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そらのそこのくにせかいのおわり(改変版)3.8 < chapter.2 >

 翌朝のことである。俺たちコード・ブルーは情報部庁舎内の大会議室に呼び出された。大会議室は最大収容人数五百名。情報部庁舎で働く人間の約半数が集まることができ、その用途は年度初めの集会か、大規模作戦の合同ミーティングに限られる。

 場所を聞いた時点で嫌な予感はしていたが、案の定だった。

「コード・ブルーも呼び出されたのか? 何の集会だ、これは」

 コード・グリーンのマラカイトに呼び止められ、俺たちは通路の中ほどで足を止める。

「俺たちも、詳しいことは何も」

「そっちの案件でもないのか。とすると、あとはコード・レッドか……」

 マラカイトの視線につられる形で、俺たちは大会議室に集められた顔ぶれを見る。

 大会議室は大型プロジェクターの設置されたステージ、ステージ前の最前ブロック、その後ろに階段状に席がある。高校や大学の講堂のような構造で、階段状の席は右、左、中央の三ブロックに分かれている。

 名札や座席表が置かれているわけではないが、座る席はだいたい決まっており、俺たちコード・ブルーはステージから見て右側ブロックの前方だ。中ほどにコード・グリーン、後方にコード・イエロー。この三チームは貴族案件、広域情報収集、特殊詐欺やマルチ商法の専門部署なので、見た目も人柄も比較的良い。

 では隣はというと、中央のブロックはすべてコード・レッドの指定席である。常に反社会的勢力と小競り合いを繰り広げている部署であるため、見た目も気性もほぼゴリラ。情報部の最大チームだが、まだ誰も来ていない。

 左ブロックには内部監査専門のコード・ブラック、環境問題専門のコード・オレンジ、医療・学術分野のコード・ホワイト、非合法ドラッグや違法呪物担当のコード・バイオレットがいる。

 ステージ前の最前ブロックには事務方。各セクションの現場責任者が勢ぞろい、といった様子だ。

「ねえ、マラカイト? そっちで三巨頭についての噂って出てる? 直接じゃなくても、縄張りの中でなんかあったとか……」

 ピーコックの問いに、マラカイトは二秒ほどの間をおいて答える。

「それらしい話は聞いてないな」

「それらしくない話は?」

「いくつか」

「一番面白いの聞かせてよ」

「面白いのというと……金払いが良くなったことかな」

「は? どういうこと?」

「ツケを払わずに飲んでいくゴロツキ連中が、ここのところ、妙に素直に金を払いやがるんだ。一軒じゃあない。何軒かの居酒屋で、ほぼ同時期にそういうことが起こり始めた」

「それ、どこのファミリー?」

「所属不明。そもそもどこにも所属していないようなカスチンピラばかりが、なんというか……毒気を抜かれたみたいに穏やかになっちまってんだと。変な話だよな?」

「そりゃあ確かに、変な話だな。そんな連中が穏やかに……ねえ?」

「ま、だからどうってことは無いだろうが……お、ようやく来やがったか」

 大会議室の扉が開かれ、アガット率いるコード・レッドの面々が姿を現した。

 誰もが薄々予想はしていたが、彼らの表情を見れば、この合同ミーティングの開催理由は明白である。

 どうやら、次の『一斉摘発』が決まったらしい。


   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 中央市内の、とある雑居ビルの最上階。ボロボロの外観からは想像もつかない華美な内装が施されたその部屋に、『真っ白な男』と『真っ黒な少女』がいた。

 男はユキヒョウ族の青年、グレンデル・グラスファイア。エランドファミリーの若頭という立場だが、すっかりくつろいだ今の姿からは、マフィアの幹部らしい雰囲気はうかがえない。

 少女は情報部長官の姪、キア。児童婚を強いられ人妻になるも、その夫はゾンビゴーレムに襲われて死亡。法的には彼女自身も死んだことにされており、今は『この世に存在しない人間』となっている。

 誘拐犯と被害者は、貴族の館でもそうそうお目にかかれない、純金の猫足ソファーで雑談に興じていた。彼らの話題は、もっぱら上級魔法のアレンジ技に関することだった。

「だからさ、《局撃爆轟ピンポイント・デトネーション》ってのは、見た目と消費魔力の割に攻撃力が低いんだよ。本来なら四方八方に飛び散るはずの炎と熱を、飛び散らないように制御するのに魔力の大部分を消費しちまってるから。あれ使うくらいなら、戦闘用ゴーレムの爆弾魔ボマータイプか爆撃機ボンバータイプにやらせたほうが攻撃力あるんだけどなー……」

「それはあなたがゴーレム巫術もマスターしているからでしょう? ラピスラズリにそれほどの技能は無いわ。狙いの正確さと仲間の安全を考慮すれば、使える魔法はあれだけだったはずよ?」

「あの距離感なら、もっとデカい技使っても問題なかったと思うんだけどなぁ? あの男、あれでもまだ魔力に余裕あるんだろ?」

「ええ。でも、それでは見た目が良くありませんわ。小技と中技で攻めてから、仲間と一緒に大技で仕留める。怪獣映画の基本でしょう? あの時の映像、もう一度ご覧になったら? あれは場を盛り上げるために仕組まれた『お芝居』だったと思いますわ」

「そう、ソレ! そーなんだよなー。即興芝居でアレをやってみせるってのが、ホント……やっぱコード・ブルーで一番手強いのはピーコックかなぁ? まず、姿が見えないってのがな? 居場所が分からないんじゃあ、適当に攻撃するわけにも……」

「マスタークラスの幻術使いでなければ、《幻覚魔法イリュージョン》と《万華鏡カレイドスコープ》の強制解除は難しいでしょうね。《傀儡マリオネット》や《残響エコーズ》もお上手なようですし」

「うん、絶対に戦いたくねえな。で、次がターコイズだな。あいつ、日によって顔も体型も違ってるよな? 正体が分からねえ……」

「戦闘用キメラですわ」

「いや、それは知ってるんだけどな?」

「人格交替に伴って、体格も能力も変化すると伺っております」

「それも知ってる。分からねえのは、その『変化』の度合いなんだよ。攻撃力も防御力も索敵能力も高くて、有効射程が2,000kmって何? どういう理屈でそうなるんだ……?」

「戦闘用キメラ、ターコイズ。汎用人型兵器として完成した、ただ一人の成功例。魔法、化学、呪術、錬金術の粋を集めた最高傑作。本人が意識せずとも、常に《魔法障壁》と《物理防御》、《幻影看破》、《自動迎撃》が発動しているそうですわ。これは全モード共通の能力で、人格交替によってさらに固有能力が上乗せされる仕様だとか……」

「それ、冗談キツすぎだろ?」

「冗談と思われるなら、直接手合わせなさってみたら?」

「嫌だよ。死にたくねえもん」

「意外と臆病ですのね」

「おうよ。ビビリでなきゃあ若頭なんか務まらねえ。常に周囲を警戒し続けけるくらいで丁度なんだよ、マフィアってヤツは」

「それなら、どうしてコード・ブルーにこだわっていらっしゃるのかしら? マフィアの直接的な『敵』は、コード・レッドかコード・バイオレットのほうではないかしら? 無関係の部署の人間に挑戦状をたたきつけるなんて、慎重さとは真逆の行動でしてよ?」

「ああ、そうだな。たしかに敵は赤と紫だ。けど、あれは単なる敵であって、『宿敵』ではないんだよなぁ~……」

「宿敵?」

「聞きたい?」

「いえ、別に」

「可愛くないね、君」

「マフィアなんかに可愛がられたくありません」

「つれないなー。せっかく『お話し相手』として誘拐してきたのにー」

 グラスファイアはズイッと身を寄せ、キアの太腿を枕代わりに寝ころんだ。

 キアは全く動じることなく、生ゴミか害虫を見るような目をグラスファイアに向ける。

「ちょっと昼寝するだけ。変なことはしない。ただ、まあ、寝言は言うかもな。ただの寝言だから、聞いても聞かなくても全然問題ない。むしろ聞き流してほしい」

「……?」

 グラスファイアの意図が掴めず、キアは無言で首をかしげる。その動作に先を促されるように、グラスファイアは『寝言』を呟いた。

 その話はとても馬鹿げていて、けれども否定もできない話だった。

 グラスファイアの『寝言』を、キアは静かに、一言一句漏らすことなく聞いていた。


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