ジュリエッタは見た!
それから間もなくのある朝、
たまたま階段の上からのぞくと、お隣さんのご主人が出勤の様子。
「それじゃあ言って来るよ。」
「ええ、行ってらっしゃい。
あの…早く帰って来てね。」
「あぁ、そうする。
今日は仕事は休みなんだろ?」
「はい。
だから私も家事をするぐらい。
心配しなくても大丈夫よ。」
「あぁ、でも無理はするなよ。」
それから二人はチュッとキスをし、軽く手を振ってご主人はご出勤。
奥様は姿が見えなくなるまで手を振っていた。
「仲がよろしい事で。
はー、羨ましい。」
そして私も中に戻った。
そしてその日の昼頃、
私とルイ―ザが買い物に出かけた時、
表通りに有るお茶所で、ブレットさんを見かけた。
あまり目立たない席で、じっと家の方向を見ている。
お昼なら自分の家に帰ればいいのに。
その方がローナだって喜ぶはずよ。
そう思ったけど、人にはいろいろ都合が有る。
私が言うのも大きなお世話だろう。
だから私はルイ―ザにも言わず、その場を通り過ぎた。
しかし、次の日もその店でブレットさんを見た。
それもお昼時ではない、普通だったら仕事をしている時間だ。
おかしいなと思いつつ、その日も通り過ぎました。
でも、気になりだすと気になってしまうのが乙女心。
外に出ると、ついその場所を見てしまう。
すると、かなりの確率でブレットさんがそこにいるんです。
時間だってバラバラのはずなのに、
いつもその席にいらっしゃるんです。
「ねぇ、ルイ―ザ、
ベイリーさんって、何か有ったのかしら。」
「いえ、ローナさんからは何も聞いておりませんが。」
そうよね、私も聞いてない。
もしかすると……。
いえ、きっとローナさんもあの事は知らないんじゃないかな。
「実はねルイ―ザ、私見ちゃったの。
隣のベイリーさんのご主人がね…………。」
それから私は見た事や、感じた事をルイ―ザに話した。
「ね、おかしいわよネ。
私が見る度にあそこにいるって事は、
ご主人お仕事に行ってないんじゃないかしら。
もしかしたらリストラされたとか…。
で、ローナさんに話しずらいから内緒にしていて、
それでもローナさんの事が心配だからあそこから家を見ているのよ。」
そうだ、そうに違いない。
「ジュリエッタ様、それが事実であろうと、勘違いであろうと、
家庭にはそれぞれ事情と言うものが有ります。
ここは黙って、見守る方がよろしいかと。」
「それはそうかもしれないけれど、
でも何か大変な事が起きていたらどうするの。」
「もし、どうにもなら無くなったなら、
その時はきっと本人から助けを求めて来るはずです。
ですからその時まで、そっとしておいてあげましょう。」
それはそうかもしれないけれど、
でも、私で助けになれるなら、何とかしてあげたい。
出来るのであれば、力を貸してあげたい。
でもそれは、余計なお節介かしら。
でもその件は、私の杞憂に終わった。
その日の午後、
スカーレットがブレットさんの手を引き、教室の事務所に現れたのだ。
「ここのところベイリーさんがこの近辺をウロウロしていて、
おかしいなぁと思ったから捕まえて話を聞いてみたのよ。
そしたら仕事を首になったっていうじゃない。
彼って器用そうだし、色々な事が出来そうじゃない?
だから私の所で雇う事にしたのよ。」
「ス、スカーレット!?」
ズケズケとそんな事を言って、ここにはローナだっているのに。
「いえ、私も多分そうではないかと思っていたんです。
でも、私には何もできないし、主人に任せるしかなくて…。
本当にダメな妻ですね。」
「それだけ愛されているって事よ。」
スカーレットはそう言って豪快に笑い飛ばした。
「取り合えず仕事は、私がこちらにいる間の秘書をしてもらう事になるけど、
私もいつもこちらにいる訳じゃ無いから、そんなに忙しく無いと思うの。
だから暇な時は、マーガレットの手伝いに使ってやって。」
「えっ、雇うって、ひ、秘書?
ベイリーさんって大工さんよね。
そんないきなり秘書をしろって言っても、大変じゃない?
スカーレット、人には適材適所と言って…。」
「あ、その事でしたら、
私は4年ほど、秘書としての経験がありますから大丈夫です。
それに、隠れずに妻の安全を確認できるなら、
これほど適した職場は有りません。」
ラブラブですね……。
こうもあっさりと解決するとは、あれほど悩んだ私の苦労をどうしてくれよう。
「でも、良かったですね。
これからは隠れずに奥さんの傍に居られるし、
あの茶所のご主人もさぞや安心できるでしょう。」
そうよ、1日中、1つの席を独占されれば、店だってきっと大損害だわ。
これ位の嫌味、言ってもいいわよね。




