隣の新婚さん
隣のさびれた食堂が、いつの間にか取り壊された。
と思っていたら、いつの間にかこじんまりとした一軒の家が建っていた。
どうしてこんな裏方面に…。
家を建てるなら、もっと立地条件のいい所があるだろうに。
そう思ったけど、ある日その謎が晴れた。
「初めまして、裏に越してまいりましたブレッド・ベイリーです。
こちらは妻のローナと申します。
どうぞよろしく。」
そう言ってベイリーさんが、小さな箱を差し出した。
このパッケージは、かの有名な洋菓子店の物。
なんていい人なんだろう。
「予算の関係で、この場所となりましたが、
表通りとさほど距離が有る訳でも有りませんし、
いい買い物をしたと思ってるのですよ。」
「そうですか、ええ、表通りより静かですし、落ち着くかもしれません。
お隣さん同士、私も何かお力になれるかもしれませんし
何なりとお声を掛けて下さい。」
「ありがとうございます。
その時はぜひよろしくお願いします。」
そう言って二人は頭を下げた。
とてもいい感じのお二人さんだけど、どうやら新婚さんの様だ。
少し距離を取った方が二人に取っても好ましいだろう。
そう思いながらも、お隣さんのせいかよく顔を合わせる。
旦那さんが出勤する時は必ず奥さんのローナさんが見送りに出る。
旦那さんが恋しいのか、
ローナさんはよく窓辺に座り、大通りの方を眺めている。
旦那さんのブレッドさんも愛妻家らしく、
仕事が終わると何処にも寄らず、早々に帰って来る。
そして休みの日は奥さんと二人で、わずかに光が差す庭の手入れや、
道の掃除やらしている。
本当に働き者だ。
「お二人とも仲が良くて羨ましいですわ。」
ボーと椅子に座っているローナさんを気の毒に思い、
つい声を掛け、世間話をする。
「お恥ずかしいですわ、家事が終わるとやる事も無く、
ついあの人の事を考えてしまうんです。
このままですと、あの人にも心配をかけてしまいそうで、
何か気のまぎれる事が有ればいいのですが……、」
そうか、そうよね。
奥さんがこんな状態だと、旦那さんは心配するよね。
「気の紛れる事、
趣味とか、若しくは空いた時間にお仕事をするとか…
何かなさればいいかもしれませんね。」
「そうですね、あいにくの無趣味ですが、
こちらに来る前は、仕事をしていたんですよ。
確かにあの頃はこんな状態じゃ無かったわ。
そうね、お仕事が何かないか探してみますわ。」
そう言いながらローナさんは、嬉しそうに笑っていた。
でもそれから3日経とうと、1週間経とうと、事態の変化はなかった。
私がとやかく言う訳にもいかないが、やはり気になってしまう。
翌日、偶然行き合わせたローナさんに、進展具合を聞いてみた。
「それがあの人が、そんなに無理をして働かなくてもいいと言うんです。
自分の給料も上がったから、お金の心配も無いって。」
「でも、金銭的な問題じゃ無いですよね。」
「ええ、でも、あの人の心配も分かるんです。
以前勤めていた会社で色々と有って……。
それが元で、彼はとても心配症になっているようなんです。」
そうなんだ……。
「あの人の気持ちも分かりますし、
私もその事を思い出すと、なかなか踏み切れなくて…。」
「大変でしたのね。
でも、このまま家に閉じこもりっぱなしでは、病気になってしまいますわ。」
ご主人の休み以外は、毎日家の椅子に腰かけ、
家事以外には何もせず窓の外を眺めているだけ、
体にいい訳がない。
何とか力になりたいけど、私自身も居候だ。
一体私に何が出来るだろう。
「以前お勤めになっていたお仕事は?」
「色々しましたね。
レストランで調理をしていたことも有りますし、ウエイトレスもしたわ。
商店の裏方で、事務仕事もした事も、売り子もしました。
考えてみたら、有りとあらゆる仕事をしていましたね。」
裏を返せば、何でもできると言う事だ。
「分かりました。
私も何か気に掛けておきますね。」
そう言って彼女と別れた。
「………と言う訳なのよ。
いつもじっとご主人の帰りを待つだけなんて、
何か気の毒で。
何かいいお仕事が有ったら紹介してあげたいけど、
思ったようなお仕事が無くて。」
グレゴリーに帰っていたスカーレット。
2週間ぶりに顔を見たけど、色々な報告がてら、お隣さんの話もした。
「それならばあなたが雇ってあげたらいいじゃない。」
「え?」
「だって、あなたの生徒も増えたし、
ルイ―ザとダールさんだけでは手が足りてないのでは無くて?
お隣なら、多少の無理もきくだろうし、
仕事の経験も豊富、逃す手は無いわ。」
そうなんです。もう少し人手が欲しいと思いつつ、
忙しくてついついそれを後回しにしてしまった。
事務はスカーレットに丸投げにしていたし、
それ以外の料理や人の手配、
お茶や、お菓子の用意から、必要な物の買い出し。
殆んどの事をルイ―ザがやっていた。
彼女の手を煩わせるのは気の毒だと思いつつ、
つい甘えてしまっていた。
ここまで来れたのも、ルイ―ザと言うスーパーメイドさんがいたからだ。
「彼女を雇ってもいいの?」
「ジュリエッタ、逆に聞きたいわ。
ルイ―ザに頼って、このままの状態でやっていけるの?」
無理です。と言うか、ルイ―ザが気の毒です。




