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トーキョー・アサシン 隔離都市東京特別治安維持課  作者: 三上 渉
第二章:少年の願いと少女の未来は暗い闇の中に
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爆心地の少年


20年前、接続者の出現により突如として変貌した東京

しかし現在、人々はまるで何事もなかったかの様に往来を行き来している

時刻は午後2時ごろ、まだ日も高く明るい時刻

新宿繁華街は、普段と変わらぬ平穏を見せていた。その時・・・


「次のニュースです・・・」


繁華街の大型ビジョンに、女性のニュースキャスターの姿が映し出される

そして彼女は、落ち着いた声でニュースの原稿を読み上げ始めた


「先日、渋谷区の中学校跡地で発生した火災について、警察は接続者の関与があった事を発表しました」


映像が切り替わり、警察の上層部の人間が会見を行う姿が映し出される


「29日の未明に発生した火災ですが、この火災は接続者によって引き起こされた物と判明致しました。ですが、既に脅威の排除は完了しており、都民の皆さまにおかれましては、これまで通り安心して生活していける様・・・」


その時、大型ビジョンを見上げていたスーツ姿の男の一人が口を開く


「安心って言ったって、接続者が一匹死んだだけだろ?」


その言葉に、男の連れが返事をする


「だよなぁ。接続者が少しぐらい減った所で、どうせまた増えてくるし」

「俺達一般市民の暮らしは危険なままだって事、警察は分かってねーんだろ」


そして彼らは大型ビジョンから目を離し、その場から歩いていく。その時・・・


「・・・」


二人組の横を通り過ぎていく、フードを被った白髪の青年の姿があった

彼はそのまま、大型ビジョン前の広場の端の方へ歩いていくと

大型ビジョンを見上げていた女性に話しかける


「待たせたか?」


彼の言葉に、女性は一応時計を確認しつつ返事をした


「問題ない。私が早く来ていただけだ」


いつも通り、待ち合わせ時間ピッタリに現れた青年にそう答えると

長い黒髪を後ろで纏めたポニーテールにパンツスーツ姿の女性、「霧生冬香」は大通りの方へ歩いていく


「行くぞ。御音」

「了解」


そしてフードを被った白髪の青年

十塚御音こと、暗殺者「13」もその後に続いていった






レンの一件から数日後、冬香と御音は新宿の繁華街を歩いていた

辺り一帯を見回しながら、時に聞き込みを交えつつ繁華街を歩く冬香に

御音はやや距離を開け、周囲を警戒しながら付いていく。しばらくして・・・


「ふう・・・」


道の端の方で休憩する冬香に、御音が目立たぬ様に話しかける


「冬香」

「何だ?」

「さっきから気になっていたんだが、冬香は何をやっているんだ?」


その言葉に少し不思議そうにしながらも冬香は答える


「何って、情報収集だろ?」


当然の事の様に答える冬香に、御音はやや困惑しながら更に質問をする


「まあ・・・それはそうだが。こんな事をするより、本部に送られてきた情報を精査した方が早いんじゃないのか?」


御音の疑問はもっともだった

何十年前の刑事ドラマならばともかく、2038年の現代に於いて冬香の行動は非効率としか言いようがない。しかし・・・


「もちろんそっちの方もやる。だが、情報は足で稼げって言うのが父の言葉だ」


その言葉に僅かに反応を見せる御音


(父・・・。接続者に殺されたという父親の事か・・・)


そして御音は更に質問を続ける


「もしかして、冬香の父親は警察官だったのか?」

「ああ。私と同じキャリアで、10年前の当時は東京警察本部の本部長を務めていた。そのくせ変なドラマの見すぎで、やたらと現場に拘るおかしな人だったよ」


少しだけ思い出し笑いしながら、冬香はそう答えた


「それで「足で稼げ」か?」

「情報収集としては非効率的だ、だが・・・」


そう言うと冬香は、辺りを行きかう人々を眺めながら呟く


「私は今までデータだけで、数字だけで知ったつもりになっていた。ここで本当は何が起こっていたのか、全く理解していなかった・・・」


それは後悔だ

その後悔はこれからも冬香の心を蝕み、恐らく一生切り離す事は出来ない物なのだろう、だが・・・


「だが、同じ失敗を繰り返すつもりはない。今度こそ・・・私は・・・」


その後悔よりも強い決意で、そう告げる冬香

それに対して御音は・・・


「まあ、冬香の好きにやればいい」


いつも通り興味ないと言った風に答えた。だがその時・・・


「むう・・・」


冬香は何やら不服そうな顔で御音を見つめていた


「・・・?どうした?」

「いや・・・」


御音が問いかけるも、冬香はしかめっ面を浮かべたまま視線を逸らすだけだった

その時、御音から視線をそらし冬香が考えていた事は・・・


(「冬香」だと!?さっきから気になっていたが、いつの間に呼び捨てになっているんだ!?)


という、割とどうでもいい事だった


(ここは年上としてビシっと言ってやるべきか?だが・・・)


その時、冬香は先日までの自分の行動を思い返す


(ぐう!駄目だ!とてもじゃないが今更威厳ある行動なんて見せられない!むしろこの数日で、これ以上ないくらい、一生分のみっともない姿を見せた気がする!)


そう考えながらチラリと御音の方を伺うが・・・


「・・・何だ?」


御音の方はいつも通り、全く何を考えているか読めない


(何でコイツは年下のくせに、いつも達観した様な振る舞いをしていられるんだ!?・・・というか、いや待てよ?)


その時、冬香の脳内に一つの疑問が浮かび上がった


(コイツ、本当に年下か?そう言えばハッキリと聞いた事はなかった。見た目から年下だと思い込んでいたが、もしかしたら凄い童顔の年上の可能性もある・・・)


そんな事を考えながらチラッ、チラッと御音の様子を伺う冬香。そして・・・


「なあ、御音」

「何だ?」

「お前、歳はいくつなんだ?」

「は?」


唐突に冬香の口から出た意味の分からない質問

御音はわけが分からないと言った様子で眉をひそめるが


「どうなんだ・・・?」


冬香の方は至って真面目な様子で御音を見つめていた

そんな冬香に対し、御音は・・・


「さあな」


と答えた


「お、お前!」


すかさず声を荒げようとする冬香だったが、それを御音が遮る


「落ち着け、答えたくないという意味じゃない」

「・・・?じゃあ、なんなんだ?」


首をかしげる冬香に対し、御音はフーッと一つ溜息をつくと答えた


「俺は孤児だったからな。自分の生まれた日は知らない」

「そ・・・そうだったのか・・・」


なにやら予想以上にショックを受けている冬香に、御音はいつも通りの冷静な口調で言う


「出生記録も残っていないらしい。恐らく18年前、東京に接続者が出現した頃のゴタゴタで失われたんだろう。だから、今は多分19か20ぐらいだな」

「・・・じゃあ、今までどうやって生活を・・・?」


と、冬香が御音に問いかけようとした瞬間・・・

スッと、冬香の腰程の身長の少年が足早に真横を通りすぎていった。その数秒後・・・


「おい、冬香」

「どうした?」

「いいのか?」

「・・・?何がだ?それより話の続きを・・・」


首を傾げる冬香に対し、御音は簡潔に一言で答えた


「財布」

「えっ?」


その言葉に冬香は反射的に上着のポケットの中を確かめる

そしてその違和感に気付くと辺りを見渡し、遠くに去っていく少年の背中に視線を移した


「え!?ま、まさか!」


そう冬香が声を上げると同時に・・・!


ダッ!!!


少年は一気に走りだすと近くの路地へ入っていった!


「スリか!?どうしてもっと早く言わないんだ!?」

「財布を盗まれてるのに全く反応がなかったからな。わざとかと」

「そんなわけあるか!!!」


そう叫ぶと、冬香は少年を追い全力で走りだした!






「くっそ!!!なんて速さだ!!!」


路地から路地へ

複雑に入り組んだ路地裏をすさまじい速さで駆け抜けていく少年!

冬香も足の速さには自信があるが、慣れない路地裏での追跡にじょじょに差をつけられていく!

それでも、なんとか視界の端に少年を捉えたまま追跡を続ける冬香!

そして次の路地を曲がるべく駆けて行った!その時!


「待て」


グイッ!


「なっ!?」


突然、後ろから肩を掴まれ引き留められる冬香


「何をする御音!早く追わないと!」


そう言って御音の手を振りほどく冬香だったが


「いいから待て、周りを見てみろ」

「・・・?」


その言葉に冬香が辺りを見渡し、そして思わず驚きの声をあげる


「なっ!?ここは・・・!」


冬香の目に映ったその風景は、先程まで歩いていた繁華街と一変していた

ビルが立ち並び、その間に入り組んだ路地裏という光景は同じだが

冬香の周りのビルの壁にはヒビが入り、窓ガラスは割れたまま放置されている

道路も長年整備されていないのだろう、そこは正に廃墟

同じ東京の姿をしているが、その街は完全に死に絶えた街だった


「この東京には大きく分けて3つのエリアがある、知っているな?」


突然そう問いかける御音に、冬香は冷静に答える


「新宿、渋谷から八王子周辺まで、比較的治安が守られている西エリア。上野、東京、お台場、警察の目が届きにくく、非合法組織やそれに所属する接続者達が闊歩する危険地帯、東エリア。そして二つのエリアを隔てる、霞ヶ関を中心とした旧山手線の内部、中央エリア。・・・20年前、宇宙からゼロ・オリジンが飛来した場所・・・」

「ああ。ここが爆心地グラウンド・ゼロだ」


グラウンド・ゼロ

ありとあらゆる通信、電波の類が遮断され、衛星でも内部を確認出来ない謎に包まれた場所

それだけではなく、その秘匿性を利用し、内部には暗殺者達の手を逃れた凶悪な接続者達が幾人も隠れて住んでいる

未だに復興の目途すら立っておらず、政府に見捨てられた場所

それがグラウンド・ゼロである


「ある意味、ここが本当の「隔離都市・東京」だ。外縁部とは言え、俺達は今そこに立っている」


ゴクリと冬香が喉を鳴らす


「だが、だとすると。さっきの少年は・・・」

「恐らく、この辺りで生活をしているんだろう」


その言葉に口を閉ざし考え込む冬香


「どうする?」


そう問いかける御音に対し、冬香は・・・


「追いかけるぞ」


そう迷いなく答えた


「しかし・・・もう完全に見失ってしまったな。どうするか・・・」


その場に立ち尽くし、辺りを見渡しながらそう呟く冬香。その時・・・


「冬香、俺を誰だと思っている」

「御音?」

「俺は暗殺者だぞ、逃げる子供を追跡するぐらいわけはない」


そう言うと御音は、荒れ果てた路面をじっと見つめる

何の変哲もない地面、だが訓練された御音の視線はそこに残された痕跡を確実に捉えていた


「こっちだ、ここからは俺が先行する」

「あ、ああ!任せた」


そして二人は少年を追って、グラウンド・ゼロ外縁部の道を進んでいった






廃墟と化したビル街の路地裏、そこに先程の少年の姿があった

彼は冬香の財布の中身を確認すると現金だけを取り出す


「へへっ、結構持ってたな・・・。これだけあれば・・・」


そしてニヤリと少年が笑みを浮かべた瞬間!


「ようやく見つけたぞ!」

「!?」


路地裏に響いた声!

そこにあったのは少年が財布を盗んだ女性、霧生冬香の姿だった!


「なっ!?まさかここまで追ってきたのかよ!?なんてしつこい姉ちゃんだ!」


少年は咄嗟に逃げ出そうと周りを見渡すが、そこは丁度袋小路になっており唯一の出口を冬香に抑えられる形となっていた


「とりあえず!私の財布を返せ!それと・・・!」


そう叫ぶと、冬香は懐から警察手帳を取り出し広げた


「子供とは言え、窃盗は窃盗だ!署で話を聞かせてもらう!」

「けっ!?警察!?」


冬香が警察と名乗った事に明らかに動揺する少年


「くそっ・・・!オレは捕まるわけには・・・!」


そう呟きながら俯く少年


「・・・?オイ!聞いているのか!?」


俯く少年に冬香が近づこうとしたその時

少年は近づいてくる冬香に向かって鋭い眼差しを向けた・・・。そして次の瞬間!!!


ギュンッ!!!


一瞬で少年が冬香の目の前に距離を詰めたかと思うと!その拳を振りかざした!


「えっ・・・!?」


その余りに人間離れしたスピードに、冬香は全く反応出来ず立ち尽くしたままだった!


「ッ!?」


そして少年の拳が冬香に振り下ろされようとした!その時!!!


バシッ!!!


突然!少年の視界に現れた黒フードの青年がその拳を受け止めた!


「なっ!?」


咄嗟に後ろに飛ぶ少年!


「嘘だろ!?オ・・・オレのパンチを受け止めるなんて・・・」


動揺する少年の前に立つと、青年はフードを外し冬香に向けて言った


「下がっていろ冬香。どうやらこれは俺の仕事のようだ」


そして黒フードの青年、暗殺者「13」は少年の方へ視線を向ける


「コイツは・・・接続者だ」

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