脅迫
グレゴリー帝国。
我が国に隣接する強大な国。
今はその国と我が国は、表面上は友好関係を結んでいるけれど、
多分隙あらば取り込もうと、手ぐすねを引いているだろう。
おまけにそこは、私のお母様の母国でもある。
お父様と、やはり大恋愛の末結婚したお母様は、何もかも捨てお父様に嫁いだ。
でも私は知っているの。
グレゴリー帝国の伯爵であるおじい様は、未だにお母様を諦めていない事を。
だって時々私に、内緒でお手紙を下さいますもの。
いざとなれば、おじいさまに助けを求める事も出来た。
でも私はそんな事はしない。
自分の尻拭いは自分でやる。
ただ、グレゴリー帝国の名だけは借りるつもりよ。
「国王陛下、私は心の底から、お二人に幸せになっていただきたいのです。
その為には、私がこの国に留まればきっとお二人は心を痛めたまま……。
それでは私の気が済みません。
ですので、私はまずグレゴリー帝国のおじい様、エトワール伯爵家にお世話になり、
その後ゆっくり自分の身の振り方を考えるつもりでございます。」
「グレゴリー帝国のエトワール伯爵!?
それはいかん!
いや、そ、そうでは無く、この国にも良いところは沢山あるぞ。
そうだ!ミューズ湖の畔のクリュシナなどどうだ?
そこでしばらく静養したらどうだ。」
クリュシナ、そこは確か、王室の持つ特別に素晴らしいとされる保養所でしたわね。
でも、グレゴリー帝国と真逆の方向。
何を考えているかは見え見えですわ。
「ジュリエッタ。
もしあなたがグレゴリー帝国に行くなら、私も一緒に参りましょう。」
お母様…。
「ジュリエッタと、セリーナが行くなら、当然私も行こう。」
お父様。
お二方共、私を助ける為に……、でも大丈夫ですわ。
「お父様、お母様、ありがとうございます。
でも、私一人でも大丈夫ですわ。
グレゴリー帝国のお祖父様はとてもやさしい方と伺いました。」
「それは分かっています。
それにグレゴリーのお祖父様は、あなたにはこっそりお手紙を下さっていたでしょう?」
あら、バレていましたの?
「まだ、会った事の無い孫とは言え、あなたの事は大そう気に掛けているはず。
もしあなたがあちらに行くとなれば、それは喜んで迎えてくれますよ。
きっとあなたの為に、何でもしてくれるわ。
でもその場合、私たちがこちらに居ては、グレゴリーのお祖父様にとって、きっと都合が悪いはず。
ここは私達も一緒に行くべきなのです。」
お母様、そこまで大事にしなくても………。
ほら、傍で国王陛下が真っ青な顔をなさって、汗をだらだらと……。
少し見苦しいですわ。
私はそっと、手元に有ったハンカチを差し出した。
「これは…。
そなたは何と、気立てが良く、優しいのだ。」
国王陛下、これは常識の範囲内です。
ただあなたの状態が、見るに堪えなかったのでお貸しした迄。
あっ、いえ、それは返していただかなくて結構です。
出来ればお捨て下さい。
「まったくです。このように素晴らしいジュリエッタ嬢を、
何故兄上はこうも虐め倒すのか、不思議でなりません。」
そこに口を出したのは、スティール様。
ややこしくなるから、黙っていてほしいのですが……。