監査官の戦い
「コイツは・・・接続者だ」
そう言って冬香と少年の間に立ちはだかると、13は構える
「接続者・・・!?こんな子供が・・・!?」
13の言葉に思わず驚きの声を上げる冬香
少年はおそらく10歳かその辺りの年齢だろう
ボロボロの服に黒い短髪、ギラついた野性的な瞳、敵意をむき出しにしてまるで獣の様な雰囲気を放っているが
それでも、まだ顔立ちは幼い子供に見えた
だが、13は少年から視線を外す事なく冬香に告げる
「接続者に年齢も性別も関係ない、油断するな」
その言葉に少年はニヤリと笑うと、13に向かって喋りかける
「へえ?分かってるじゃん。子供だと思って甘く見ると、痛い目見るぜ!」
ドンッ!!!
その言葉と同時に!
少年は凄まじい速さで13に向かって踏み込み拳を振り上げる!
(子供にしては速いな・・・だが)
しかし、戦闘のプロである13にとっては何の事もない攻撃
13は冷静にその拳を紙一重で回避しようとするが・・・!
ドガッ!!!
少年の拳が13の顔面に直撃する!
「ッ!?」
何が起こったか分からず動揺する13!
だが一瞬で意識を切り替えると次の攻撃に備えて構える!しかし!
ドゴォッ!!!
13の防御をかいくぐり、またもや少年の攻撃が13に直撃した!
「ほらほら!まだまだ行くぜ!!!」
「くっ!」
不可思議な少年の攻撃に成すすべなく防戦一方の13!だが!
(なんだ・・・これは?まさか・・・能力か・・・?)
防御に徹しながらも、13は冷静に敵の分析を行っていた・・・!
(コイツの攻撃は決して速すぎると言った物ではない、なのに何故か反応が間に合わない・・・。何の能力か?まずはそれを見破る必要があるか・・・)
反撃の糸口をつかむ為、ひたすらに少年の攻撃を防御して耐える13!
「どうした!?にーちゃん!?その腰の物は抜かないのかよ!?」
少年が攻撃を続けながら、13の腰のホルスターを目で示す
「素手の子供相手に銃を抜く必要はない」
だが13はそう答えると、素手のまま防御の構えを取る
「やられっぱなしでよく言うよ!だったら遠慮なく攻撃させてもらうぜ!死んじゃう前に降参しろよ!?」
そして少年の攻撃が更に激しくなっていった!その時・・・!
「御音があんな子供に押されているなんて・・・!?」
冬香は目の前の光景が信じられないと言った様子で驚愕し呟く
「だが・・・」
その時、冬香は数日前の安栖との会話を思い出す・・・
「戦闘時の監査官の役割かい?」
「はい。13の監査官でもあった安栖研究主任ならばよくご理解しているでしょうし、何かアドバイスを頂けたらと・・・」
御音とレンが戦っていた時、監査官である自分は何も出来なかった
だからこそ、次は監査官としての職務を全うするべく、冬香は安栖に助言を求めに来たのだ
「そうだね・・・、敵接続者の分析や暗殺者のバイタルの確認。他にも色々あるけど・・・」
安栖はそこで少し考え込むと、一拍置いてから告げた
「何と言っても、対接続者戦で重要なのは・・・」
数日前、安栖が告げた言葉を思い出す冬香
(対接続者戦で重要なのは、敵接続者の能力を見破る事)
そう、戦闘において一番の懸念要因とは「未知」だ
「未知」という不確定要素は、時として圧倒的実力差を埋めてしまう事もある
接続者同士の戦闘での未知、不確定要素・・・それはつまり「能力」その物の事
(接続者が使う能力ってのは「何でもアリ」だからね、相手が何をしてくるか分からないというのは非常に厄介だよ)
「能力を見破る」という事は、接続者同士の戦闘において生死を分ける程の重要な要素なのだ
(だからこそ、キミが居るんだ。霧生監査官)
冬香はその安栖の言葉を思い出すと
改めて、目の前で戦いを繰り広げている二人の動きに注視する
(確かに・・・接続者だけあって、あの少年の動きは人間離れしている・・・。だが・・・レンとの闘いの時の御音はあんなものじゃなかった、身体能力では完全に御音の方が勝っているはず)
しかし冬香の目に写っているのは、一方的に攻撃を仕掛ける少年と防戦一方の13という逆の光景
だが、その光景に何か違和感の様な物がある事を冬香は感じていた
(何故だ?何故御音はあの少年の攻撃に対応出来ない?攻撃が見えていないわけではないはずだ)
御音の視線は確実に少年の動きを捉え続けている・・・様に見える
(なのに反応が間に合わない。見えているはずなのに、ワンテンポ反応が遅れている・・・)
その時、冬香に一つの疑問が浮かび上がった
(「遅れる」?そうだ・・・御音の行動は「遅れている」んだ・・・)
そう、決して13は反応出来ていないのではない
全ての反応がほんの僅かに「遅れている」のだ
(「何故」遅れる・・・?「見えているのに」遅れる・・・?いや、「見えているから」遅れる?)
そして、まるでパズルのピースが組みあがる様に・・・!
(違う・・・「見せられているから」!御音だけが「見せられているから」遅れる!)
冬香は少年の能力の謎を解き明かした!
そして冬香は御音に向かって叫ぶ!!!
「御音!!!ズレだ!!!」
「何ッ!?」
「お前の「認識」と「現実」が遅延ているんだ!!!」
そう、冬香が解き明かした少年の能力とは「相手の認識を遅らせる能力」!その時!
「なっ!?」
冬香の言葉に、攻撃を仕掛けようとしていた少年が動揺した!そして!!!
「・・・どうやら図星みたいだな」
そう呟くとすかさず!
攻撃を仕掛けてきた少年に向かって13はカウンターを繰り出す!
ブンッ!!!
だがしかし!その一撃は少年を狙った物ではない!
少年よりもほんの僅かに先の空間!だが!
ゴッ!!!
「ぐあっ!!!」
13の拳が少年に直撃!その体を思いきり吹っ飛ばす!
そしてワンテンポ遅れてから・・・
「どうやら当たったみたいだな」
13は少年に攻撃が当たった事を確認し呟いた
「オ・・・オレの「遅延」を見破るなんて・・・!」
カウンターで強烈な13の攻撃を受けた少年は、膝をついたまま呟く
その時、膝をついた少年の前に立った13が彼に向かって言った
「なるほど・・・俺が見せられていたのは「0.5秒前」の光景。俺はずっと「攻撃をされてから」防御しようとしていたわけか、間に合うはずがない道理だ」
少年の能力による感覚のズレ
それは視覚だけにしか効果がなく、効果もたった「0.5秒」という能力としては微弱な物だった
(だが、そのたった「0.5秒」だったからこそ。コイツの能力は脅威だった)
そう、そのほんの僅かのズレだからこそ、13は視覚とそれ以外の感覚のズレに気付かず行動していたのだ
「冬香」
「ん?」
その時、13は冬香の方へほんの僅かに視線を向け
「助かった」
無表情のまま、そう言った
「ま・・・まあ!監査官として当然だ!」
その言葉に視線をそらしながら、少し上ずった声で冬香は答える
そして13は少年に視線を戻すと言った
「さて、まるで未来予知されているみたいで嫌な奴を思い出したが・・・。タネが割れればどうという事はない」
だが、その13の言葉に少年はニヤリと笑う
「おいおい・・・オレの能力がこの程度だと思ってもらっちゃ困るぜ・・・!」
そして次の瞬間!
ギュンッ!!!
まるで瞬間移動をしたかの様に一瞬で少年が13の懐に飛び込み、飛び蹴りを放つ!
「ッ!!!」
だがこの一撃を13は咄嗟に防御する!
「遅延」を警戒していたからこそ、13の防御が間に合ったのだ!
「よく防いだなにーちゃん!けど次の攻撃は防げるかな!?」
そう言って13の周囲を走る少年!
その動きは遅くなったり急激に加速したり、不規則に動きまわる!
「今度はランダムか・・・。「遅延」を大きくしたり小さくしたりをランダムに繰り返して、まるで瞬間移動したりスローモーションになったり見せている」
「そうさ!この軌道なら読めないだろ!?」
そう叫ぶと少年は13に飛び掛かる!だがその時!
「言ったろ?タネは割れている」
13はそう呟くと、続けて言った
「外部電脳起動・・・接続」
その言葉と同時に13の右腕に取り付けられた外部電脳が一瞬で起動!
外部電脳に取り付けられたチップから13の脊髄に埋め込まれた受信機を通して、能力が13の脳にダウンロードされる!そして!
「発火能力!」
ゴオッ!!!
「なっ!?炎!?」
13の左手から放たれたのはレンの能力!
それは少年の周囲を全て覆う様に放たれた!
「くっ!!!」
咄嗟に炎を防御する少年!だがその瞬間!
「捉えた」
少年の動きが止まった瞬間!炎を突っ切って13が少年に掴みかかる!
「俺の能力適正じゃレンの様な強力な炎は出せないが、めくらまし程度にはなったろう?そして・・・!」
グイッ!!!
13はそのまま少年の腕を取ると捻り曲げ、そのまま地面に押さえつけた!
「これで「遅延」も意味がなくなったな」
「ぐあぁぁぁ!!!」
関節を取られた状態で完全に動きを封じられている少年
「くっそお・・・!!!」
「暴れても無駄だ、腕が折れるぞ」
こうなれば能力は関係ない、13と少年の身体能力差は歴然
この状態から少年が逆転する目は、ほぼ皆無だと言っていいだろう。その時・・・
「さて・・・どうする?冬香」
「な・・・何?」
13は少年の動きを封じたまま冬香に言った
「分かっているとは思うがコイツは接続者だ。そして、俺達が接続者に行う処理は一つしかない」
その時、組み伏せられた状態のまま少年が問いかける
「アンタ達・・・警察じゃないのかよ・・・?一体何者なんだ・・・?」
「俺達は東京特別治安維持課、つまり暗殺課だ」
「暗殺課・・・?」
「そうだ・・・お前達接続者を殺す為の組織だ」
「ッ!?」
13の言葉に顔を青ざめる少年
だがそれを意に介した様子もなく、13は冬香に再度問いかけた
「どうする?お前が命令しろ」
「そ・・・それは・・・」
接続者を殺す
それが暗殺課であり、暗殺者と監査官の任務だ
例え相手が子供だろうとそれは変わらない
(命令するのか?この子を殺せと、私が御音に命令するのか・・・?)
体中が震えているのを感じる、動揺が思考を鈍らせる
そして、まるで絞り出すかの様に声を出した
「わ・・・私は・・・」
そして冬香が次の言葉を続けようとした、その瞬間!
「待って!!!!!」
背後から聞こえてきた声に13と冬香が振り向く
「お兄ちゃんを・・・!お兄ちゃんを離して下さい!!!」
そこに立っていたのは、少年とあまり歳も変わらないであろう少女だった




