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トーキョー・アサシン 隔離都市東京特別治安維持課  作者: 三上 渉
第二章:少年の願いと少女の未来は暗い闇の中に
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託される願い


一週間後

ユウヤはビルの屋上で仰向けになりながら、ぼんやりと空を眺めていた


ガチャンッ


その時、屋上のドアが開く音がすると妹のアイリがやってくる


「お兄ちゃん?こんな所に居たんだ」

「あー・・・」


アイリの言葉に、空を眺めたまま生返事を返すユウヤ

アイリはユウヤの隣に座ると問いかける


「あの事考えてたの・・・?」


あの事、それはもちろん一週間前に出会った二人の事

暗殺者になるか?と言われた事だ


「アイリは、やっぱり反対か?」


と、ユウヤはこの一週間、毎日の様にしてきた質問をする


「・・・うん。お兄ちゃんが人殺しになるのは嫌だな・・・」


そして、アイリの答えも変わらない、一週間の間ずっと同じ返答を返している

だが、ユウヤはぼんやりと空を眺めたまま続けた


「あの時の二人・・・多分にーちゃんの方が暗殺者なんだろうな・・・」

「うん。そうだと思う・・・」

「アイリはあの人達の事、どう思った?」

「えっ?」


それは、この一週間の間で初めての質問だった

予想外の質問に、少し考えながらアイリは答える


「・・・良い人達だと思う」

「だよな、俺もそう思う。財布盗んだのはこっちなのに、俺達の事考えてくれて。あんな大人は初めて見た・・・」

「そうだね」


少し微笑みながら答えるアイリ、しかし・・・


「でも・・・あの人達も人殺しをするんだよな」

「それは・・・」


言葉を詰まらせるアイリ

それはアイリ自身、ユウヤの言葉が真実だと言う事を理解していたからだ

その時、ユウヤは起き上がるとアイリに向かって言う


「アイリが言う通り、俺も人殺しをするのは嫌だ。けど、にーちゃんやねーちゃんみたいな大人にならなってもいい」

「お兄ちゃん・・・」

「アイリは嫌がるかもしれないけど。それでもオレは、皆を助ける為にそれが最善の方法だと思う」


そう、決意した様な声で告げるユウヤ


「俺は暗殺者になる・・・!」


この時、少年は自分の進む道を自ら決定したのだ。しかし・・・


「嫌だよ・・・」

「アイリ・・・」

「それでも・・・私は嫌ッ!」


そう叫ぶと、アイリは走ってその場を去って行ってしまった

ユウヤはその場に立ち尽くしたまま、それでも決意のこもった眼差しで空を見つめていた






その1時間後、冬香と御音はいつもの喫茶店で待ち合わせをした後

ユウヤ達に会うべくグラウンド・ゼロ外縁部を歩いていた


「なあ、御音」


その時、先行する御音の背に冬香が語り掛ける


「お前、この辺りの地理に詳しいのか?歩き慣れている気がするが」

「まあ、そうだな」

「なあ、もしかして・・・。以前、自分の事を孤児だったって言ってたが・・・それはつまり・・・」


言葉を濁す冬香に対し、御音がハッキリと答える


「ああ、俺も路上孤児の一人だった」

「そうか・・・」

「物心がついた頃にはすでに路上暮らしだった。アイツらと同じ様に、その辺の建物から食料を探し出して生き延びてきたって訳だ」


御音のユウヤに対する厳しい態度

もしかしたら、御音は過去の自分をユウヤに重ねていたのだろうか?


「じゃあユウヤと同じ様に、御音も誰かにスカウトされて暗殺者になったのか?」


そう問いかける冬香に、御音が答えた


「いや。俺は暗殺者じゃなく、施設に・・・」


とそこまで言いかけた所で、御音はピタリと足を止める


「御音?」


突然足を止めた御音に対し、不思議そうに声をかける冬香

そんな冬香に対し、御音は緊迫感の籠った声で呟いた


「血の匂いだ・・・」

「何っ・・・!?」

「先行する・・・!」


バシュッ!


そう言うと御音は右手の義手からアンカーを飛ばし、一瞬で近くのビルの屋上へ移動する!


「お、おい!御音!」


そして冬香が止める間もなく、飛び去っていってしまった


「一体何が!?とにかく私もユウヤ達の所に!」


そう叫ぶと、冬香も御音の後を追いかける

そしてユウヤ達が住んでいる街にたどり着く冬香だったが・・・


「な・・・なんだこれは!?」


冬香の目の前に広がっていたのは、以前よりも更に崩壊した街並み

砕かれたビルの外壁に、何か凄まじい力で叩きつけられたと思われるコンクリート上のクレーターと血痕

明らかに、ここで激しい戦闘が繰り広げられたと思われる痕跡だった


「御音は!?ユウヤ達は何処だ!?」


地面にあった血痕を追っていく冬香!

そして路地を曲がった先にあった姿は、地面に座り込む御音・・・


「御音!」


そして・・・


「ねー・・・ちゃ・・・」


血まみれになって倒れていたユウヤの姿だった


「ユウヤ!一体何が!?」


すぐさまユウヤに駆け寄るとそう問いかける冬香。しかし・・・


「ねー・・・ゴハッ・・・!」


ユウヤはそれに答える事が出来ず、口から大量の血を吐き出す

その時、御音が冷静な声で告げる


「無理だ。肺がやられている」

「なら今すぐ病院へ!」

「・・・それも無理だ」

「なっ・・・!?」


それはつまり、手遅れだという意味

この少年は間もなく、死に至るのだ


「アイリ・・・みんな・・・が・・・ガハッ!!!」


だが、少年は必至に何かを伝えようと口を動かす。その時・・・


「大丈夫だ。喋らなくていい」

「・・・?」


御音は少年にそう告げると、その右目を少年に向ける


「俺の眼を見ろ」


その時!御音の右目が紫色に発光する!

そして御音は能力を発動させた!


接続リンク!」






1時間前、屋上からアイリが去っていった直後!


「キャー!!!!!」

「ッ!?」


ビルの下の方から聞こえてきた叫び声にユウヤが駆け出す!

そしてビルの隙間の外壁を蹴りながら一気に下へ飛び降り!

ユウヤが目にした物は・・・!


「誰か!助けてーーー!!!」

「いいからこっちに来い!」


子供達を無理やり連れ去っていこうとする人攫いの集団だった!


「おい!手荒に扱うなよ!そいつらは大事な商品なんだからな!」


集団のリーダー格と思われる男がそう叫ぶ、その時・・・!


「こっちにも一人居たぜ!」

「放して・・・!」

「アイリ!!!」


男に腕を掴まれ引きずられてきたのは、アイリの姿だった!そしてその瞬間!!!


「アイリから手を離せェッ!!!!!」


激昂したユウヤがアイリの手を掴んだ男に向かって殴りかかる!


「あ?なんだ・・・!?」


ドガッ!!!


「ごえっ!!!」


男が振り向くと同時に!ユウヤの拳が男の顔面に突き刺さり、男を吹っ飛ばす!

男はビルの外壁に叩きつけられるとそのまま気絶した!


「お兄ちゃん!」

「アイリは下がってろ!」


座り込むアイリにそう声をかけ、他の男達に向かって戦闘態勢に入るユウヤ!


「な・・・!?なんだこのガキ!」

「取り押さえろ!!!」


複数の男がユウヤに向かって掴みかかる!だがしかし!


ドゴォッ!!!


後ろから掴みかかってきた男の腹に蹴りを食らわせると!そのまま正面の男達も一瞬で殴り倒す!


「このガキつええ!まさか接続者か!?」

「妹に・・・!皆に手を出す奴はオレが許さない!!!」

「野郎!!!」


その時!男達の一人が銃を取り出し構える!だがその瞬間!


キィィンッ・・・!


男の視界が一瞬歪むと、次の瞬間!

ユウヤの姿が男の視界から消え去っていた!


「ど、何処行った!?」

「後ろだよ!!!」


ドガアッ!!!


遅延ディレイ」を使い後ろに回り込んだユウヤが思いきり男を蹴りとばす!


「くそっ!撃て!!!」


パンッ!!!パンッ!!!


周囲の男達も銃を抜き、ユウヤに向かって発砲する!

しかし!それらの銃弾は一発もカスリもせず、ユウヤの後方へと消えていく!


「だ!駄目だ!!!接続者相手に銃なんかじゃ話にならねえ!!!」


圧倒的な強さのユウヤに対し、男達に動揺が走る!しかし!


「狼狽えるなテメーラ!!!」


リーダー格の男が周囲の男達を一喝する!そして・・・!


「おい!仕事だ!」

「あ~?仕事~?」


リーダー格の男が、後ろの車で眠っていた男に向かって叫ぶ!


「そうだよ!相手は接続者だ!お前の相手だ!!!」

「めんどくせえなぁ~・・・」


そうぼやきながら男が車から出てきた

身長は2メートルはあるだろうか

縦の大きさも相当だが、横にも大きい巨漢の男だ


「何だぁ?ガキじゃねーか?」

「油断するな!そのガキもお前と同じ接続者だ!」


そのリーダー格の男の言葉に、ユウヤに緊張が走る!


「接続者・・・!」

「まあいいか、さっさと済ませちまおう・・・」


そう言ってニヤリと笑うと、巨漢の男がユウヤの正面に立ちはだかる!


「くっ・・・!」


今まで人間相手なら負けた事はない

だが同じ接続者であるなら・・・!


(いや!オレが皆を守るんだ!!!)


そう強く決意すると!ユウヤは巨漢の男を睨みつけ・・・!


「だああああっ!!!」


ユウヤは男に向かって飛び掛かっていった!

そして・・・次の瞬間・・・!


ゴシャッ!


「ほい、おしまい」

「あっ・・・?」

「ッ!!!お兄ちゃん!!!!!」


一瞬で決着は付いていた

「能力」により全身の骨と内臓を砕かれ、地面に伏せるユウヤ


「チッ・・・。よし、いくぞ!お前ら!商品を車に積め!」

「お兄ちゃん!!!お兄ちゃん!!!!!」

「アイ・・・リ・・・」


そしてアイリと子供達を車に乗せると、男達はユウヤをその場に残して去っていく

ユウヤはずるずると地面を這って後を追いかけるが

しばらくすると力尽きる、しかし・・・


(伝えないと・・・)


最後の気力を振り絞り意識だけを保つ


(せめて・・・あの人達に伝えないと・・・)


それだけを頼りにユウヤは待ち続けた

自分の代わりに皆を救ってくれる「暗殺者」を・・・






「ぐっ・・・!」


接続を終え、苦し気に顔を歪ませる御音!


「御音!」

「平気だ・・・」


冬香を手で制すと、御音はユウヤに向かって声をかける


「安心しろ。お前の妹も他の子供達も俺が助ける」


その言葉を聞くと、ユウヤは少しだけ微笑み


「あり・・・が・・・」


そして・・・そのまま息を引き取った


「ユウヤ!!!くそっ!!!」


拳を地面に叩きつけると、顔を伏せ涙を流す冬香

そんな冬香に対し、御音はスッと立ち上がり告げた


「行くぞ冬香、仕事だ」

「仕事・・・?」

「相手は接続者。なら俺達がやる事は一つだけだ」

「・・・ああ、そうだな」


その言葉を聞くと冬香は涙を拭い、ユウヤの遺体を抱き上げながら言った


「「暗殺シゴト」の時間だ「13」・・・!」

「了解・・・」


そして少年の願いを胸に、暗殺者はその殺意を暗く光らせていくのだった

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