そう13が呟くと同時に・・・!


バスッ!!!


「・・・へ?」


巨漢の接続者の頭を一発の銃弾が貫いていた!

頭を撃ち抜かれ鮮血を飛びちらせながら、朦朧とする意識で巨漢の接続者が呟く


「な・・・なんで・・・?どこから・・・?」

「あそこだ」


そう言って13が指し示したのは倉庫の天井についた窓ガラス

そこにあった「二つ」の弾痕だった


「一発目はさっき俺が撃ち抜いた時の物。二発目は今、真上に撃った銃弾が戻ってきた時の物だ」


そう、13が煙幕弾で視界を塞いだ瞬間・・・


(ダダンッ!)


13は巨漢の接続者に向かって一発、そして同時に真上に向かって銃弾を放っていたのだ


「時間はピッタリ。後はお前が弾が落ちてくるそこに立つ様誘導すればいい」

「でも・・・オレには能力が・・・」

「お前の能力「重力」・・・」

「・・・!?」

「横からの攻撃は全て防がれる、なら真上から攻撃すればいい。重力は上から下にかかるんだからな、単純な話だ」

「なんで・・・オレの能力が・・・」


自分の能力が見破られていた事に衝撃を受ける巨漢の接続者

構わず13は続ける


「お前の能力はすでに「見ていた」。ユウヤの記憶に残っていたお前の能力をな」


ユウヤが最後に伝えた記憶

13の「接続」で読み取った記憶には、巨漢の接続者の能力も含まれていたのだ


「あのガキが・・・」

「後悔する必要も詫びる必要もない、そんな物はユウヤも求めていない」


そして次の瞬間!


ダンッ!!!


「ただ死ね。虫けらの様に死ぬのがオマエ達にはお似合いだ」

「・・・ぁ~」


能力を発動する間もなく脳天を撃ち抜かれた巨漢の接続者が崩れ落ち、そして息絶えた


暗殺終了アサシネイションオーバー






「さて・・・これで接続者の方は片付いたな」


巨漢の接続者の死亡を確認し戦闘態勢を解除すると、13は倉庫を見回し・・・


「後はコイツだけか」

「ヒッ!!!」


倉庫の隅に居たリーダー格の男の方へ視線を向けた

黒フードの隙間からのぞく仮面ごしに、凄まじい圧力が放たれる

そして13はゆっくりと右手の銃を男に向ける、だがその時!


「ま、待ってくれ!助けてくれ!俺を助けてくれたら情報を話す!」

「何?情報だと?」

「俺達はただの人攫いじゃない!ある「組織」の命令をうけてる!俺を助けてくれたら「組織」の情報を話す!だから命だけは助けてくれ!」


そのリーダー格の男の言葉に、13は通信機に向かって呟く


「だそうだが・・・どうする?」

「確かに・・・コイツらがただの末端の構成員なのは分かっていた。潰した所で大元を叩かなければ大して意味はない」


ここでリーダー格の男を殺した所で、「組織」は別の人間に人攫いの仕事を続けさせるだけだろう

そうなれば、アイリ達はまた危機にさらされる事になる


「・・・大元を叩く為にも情報は必要だ」

「そうだな・・・」


そして、男に向けていた銃をゆっくりと下ろす13。だが・・・その時!!!


「・・・せない」


呟く様な声、それは倉庫の隅の檻の中から聞こえてきた


「許せない・・・!お兄ちゃんを殺して・・・みんなを苦しめて・・・自分だけ生き残ろうとするなんて・・・!絶対に許さない!!!」


年端もいかない少女の物とは思えない程の殺気を放ちながら、鉄格子を握りしめるアイリ。その時・・・!


「殺してやる・・・!絶対に殺してやる・・・!!!!」


ミシィ・・・!ギギィ・・・!!!


アイリが握りしめていた鉄格子が音を立ててねじ曲がっていく!


「なっ!?あの力!!!まさか・・・!」


鉄格子を破壊しようとするアイリに、13が驚愕の声を上げる!そして!!!


「お兄ちゃんの仇!!!殺してやる!!!!!」


バキィ!!!


鉄格子を破壊しアイリが!

「接続者」となったアイリが!その殺意を周囲に解き放った!!!

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