復讐は誰の為に
「13」の策略により、その身に致死性の毒を受けた「1」・・・!
「見つけたぞ・・・、ナンバー・「1」・・・!!!!!」
「ッ!? な、何・・・!?」
その「1」の前に現れたのは
10年前「1」に父親を殺され、その仇を討つ為に東京に来た女
「今こそ・・・父さんの仇を討たせてもらう!!!!!」
東京特別治安維持課監査官、霧生冬香だった・・・!
「ば・・・馬鹿なっ!!! 監査官だとぉぉぉぉぉっ!!!???」
予期しない人物の登場に叫び声を上げる「1」!
それを殺意の籠った眼差しで睨みつけつつ、冬香は冷静に状況を把握する
目の前には父の仇であるナンバー・「1」
口から血を吐き出し顔面は蒼白、やっとの様子で逃げ出そうとしていた所の様子。そして・・・
「「13」・・・」
その後方
ビルの壁に寄り掛かりながら座り込む「13」の姿
胸からは大量の血液が流れ出しており、既にその場から動く事も出来ない瀕死の状態・・・
だがその時、倒れていた「13」が冬香に視線を向けながらボソリと呟く
「・・・やれ、冬香。決着はお前自身の手で付けろ・・・」
それは冬香に届くはずもないか細い声だったが、それに対し冬香は静かに頷くと・・・
「・・・ああ。奴は私が殺す・・・!!!」
そう決意の籠った声で返し、右手でリボルバーを構え「1」に向かって歩いていく・・・! そして・・・!
パンッ!!!
「1」に向けて発砲!
バスッ!!!
「ぐあっ!!! 何ぃっ!?」
弾丸は「1」の肩に命中した!
「1」は僅かに後方によろけながら焦りの表情を見せる!
「こんな・・・! この私がこんな銃撃程度で・・・!!!」
万全の状態であれば、弾丸程度かわすのは「接続者」にとってわけのない行動
しかし、今の「1」は立っているのがやっとの状態
冬香の銃撃は間違いなく、「1」の命に届く死神の鎌と化していた・・・! しかし・・・!
(このままでは私は敗北する・・・! だがだからこそ!!! 最後の最後で勝利するのは私だ!!!)
そう、それは「1」の能力であり切り札・・・!
自身が敗北した瞬間に発動する因果逆転の能力! 「神令」!!!
(霧生の娘! お前のお陰で私は生き延びる事が出来る! 皮肉にも、私を殺す為にここに来たお前の存在が、逆に私を助ける事になるのだ! さあ、攻撃してこい! 「神令」が発動すれば因果逆転が起こり、この毒も消える! 私はこの戦いに勝利しオリジンを手に入れるのだ・・・!)
絶体絶命の状態からの逆転の一手
「1」は心の中でほくそ笑む・・・! だが・・・!
パンッ!!!
2発目の弾丸が「1」の腹部を貫通!
それは間違いなく「1」にとって致命的な一撃だったが・・・!
「な!? 何だ!? 「神令」が発動しない!? どうなっているのだ!?」
その決定的な敗北を前にしながらも、「1」の能力「神令」が発動する気配はない・・・!
驚愕する「1」に対し、「13」は告げる
「それが・・・お前の能力のもう一つの弱点だ・・・」
「ッ!? 弱点・・・だと!?」
「お前の「神令」は自動発動型、止める手段はない。だが・・・発動するには「自身が最善を尽くす」という条件を満たす必要がある。そしてその「最善」とはあくまで、お前自身が無意識の内に判断し判定している・・・」
「それが・・・何だと言うのだ・・・!?」
「・・・分からないのか? お前は「最善」を尽くしていない、少なくともお前の無意識はそう判断していない。何故なら・・・お前の前に立っているのは「普通の人間」だからだ・・・」
「な・・・に・・・?」
そう、霧生冬香は「接続者」ではない
ただの人間なのだ。そして・・・
「お前は言ったな・・・? この世界から人間を排除し、「接続者」だけの世界を創ると。人間は「接続者」と比べ、劣った存在であるとも。だがだからこそ、お前は「ただの人間」に敗北すると言う事実を、「最善」を尽くした結果だと受け入れる事が出来ない・・・。優れた存在である「接続者」が人間に敗北するという事実を、お前は決して認める事が出来ない・・・」
「なん・・・だと・・・?」
「お前の能力「神令」の二つ目の弱点・・・。それは、ただの人間には発動しない事だ。人間を愚かな存在だと見下していたからこそ、お前はここで死ぬんだ・・・」
それ故に・・・
霧生冬香という存在は「1」を殺す為のジョーカー、切り札となったのだ・・・!
「そんな・・・馬鹿なぁっ!!!!!」
「神令」が発動出来ないという事実に驚愕する「1」に対し、冬香は冷静に狙いを定める・・・!
(冷静だ・・・。今の私は自分でも信じられないくらい落ち着いている・・・)
ゾーフで「1」と対峙した時
あの時は自身をも焦がす程の激しい憎悪に支配され、完全に我を失っていた
(今もその憎悪は変わらない。この炎は私の心の中で激しく燃え盛っている、だが・・・)
考えるのは「13」の事
その命を賭してまで、この千載一遇の好機を作り出してくれた相棒の事
(もう私は我を失ったりはしない・・・! この燃え盛る憎悪を静かに・・・冷静にこの弾丸に込め、奴を殺す・・・!)
パンッ!!!
3発目! 弾丸は「1」の左胸部に命中!
しかし、僅かに心臓から外れた位置を貫通した!
血を流しながら焦りを募らせる「1」に対し、冬香は冷静にシリンダーに残った2発の弾丸を確認しながら近づいていく。だがその時・・・!
「ま、待て!!!」
「・・・?」
「1」は突然、冬香を制止する様に手の平を広げ突き出し言った
「私が死んだらこの東京を救う者が居なくなる! 分かっているのか!? これはお前の父親の理想でもあるんだぞ!?」
「父さんの・・・?」
「そうだ! この東京を救う! それがお前の父親の理想だ! 私が死ねば、お前の父親の理想も消える事になる!」
そう語る「1」の瞳に嘘はない
手段はどうあれ、「1」が世界の救済を求めているのは確かなのだ
「その銃を下ろせ! 世界の為に、そしてお前の父親の夢の為に・・・! 私を生かせ! 霧生の娘!!!」
決してそれは命乞いなどではない
心から世界の運命を憂うからこその言葉なのだ。しかし・・・
「勘違いするな・・・」
「何・・・?」
そんな「1」に対し、冬香はあくまで冷静に告げる
「私がここに居るのは・・・父さんの無念を晴らす為でも、その理想を叶える為でもない」
思い出すのはあの日、父の葬式の日
空っぽの棺の前で母は泣いていた
でも私は・・・?
私はどんな顔をしていたのだろうか・・・?
私は・・・思い出す事が出来ない・・・
(けれど・・・今なら思い出せる)
あの日、私には「何もなかった」
怒りも悲しみもなく
私はただ茫然と、その光景を眺めていただけだったのだ
生きる意味を失った人間
そう、私も「彼」と同じだった
今までの私は、何もない自分を「憎悪」という色で無理矢理染め上げて出来た物だったのだ
(そうだ。それが私、だからこそ・・・)
そして冬香は、リボルバーの銃口を突きつけながら言い放つ!
「私は! 私は私を取り戻す為にここに来た!!! この手でお前を殺し! 私自身の人生に決着を付ける為に、ここに来たんだ!!!」
躊躇いはない
もし「1」の言葉が真実で
私の行動によって父の理想が消えてなくなるとしても
それでも私はこの引き金を弾く
誰でもない、自分自身の為に
この復讐は私の物だ・・・!!!
「くっ・・・!!! くっそおおおおおっっっっっ!!!!!」
冷酷に告げる冬香に対し、「1」は追い詰められ絶叫する! だが・・・!!!
「この私が・・・こんな所で死ぬものかぁぁぁぁぁっ!!!!!」
瞬間! 「1」の姿が冬香の視界から消える!!!
追い詰められた獣の最後のあがき!!!
「1」の最後の攻撃!!!
「おおおおおおおおおおっっっっっ!!!!!」
咆哮を上げながら冬香に向かって突撃する「1」!!!
最後の力を振り絞ったその動きは、ただの人間である冬香の反射神経を凌駕する!!!
「ッ!!!!!」
そして冬香の真横から、「1」が貫手で攻撃を仕掛けた!!!
「死ねぇっっっっっ!!!!!」
その動きに冬香は全く反応出来ない・・・! だが・・・!
ピタリ!
「な・・・?」
「1」が見た物
それは真横から攻撃する自分の眉間に向かって真っすぐ向けられた銃口
そして真っすぐこちらを見据える冬香の瞳と、その瞳に反射して映る薄紫色の光。それは・・・!
「・・・「接続」。俺と冬香の感覚を同調させた・・・」
「13」の能力、「接続」・・・!!!
そして次の瞬間・・・!!!
パンッ!!!
鳴り響く発砲音と共に! 「1」の眉間を弾丸が貫通する!!!
「あ・・・」
ふらりとよろけながら、「1」が唖然と呟く
「・・・そんな。私は・・・なるのだ・・・、この世界を救う・・・救世主・・・。新たな世界の・・・神となるのだ・・・」
だがそんな「1」に対し、冬香は静かに告げる
「お前は・・・神でも救世主でもない・・・」
「・・・?」
「お前は・・・ただの人殺しだ・・・!」
その言葉と同時に、「1」の意識が急速に薄れていく。そして・・・
「・・・霧生」
最後にそう呟きながら、仰向けに倒れた
「・・・ハァッ! ハァ・・・! ハァ・・・!」
緊張の糸が途切れた様に息を吐き出すと
生命活動を終えた物体を見下ろしながら、冬香は荒い息をつく
「う・・・うう・・・」
そして嗚咽の様な声を上げた後・・・
「うああああああああああっっっっっ!!!!!」
暗闇の空に向かって、言葉にならない叫び声を上げ続けた
復讐を遂げ、叫び声を上げる冬香
だがしばらくして、ハッとした様にその場から駆け出す! そして・・・
「「13」!!!」
瀕死の状態で倒れていた「13」の元に駆け寄った・・・!
そんな冬香に対し、「13」は静かに言う
「・・・やったな、冬香。復讐を果たしたな・・・」
だがその言葉に対し冬香は首を横に振りながら叫ぶ
「そんな事より! 今はお前の事だ!!! 早く病院に・・・!」
そう叫びながら、焦った様子で端末を操作しようとする冬香
しかし・・・そんな冬香を軽く手で制すると、「13」は・・・
「必要ない・・・。もう・・・俺には必要ない・・・」
そう静かに、冬香に告げた
「神令」によって受けた傷は「13」の身体に致命傷を与えていたのだ・・・
「・・・ッ!!!」
言葉を詰まらせ俯く冬香に対し、「13」は言う
「安心しろ・・・まだ死なない・・・」
「何・・・?」
「最後にやる事がある・・・。それまでは死ねない・・・」
そして「13」は、冬香の瞳を真っすぐ見つめながら言った
「冬香・・・、俺をオリジンの所へ連れて行ってくれ・・・」
「オリジン・・・?」
その言葉にハッとした様に呟く冬香
だがすぐに気を取り直すと、縦に首を振る
「ああ、分かった・・・」
そして倒れている「13」の左手を肩に担ぐと、ゆっくりとその場から歩き出した・・・
闇に包まれた市街地をゆっくりと歩いていく二人
遠くに聞こえていた戦闘の音も今は静まり、その足音だけが静かに反響している
「・・・」
冬香に支えてもらいながら一歩一歩、足を進める「13」
その呼吸音はとてもか細く、いつ途絶えてしまってもおかしくない様に思えた
「・・・なあ、「13」」
その時、「13」を支え歩きながら冬香が呟く
「・・・」
それに対し「13」からの反応はなかったが、冬香は構わず続ける
「お前のお陰で、私は復讐を果たす事が出来た・・・。父さんの仇を討つ事が出来たんだ。これで私は私を取り戻す事が出来る・・・そう思っていたんだ。けど・・・」
そう呟きながら、冬香は物悲しそうな表情で空に目を向ける
「復讐を遂げてから気づいた・・・、私にはこれ以外何もなかった事に・・・。アイツを殺せば・・・この復讐を果たす事が出来れば・・・、私は本当の私を見つけ出す事が出来ると思っていた。けど・・・今の私には何もない・・・。ロウソクの火をフッと吹き消した様に、私の心の中から何もかも消え去ってしまったんだ・・・」
それは冬香の人生において二度目の喪失だ
復讐を果たした事により、冬香は再び生きる意味を失ったのだ。しかし・・・
「それでも・・・私はこれで良かったと思っている。復讐を遂げて良かった・・・お前には本当に感謝している」
そう告げる冬香の表情は、長年の呪縛から解き放たれた穏やかな表情だった
「今までの私の人生はマイナスだった・・・。失った物を取り戻す為だけに、延々と足掻き続けてきた人生だった・・・。けど、これで私はゼロになる事が出来た・・・。私はスタートラインに立つ事が出来たんだ・・・」
そして冬香は、「13」に対し言う
「私の人生はこれから始まる・・・だから「13」。お前も・・・私と一緒に・・・。監査官でも暗殺者でもない・・・、新しい生き方をこれから見つけ出していくんだ・・・」
その言葉に対し、「13」は何も答えない
そして冬香自身も、それに気づいていた
もうすぐ彼は死ぬ
彼が明日を生きる事はもうないのだと
しかしそれでも・・・冬香は嗚咽を噛み殺しながら言う
「生きろ・・・「13」。これからも・・・私と一緒に・・・」
冬香がそう呟いたその時、二人の視界に開けた空間が入ってくる
スカイツリーの真下、広場となっている場所の中央のモニュメント
そのモニュメントの前に鎮座する光る球体・・・
「オリジン・・・」
そう、それは「1」がゾーフから奪取したゼロ・オリジンだった
その時・・・
パンッ・・・パンッ・・・パンッ・・・
突然、周囲に音が鳴り響く
それは手と手を打ち鳴らす音、喝采の音だ
「なっ!?」
突然の事態に音の出どころを探る冬香。だがその時・・・!
「・・・やあ、よく来たね「13」、そして霧生監査官。おめでとう、君達がこの戦いの勝者だ・・・」
モニュメントの影から一人の人物が姿を現す・・・
「えっ・・・?」
その人物の姿を見つめながら、冬香が唖然とした様子で呟いた
「そんな・・・、そんな馬鹿な・・・。どうして・・・貴方が・・・?」
丁度その頃
スカイツリーより南に設置した暗殺課の前線基地
そこから撤退準備を進めながら、暗殺課課長である吹連双葉は、飛山副課長の部屋から押収した書類を眺めていた
「何か気になる事でもありましたか?」
そう彼女に問いかけたのは「9」の監査官、鳥羽御貴だ
「ええ。少し・・・ね・・・」
鳥羽の問いかけに対し煮え切らない返事を返しつつ、吹連は続けて言った
「暗殺課を裏切っていた人物。それは飛山隆鳴副課長だった。そう思っていたのだけれど・・・」
「・・・? 彼が裏切り者だったのは間違いないのでは?」
「ええ。でも・・・色々な事のつじつまが合わないの・・・」
飛山の裏切り
「6」の行動からそれを突き止め、現場を押さえる事に成功した吹連
しかし「1」に対するゾーフ内部の情報漏洩や、チップの横流し
何度書類を精査しても、それらを裏付ける根拠が見つからなかったのだ
(やはり何も証拠はなし・・・。彼の裏切りに対し、後手に回った理由もこれだった)
そう、以前から吹連は飛山に対し疑いを向けていたが
それを裏付ける証拠が一切見つからず、先手を打つことが出来なかったのだ
(それに気になるのはあの言葉・・・)
吹連が思い出したのは、裏切りの現場を押さえ吹連が告げた言葉
それに対し飛山が返答した言葉だ
(・・・? チップの横流しだと? 何の話だ?)
あの状況で飛山が嘘を付いていたとは考えにくい
つまり彼はチップの横流しに関与していないという事になる
(どういう事・・・? 裏切り者は二人居た? けれどゾーフの内部情報はともかく、本部で保管されていたチップをゾーフへ持ち込む事が出来る、そんな権限を持つ人物はそう多くない。私と飛山を除けば、後は・・・)
だがその時・・・!
吹連はハッとした様に叫び声を上げる!
「ッ!!!!! そんな!!! いえ・・・それしか考えられない!!!!!」
あり得ないと思っていた
最初からそれを選択肢に入れる事すら思いつきもしなかった人物
暗殺課の裏切り者
その正体に対し、吹連が導き出した答えは・・・!
「私達を・・・裏切っていたのは・・・!!!」
「そんな・・・、そんな馬鹿な・・・。どうして・・・貴方が・・・?」
目の前に現れた人物に対し、唖然と呟く冬香
汚れ一つない白衣を纏った壮年の男性
その顔には、穏やかな内面をそのまま表した様な温和そうな笑み
「だって貴方は・・・「死んだはず」・・・」
「13」と冬香の前に現れた男
その男は・・・!
「安栖・・・研究主任・・・」