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そらのそこのくにせかいのおわり(改変版)3.8 < chapter.7 >

 中央市内、ダウンタウンの雑居ビルで、グラスファイアは猫足の長椅子から飛び起きた。

「クソ! なんでだ! どうして前回までと違う!?」

 終始こちらのペースで事が進んでいると思っていた。けれども、なぜか今回は勝手が違った。『前回』の世界に比べて、ラピスラズリとターコイズの連携が格段に向上していたのだ。

 グラスファイアはすべてのリセットの記憶を持った状態で、何度も同じ時間軸をやり直している。二回、三回と回数を重ねるたび、新たな知識や技法を身に着けることができた。そうしてようやく、エランドファミリーの若頭という都合のいいポジションに収まることができたのだが、それでも『壊れた心を直す薬』は見つけられなかった。

 それならば、やるべきことはただ一つ。


 シアンを殺して、もう一度、地震の前日からやり直す。


 そのつもりでシアンに接触し、せっかくいいところまで追いつめることができたのに――。

「ピーコックは違う……残り二人……どっちだ? それとも、両方なのか……?」

 ラピスラズリとターコイズにリセット前の記憶があるとしたら、前回以上に連携が良くなっていたことも納得できる。

 それに、気になることも言っていた。ガトリング銃の連射音で上手く聞き取れなかったが、彼らは『戦時特装』という言葉を口にしていた。それは何回か前の世界で、特務部隊長とキール・フランボワーズを殺したときにも耳にした単語である。


 相手が『神』でなければ使うことができない。


 特務部隊長とキール・フランボワーズは、殺される直前、仲間に向かってそう叫んでいた。同じ時間を『何度もやり直す』という異常な状況に、その『神』とやらが関与していることは間違いなさそうだ。

 何の進展もなかったこれまでの十六回。けれどもそれは無駄ではなかったのだろう。回を重ねるごとに少しずつ、確実に、真相に近付くための力は養われていたのだから。

 ラピスラズリとターコイズが強くなっていたのは忌々しいが、それ以外は、決して悪いことばかりではない。

「フ……フフ……ハハ……アハハハハハ! ようやくだ! ようやく取り戻せる! 今度こそ、俺たちは……っ!」

 グラスファイアは立ち上がり、早足でアジトを飛び出して行く。

 その後ろ姿を見送るキアは、深いため息とともにグラスファイアの『枕』を直した。

 飛び起きた勢いで背もたれからずり落ちたのは、グラスファイアに膝枕を提供していた若い女性である。白い肌、淡い灰色の髪、丸い耳と長い尾は、この女性がグラスファイアと同じユキヒョウ族であることを示していた。

 この女性こそがグレンデル・グラスファイアの妹、ヘーゼル・グラスファイアなのだが――。

「まったく……いくら自分の身体だからって、取り扱いが雑すぎますわよ、ヘーゼル……」

 大股を開き、工事現場のようないびきをかいて豪快に爆睡するヘーゼル。そこに『最愛の妹』として可愛がられている様子は微塵もない。髪はボサボサ、服はボロボロ、手足のムダ毛も口周りの産毛も完全放置。ほったらかしの眉毛はフサフサした毛虫のようだし、運動不足で身体は丸い。最新のファッションに身を包み、アクセサリーやヘアカラーで飾り立てた兄とは大違いだった。

 グラスファイアから『信じがたい事実』を打ち明けられ、キアがすんなり信じる気になった理由は、ヘーゼルのこの姿を見てしまったからだ。


 生き残った兄妹のうち、正気を保っていたのは妹のほう。

 発見時に妹が眠っていたのは、体の大きな兄に憑依し、一人で二人分の身体を運んでいたから。

 男の身体のほうが進学や就職に有利であったため、やむを得ず兄の身体を使い続けて今日に至る。


 たったこれだけの事実誤認が今後の運命にどれだけ大きな弊害をもたらすか、この時点で正しく予想できた者はいない。

 騎士団を振り回す『グレンデル・グラスファイア』の『中の人』は、オッサンの如くボリボリと腹を掻き、ダイナミックに屁をこいて、人質の少女を苦しめていた。


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