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4月13日


それはある春の日の事だ

片腕を失い、「4」という暗殺者の元で暮らす様になってから数ヵ月後の事


「戻ったぞー! 「13」~!」


その日の彼女はやけに上機嫌だったのを覚えている


「おかえり、「4」。何かあったのか?」

「ん~? 何がじゃ?」

「何かって・・・明らかにテンションがおかしいだろう」

「クック! そう見えるか? まあともかく座れ」


そう言って彼女は、俺をリビングのテーブルに座らせる

そして彼女は俺の向かいの席に座ると

手元のケースから何かを取り出し、テーブルの上に並べた。それは・・・


「ナイフ?」

「うむ! 特注の大型マチェットに投擲用のダガーナイフが2本! そうじゃ! ダガーナイフをマウント出来るブーツも用意したぞ!」


彼女は屈託のない笑みを浮かべたまま、物騒な武器の数々をテーブルに並べていく

一つ一つの武器の説明を始める彼女に対し、俺は率直な疑問を投げかける


「「4」、突然どうしたんだ? この武器の数々は一体?」


その俺の問いかけに対し、彼女はキョトンとした表情を浮かべ答えた


「何って? 誕生日プレゼントじゃろうが」

「・・・誰の?」

「お主のじゃ」


一瞬、彼女が何を言っているのか理解出来ず茫然とする

そんな俺に対し、彼女はニヤニヤと笑みを浮かべながら的外れな言葉を放つ


「何じゃ? ナイフよりケーキの方が良かったか? クックックッ! 子供じゃのう!」

「そうじゃない・・・。一体何時から今日が俺の誕生日になったんだ?」


そう、今日4月13日は俺の誕生日ではない

というより、赤子の頃から孤児として生きてきた俺に誕生日などといった物はない

それを知っている者は何処にも存在しないのだ


だがそんな俺の内心を見透かした様に、彼女は俺に向かって言い放つ


「今からじゃ、今儂が決めた。お前の誕生日は4月13日、儂とお主のナンバー「4」と「13」から取った」

「今からって・・・。いやそれより、そんな物が何の役に立つんだ?」


そう問いかける俺に対し、彼女は少し真剣な表情で告げる


「いいか「13」、儂ら暗殺者の命は軽い。その殆どが、数年のうちに接続者との闘いで命を落とす」

「・・・分かっている。覚悟はしているつもりだ」


そうだ、いつ死んだって構わない

俺に生きる理由なんてもうない


そう答える俺に対し、「4」は右手を俺の額に伸ばし・・・


「たわけ!」


ビシッ!


「うっ!」


軽くデコピンを食らわせると言った


「何も分かっておらんわ! いいか、儂ら暗殺者の傍らには常に死が付いて回る。そしてだからこそ、儂らは生に執着せねばならん。でなければこの東京で生き延びる事は出来ん」

「「4」・・・」

「いいか「13」。敵は全て殺せ、情けをかけるな。だが自らの命には執着しろ、何があっても生き延びろ。この二つがある限りお前は決して死ぬ事はない」


そう彼女は告げる。しかし俺は・・・


「だが「4」・・・俺には・・・」

「生きる理由がない・・・じゃろう?」


そう言うと彼女は穏やかに微笑みながら言う


「だから約束じゃ。来年の4月13日、またこの部屋でお主の誕生日祝いをする。それまでは絶対に死ぬな」

「「4」?」

「そしてその次の年、その次の次の年も二人で過ごす。絶対に破るな、約束じゃぞ?」


不思議そうな目を彼女を見つめる俺に、彼女は告げた


「それがお前の生きる理由。忘れるなよ「13」・・・」


そして彼女は俺の心の中にその言葉を刻み込む様に

唇を重ね、俺の奥深くの部分に熱を刻み込んだ











それから何年か経ったある春の日


「じゃあ私は先に戻るぞ」

「ああ、また明日」


そう一言二言会話をした後、パートナーである冬香と別れた


今日の予定は特にない、後は家に戻るだけだ

歩いて家に戻る途中、ふととある店のショーウィンドウに目が留まる


「ケーキ・・・か」


4月13日

今日は彼女が決めた俺の誕生日だ。しかし・・・


「アイツはもういない・・・」


そう呟きながら俺はその場から立ち去る

だがその足取りは自宅ではなく、とあるマンションへと向かっていた


持っていた鍵を使いオートロックを開ける

そしてエレベーターに乗ると最上階のボタンを押す


ドアが閉まり、エレベーターが上に向かって昇っていく


最上階のフロアには部屋は一つしかない

だが、その部屋も今は誰も使っておらず放置されているはずだ


そしてドアが開き、俺は最上階のフロアに足を踏み入れる。だがその瞬間・・・!


「ッ!!!」


異変を感じ取った俺は、廊下の壁に身を隠す!


(何だ・・・? 敵・・・か?)


ハッキリとはしないが何者かの気配を感じる

暗闇の中、こちらを伺う様な気配


俺は懐から銃を抜くと慎重に先に進む。そして・・・


キィ・・・


静かにドアを開けると無人の室内に侵入する

そこには・・・


「ん・・・? あれは・・・?」


真っ暗なリビングのテーブルの中央

そこに小さな箱が置いてある


周囲を警戒しながら慎重にリビングに入り、その箱をゆっくりと開ける。その中に入っていたのは・・・


「ケーキ・・・?」


そう、それは何という事のない

イチゴの乗ったシンプルなケーキだった。そして・・・


Happy Birthday


そう書かれたカードが中に入っていた


「・・・ふう」


俺はふっと息を吐き出すと、リビングのテーブルに座る

そして手に持っていた小さな箱をテーブルの上に乗せると呟く


「ケーキが余ったな・・・」


テーブルの上に並べられた二人分のケーキ

その光景に俺は苦笑しながら


「ハッピーバースデイ・・・」


誰もいない部屋の中で小さく、そう呟いた






開かれた窓から風が吹き込む

暗い部屋の中カーテンが揺れ、街の灯りが部屋を照らし出した


それはきっと俺の幻覚だろう

遠い何処かで、彼女が笑った気がした

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― 新着の感想 ―
[良い点] 接続者、オリジンの正体など、スケールが大きく驚きの連速の最終章でした。 語るとネタバレになってしまうので控えますが、絶望からの逆転が……すごい。 最高オブ最高でした!!
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