彼の名を呼んで
多国籍軍、接続者、そして暗殺課
三つ巴の戦いの最中、オリジンは宇宙の彼方へと消え去った
これにより、能力を失った接続者の大半は逃走
目的を失った多国籍軍は撤退
戦力の大半を失った暗殺課も、これを期に解体される
後に「オリジン消失事件」と呼ばれる一連の騒動は、全ての勢力の敗北という形で終結した
そして、東京という街から「接続者」が居なくなって半年後・・・
カラン
と、ドアに付けられた鈴が鳴り、一人の青年が喫茶店の中に入ってくる
カウンターの向こうで椅子に座っていた店主がチラリと、その青年に目を向けるが
その白髪を目にした瞬間、すぐに何でもないと言った様子で手元の新聞に目を落とした
青年は足音も立てず客の居ない店内を歩いていくと、端の席でコーヒーを飲んでいた女の前の席に座る
目の前に座った白髪の青年に対し、女は言った
「来たか。今は何時だ?」
「10時0分3秒」
「時間ピッタリだな。まあ、いつもの事だが」
そう言って、長い髪を後ろで束ねたスーツ姿の女性「霧生冬香」は手元にあったコーヒーに口を付ける
「うん・・・。美味いコーヒーだ」
そう呟く冬香に、青年は怪訝そうに問いかける
「不味いんじゃなかったのか? 1年前はそう言ってただろう?」
「おそらく物流が回復したんだ。豆が違う」
東京全土を覆う壁、東京防壁の解体が決まって半年
未だ解体工事は完了していないが、人や物の流入についてはかなり緩和されていた
まだ始まったばかりではあるが、東京の復興の兆しは確かに見えてきていたのだ
「マスター」
その時、冬香は手を上げてマスターに合図を送る
それを見たマスターは無言でコーヒーを入れると、青年の前に差し出した
「・・・」
青年はゆっくりとそのコーヒーに口を付ける、そして一言・・・
「普通だ」
と呟いた
その言葉に、冬香は・・・
「お前にコーヒーの味はまだ早かったか」
フッと苦笑しながら言うと、続けて手元のコーヒーに口を付ける
その時、とある記者会見を映していた店内のテレビから声が聞こえてきた・・・
「・・・ではここで、新たに新設される「東京特別治安維持課」、その課長である吹連からご挨拶をさせていただきます」
そう言いながら、東京警察本部本部長である東が壇上から退くと
その代わりに温厚そうなスーツ姿の女性、「吹連双葉」が壇上に上がった
「只今ご紹介に預かりました、東京特別治安維持課課長の吹連双葉です。この東京特別治安維持課は、未だ混迷を極める東京、特にグラウンドゼロと呼ばれる特殊地域内での犯罪行為に対し、迅速かつ柔軟に対応するべく設立された部署となります」
そして大勢の記者に対し、治安維持課の説明を続ける吹連課長
その記者会見の声を聞きながら、冬香は言う
「これでようやく、私達も動けるな」
「そうだな、軟禁生活ともこれでお別れだ」
オリジン消失事件の後
生き残った暗殺者達、そして暗殺課のメンバーは政府の監視下に置かれていたのだった
そして、その間・・・
「これでアイリも毎朝苦労せずに済むな」
その言葉に、冬香はゴホッゴホッとむせながら言う
「お、お前・・・! 誰から・・・!?」
「アイリ本人からだ」
「もう冬香さん! いくら仕事がなくてずっと家にこもりっきりだからって、生活が怠惰すぎます!」
そう叫びながら、アイリは布団にくるまる冬香を叩き起こす
あの事件の後、怪我で入院したアイリは数週間後に無事退院したのだが
暗殺課という組織そのものがなくなってしまった為、行き場をなくしてしまっていた
そこで、戸籍上は冬香の義理の娘という形で登録
「霧生愛里」として、同じ家で生活していく事となった。ちなみに・・・
(いや! そこはせめて妹だろう!?)
と、冬香が最後までゴネていたらしいが
手続き上、娘で登録する事しかできず今の形となった
「ほら! 早く起きてシャワーでも浴びてきてください! 今日からまた仕事が始まるんでしょう!?」
「ん・・・今日・・・?」
「そうですよ! 今日です!」
そう言いながらアイリは、スマホに移った日付を冬香に見せる
それを見た冬香は目を細めると・・・
「・・・あと15分」
そう言って目を閉じる。しかし・・・
「駄目です!!! 時間を守らないと愛想付かされちゃいますよ!!!」
「んん・・・」
そう叫ぶアイリに、冬香はめんどくさそうに身体を起こす。その時・・・
「あれ? アイリ、その恰好・・・?」
アイリの服装が見慣れない物だった事に気付き、冬香の意識は覚醒する
アイリが来ている服、それはややクラシックな紺の学生服だった
「ええ、私も今日から学校です。だ・か・ら! 早く起きてくださいー! 私も遅刻しちゃいます!!! 入学初日に遅刻なんて嫌ですよ!!!」
そしてそんなアイリに追い出される様に、冬香は布団からはい出るのだった
「そうか、アイリも今日から学校か」
「ああ、アイリぐらいの年齢ならそれがいいだろう。本人も希望していたしな」
そう答えながら、冬香は穏やかに笑みを浮かべる
「思えばアイリの人生も波乱に満ちた物だったが、これからは穏やかな生活が待っている事を望むよ」
「ああ・・・そうだな。アイリの様な人達を守る為に、俺達「東京特別治安維持課」が再設立されたんだから」
そう告げる青年に、冬香は思い出したと言った様子で言った
「そう言えば今回の治安維持課の再設立、とある筋から援助があったと聞いたが」
「ああ・・・」
とある日本家屋
豪邸と呼んで差し支えないその家の広く長い廊下を、一人の青年が歩いていく
彼を見た周囲の人間はサッと通路の端に退くと、彼に対し恭しく頭を下げる
二十歳にも満たないであろう青年に対し、誰もが敬意の念を抱き道を開け、頭を下げるのだ
そして同じ様に、その家の使用人の一人であろう女性が道を開け通路の端に退こうとする
だがその時、通路の端に退こうとした女性がフラリと体勢を崩した
「ッ!」
それを見た青年は素早くその女性に駆け寄ると、その身体を支え言った
「大丈夫ですか!? 義姉上! お身体の調子が良くないのでは!?」
青年の名は「鳳明久」、鳳家の次期当主である。そして・・・
「ありがとうございます明久様・・・大事ありません」
そう答えたのは、「鳥羽御貴」
明久の兄「鳳宗久」、暗殺者ナンバー・「9」の監査官であった女性だ
オリジン消失事件の際
担当する暗殺者であり、主でもあった「9」を失った鳥羽は
明久の口添えにより、再び鳳の家に戻る事となっていたのだ
その時、自らの身体を支える明久に対し
鳥羽は顔を背け、申し訳なさそうに呟いた
「明久様・・・私を再び鳳の家に招いて下さった事には感謝しています。ですがどうか、私を特別扱いなさらないでください。ましてや、義姉などと・・・」
鳳家の次期当主と一介の使用人、その身分の差は明らかだ
ましてや鳥羽は、鳳からその存在を抹消された「9」に付き従い出奔した身
その彼女が次期当主である明久の近くに居る事を快く思わない者はいくらでもいる。しかし・・・
「いいえ。僕にとって・・・いや・・・。私にとって鳳宗久は今でも尊敬する兄であり、御貴姉さまも同じく尊敬する方であります。誰に何を言われようとそれを覆すつもりはありません。それに・・・」
そう言って明久は、わずかに膨らんだ御貴の腹部に目を向ける
「兄上と御貴姉さまの子、次代の鳳を守る為にも、私は立ち向かうのです」
「明久様・・・」
そして、御貴からそっと手を離すと明久は広間の入り口に立つ
「それに心配は無用です、もう誰にも兄と貴方の事で文句を言わせるつもりはありません。今日この時より・・・」
シャーッ! と勢いよく入り口が開かれ、広間にずらりと並んだ者達が全て明久に対し平伏し頭を下げる
その全員に対し、明久は堂々と宣言した
「今日この時より!!! 私が「鳳」である!!!」
「鳳家・・・確か「9」の・・・」
「ああ。今でも多大な影響力を誇る名家、そこが治安維持課の再設立を後押ししてくれたらしい」
新当主となった鳳明久
治安維持課の再設立に彼の後押しがあった事を、二人が知る由もないのだが
「まあそれで予算も下りる様になってな。ようやく右手の修復も完了した」
そう言って青年は右手の手首を360°回転させる
鋼鉄製の右腕、過去の負傷を補う為に取り付けられた義手だ
「調子はどうなんだ? その・・・」
やや言いづらそうに言葉を詰まらせる冬香
しかし青年は落ち着いたままその問いに答える
「問題ない。吹連・・・いや、瑞葉研究主任のお陰だ」
「はい、これで作業は全て終了です。少し動かしてみて?」
そう告げる白衣を着た温厚そうな女性
彼女の名は「吹連瑞葉」、治安維持課課長である吹連双葉課長の双子の姉だ
11年前
前研究主任である安栖宗次と、シングルナンバーと呼ばれる9人の暗殺者達によって行われたオリジンとの完全接続実験
その実験の際、安栖と同じく実験に参加した吹連瑞葉は
頭に強い衝撃を受け昏睡状態となり、植物状態のまま10年と半年もの間眠り続けていたのだ
(ん・・・? あれ? 宗ちゃん・・・?)
(えっ!? 先生!!! 503号室の患者さんが!!!)
そして半年前
オリジンが消失したのと同じ頃、彼女は目を覚ましたのだった
義手の最終チェックをする瑞葉
その時、その首元のチェーンに通されたリングが僅かに光を反射する
思わずそのリングに目をやった青年に対し、瑞葉はそのリングを手に取って答えた
「これ? やっぱり取っておこうと思って」
それは婚約指輪だ
彼女が眠り続けていた10年間、安栖がその左手の指にずっと付け続けていた指輪
そして彼が姿を消す前に青年に託され、彼女に返された指輪だ
「宗ちゃんのやった事は許される事じゃない・・・。そして他の誰より、宗ちゃん自身が許したりしないんだと思う」
そう言いながら悲しそうに俯く瑞葉。だが・・・
「それでも・・・いえ、それなら私だけでも彼を待っててあげないとって思って。そして彼が帰ってきたら・・・」
その時、医務室のドアがプシューっと音を立てて開き
彼女の双子の妹である双葉課長が姿を現す
「あ、あれ? どうしたの双葉ちゃん?」
「姉さん・・・その指輪」
「え? ああ、もしかして聞いてた? 恥ずかしいなぁ」
突然の来客に対しややしどろもどろになりつつ応対する瑞葉
そんな瑞葉に対し、双葉は・・・
「私も、待つよ・・・」
「え?」
「私は姉さんが眠り続けていた10年間、ずっと姉さんの代わりになろうとしてた。けど、彼は・・・」
「双葉ちゃん・・・」
瑞葉はスッと立ち上がると、それ以上何も言わず双葉の事を抱きしめる
そして瑞葉の胸に顔を埋め嗚咽をもらす双葉に対し、優しく告げた
「そうだね、二人で待ちましょう。彼がいつ戻ってきてもいい様に・・・」
「そうか・・・」
青年の話を聞いた冬香は、コーヒーのカップを見下ろしながらボソリと呟く
「安栖さんがオリジンを求めた理由。それはきっと世界の救済なんかじゃなく、たった一人の女性の為だったんだな・・・」
恐らく、彼は瑞葉を目覚めさせる為ありとあらゆる手段を模索したのだろう
そしてその全てが不可能であると知り、最後に人知を超えた力を求めた
「願いは叶った・・・けれど・・・」
もう彼が戻ってくる事はないだろう
自らの罪に目を背ける事が出来る程、彼は器用な人間ではなかったからだ
「安栖さん・・・」
そして青年は、去って行ったその人物の名を呟く
丁度その頃
未だ政府の目の届かぬグラウンドゼロの一角に、複数の少年少女の姿があった
「そろそろ時間じゃないか? サツキ」
「ああ、そのはずだ・・・」
そう答えたのは「5」の直属部隊のサツキ隊、その隊長であったサツキだ
彼女はオリジン消失事件の際、他のサツキ隊の面々と戦線を離脱
そのままグラウンドゼロと東部エリアの境目に身を隠していた。だが・・・
「雇用主か・・・信用出来る奴なのか?」
「分からない・・・。だが、私達には他に道は残されていない」
戦いには生き残ったものの、真っ当な職にありつけるはずもなく徐々に不足していく物資
そしてそんな折に舞い込んだのが、彼らを私兵として雇いたいという申し出だったのだ
半信半疑のまま指定された場所にて待つサツキ達。その時・・・
「・・・やあ、待たせてしまったね。「5」の子供達。それに、珍しい人物も一人居るようだ・・・」
「ッ!?」
突然現れたその人物に全員が目を向ける
白衣を纏った温厚そうな壮年
そこに立っていたのは彼らもよく知る人物、安栖宗次だった
「・・・まさか貴方だったなんて。私達を雇いたいという話でしたが?」
「ああ。あの戦いに生き残った君達を、再び戦場に向かわせようとする事を許してほしい」
「気にする必要はありません。私達は戦う事でしか生きていく事の出来ない者達、この半年で十分思い知りましたから。けれど一つ聞かせてください」
「何だい?」
そう言って首を傾げる安栖に、サツキは問いかける
「戦場と言いましたが、貴方は今度は何と戦うつもりですか? まさか再び政府に対して戦いを?」
そう問いかけるサツキに対し、安栖は首を横に振って言った
「いや、すでに未来は彼らに託された、僕が彼らと戦う理由はもうない。だが・・・」
そして一つ呼吸を置くと、安栖はサツキ隊の面々に対して告げる
「これからこの東京の平和を守る為、彼ら特別治安維持課は戦い続けるだろう。しかし、彼らの様な「表」の組織に出来る事には限界がある。時に彼らには対処出来ない様な事態も起こりえるだろう。だからこそ、そんな事態にも対応できる「裏」の戦力が必要となる」
「裏の・・・」
「ああ、闇に紛れ正義を行う秘密組織。旧暗殺課の意思を受け継ぐ新組織、君達にはその力となってもらいたい」
そう告げる安栖に対し、サツキは問いかける
「それは政府からの要請ですか? それとも・・・」
そう問いかけるサツキに対し、安栖はしばらく思案した後・・・
「これは僕の贖罪。この世界の行く末を見守り続け、戦い続けるという、僕の贖罪だ」
ハッキリと、そう答えた
その言葉にサツキは少しだけ考え。そして・・・
「・・・分かった、私達サツキ隊は貴方に従う。誰かを助ける為の戦いと言うのなら、父さんも納得してくれるはず」
「ありがとう。では行こう、この街の・・・ひいてはこの世界の為に」
そして踵を返した安栖にサツキ隊の面々は続いていく。だがその時・・・
「・・・」
一人だけその場から動こうとしないその人物に対し、サツキは振り返ると言う
「どうしました? ここで抜けますか?」
「・・・」
無言で返すその人物に対し、サツキは冷静に告げる
「半年前のあの日。「6」にやられた私は、重傷を負ったままグラウンドゼロを彷徨っていた。そして力尽き、そのまま死んでいく所だったのを貴方に助けられた」
「・・・」
「そしてその後、今度は重傷を負っていた貴方を私が見つけた。いえ・・・重傷というより、死んでいたと言った方がいいかもしれませんが。ともかく、私の能力「外傷治癒」で貴方は一命を取り留めた。貴方が私の命を救い、私が貴方の命を救った。貸し借りで言えばこの時点でチャラです。この半年間私達に付き合ってくれた事には感謝していますし、貴方が抜けると言うのなら、私が引き留める理由はありません。どうぞご自由に」
そう告げるサツキに対し、その人物は首を横に振る
「・・・そうですか、ではこれからもよろしくお願いしますね。元最強の暗殺者の力、期待させてもらいます」
そう言うと、サツキは他の隊員達の後に続きその場を去って行く
そしてその人物もサツキに付いてその場から歩いていく
だがその途中、その人物は一度だけくるりと振り向くと遠くの空に向かって・・・
「また何処かでな・・・。私の「13」・・・」
そう呟くと、グラウンドゼロの闇の中に消えていった・・・
「・・・?」
突然、何かに呼ばれた様に白髪の青年が振り返る
そんな彼の行動に冬香は怪訝そうな顔で問いかけた
「どうかしたか?」
「いや・・・。何でもない」
そう言うと、彼はコーヒーを飲み干し席から立ち上がる
「そろそろ行くぞ。冬香」
「ああ、そうだな」
そして二人は店を後にすると、近くに停めてあった車に乗り移動を開始する
移動中の車内
車を運転する冬香は、助手席に座っている青年に対し問いかける
「なあ、一つ聞いていいか?」
「何だ?」
「その・・・結局オリジンっていうのは何だったんだ? まだ聞いた事なかったよな? アレが何だったのか、お前だけは理解したんだろう?」
「ああ・・・」
その問いに対し、青年は少し考えた後答えた
「そうだな・・・。簡単に言ってしまえば、あれは星の迷い子だ」
「星の・・・迷い子・・・?」
「そう、宇宙を旅する意思を持った星だ。19年前、旅に迷ったオリジンは、偶然この星の東京に降りてきた。そして・・・」
その時、彼は冬香に対し逆に質問する
「冬香。もしも突然、アンタが見知らぬ土地にたどり着いたらどうする?」
「見知らぬ土地?」
「そうだ。場所も名前も分からない土地、周囲にはその場所の原住民と思われる人達。アンタならどうする?」
「そうだな・・・。まずはコミュニケーションを図るんじゃないか?」
そう何気なく答える冬香に対し、彼はゆっくりと頷く
それを見た冬香は、まさかと言った様子で彼に問いかけた
「じゃあまさか! 「接続者」っていうのは・・・!!!」
「そう、あれはオリジンがコミュニケーションを図った結果生まれた存在だったんだ」
そして彼は、19年前に起こった事を説明する
「東京に降りてきたオリジンはまず周囲の生命体、つまり人間とのコミュニケーションを図った。しかしオリジンは口も言葉も持たない存在・・・」
「言葉を持たない?」
「そうだ。オリジンにとっての意思疎通の方法は言葉ではなく、「接続」だったんだ」
「「接続」・・・!?」
「・・・直接意思と意思を繋げる事により意思疎通を図る存在、それがオリジン。しかし、オリジンの意思は人間の脳で理解出来る様な物ではなかった」
「接続者」達が聞いたという何者かが呼ぶ声
それこそ、オリジンが彼らに対しコミュニケーションを図ろうとした声だったのだ
「人間には理解出来ないオリジンの意思、オリジンとのコミュニケーションに成功した人間は誰一人としていなかった。だが・・・ここで思わぬ副次効果があらわれた。それが・・・」
「「接続者」達が持っていた能力・・・だな」
「そう。オリジンの意思を理解する事は人間には不可能だったが、オリジンとの接続によって無意識のうちに、オリジンの能力の一部を「接続者」達は手に入れていたんだ」
「接続」を試み続けるオリジン、それにより増え続ける「接続者」
その結果、東京は暴力が支配する街となってしまったのだ
「そんな・・・。オリジンは途中で止めようとしなかったのか!? 東京の惨状を見て何も感じていなかったのか!?」
冬香の言葉はオリジンによって人生を狂わされた者としての当然の疑問だ。しかし・・・
「オリジンが接続を止めなかった理由。それは、オリジンと人間の価値観が大きく異なっていたからだ」
「価値観・・・?」
「そうだ、その際たる物が「命」だった。オリジンは不滅の存在だ、故にオリジンに命という概念は存在しなかった。オリジンは人間の生と死という物が理解出来ていなかったんだよ」
オリジンを巡りその命を奪い合う人間達
しかし、オリジンにはその意味が理解出来ていなかった
争い、怒り、憎しみ、それらの全てがオリジンには理解出来ない物だったのだ。しかし・・・
「だがオリジンは理解した。俺が自らの命を絶ったあの瞬間に、オリジンは命を・・・生と死を理解した」
「命」を理解したオリジン
そして同時に、オリジンは自らが原因で引き起こした全ての事象を理解した
「自らが争いを産み出す元凶である事に気付いたオリジンは、争いを止めるべくこの星から姿を消した。「接続者」達の魂と共に・・・。それが半年前の事件の全てだ」
語り終えた彼に対し、冬香はやや茫然とした顔で呟いた
「迷子か・・・。ただの迷子一人の為に、20年近くもみんな振り回されてきたんだな・・・」
それは希望であり、欲望であり
誰もが偽りの神を通し、手に入るはずのない物に手を伸ばした
そして夢は終わり、後には争いの跡だけが残る
けれど・・・
「それでも・・・オリジンが最後に残した光はこの街の人々には届いたはずだ」
「光?」
「そうだ。明日に立ち向かう力、神に頼るのではなく、人の足で踏みだす為の心の光・・・」
本当の名前は憶えていない
カズミと言う名も、「13」と言う名も今はもうない
ここに居るのは誰でもない人物、名前を持たない男だ
けれど・・・
確かにそれを感じる、以前は消えかけていた胸の中にある物
生きる理由、それは信念だ
これがある限り、俺が消え去る事はない
俺は俺だと叫び続ける
「俺は・・・御音。東京特別治安維持課エージェント、「十塚御音」だ・・・!」
「そうか・・・。行くぞ御音、この街の治安を守る「東京特別治安維持課」として!」
そして御音と冬香の二人は、新たな戦場へと向かう
この街の未来と、己の信念を賭けて戦い続けるのであった
トーキョー・アサシン 隔離都市東京特別治安維持課 完
後書き
以上でトーキョー・アサシン完結となります
生きる意味を失った青年が、復讐を誓う女性との契約によりそれを取り戻す物語
前作「魔王軍はお金がない」が、誰一人死なないファンタジーというコンセプトだったので
今作は最初から人が死にまくる、真逆の超シリアス展開のお話となりました
週一というゆったりペースではありましたが、2年間ほぼ休まず更新を続けられ
また、そんなペースの更新に付いてきてくれ、最後までお付き合いいただけた読者の方には感謝の念に堪えません
この後に、番外編を一話追加して本当の完結となりますが
面白いと思っていただけたのなら、ブクマや評価等を入れていただけると助かります
というわけで後書きでした 三上渉