思いがけない事実
”マリーベル”
確かにその名に聞き覚えが有った。
だが、私の思い当たる人物は、こんな事を画策できる人物では無い筈だ。
ならば同姓同名の他の奴か?
ん~、マリーベル……か。
「私の知る限り、マリーベルと言う名はジュリエッタの祖母しかいないのだが、
お前達の言うマリーベルとは一体誰なんだ。」
私の言葉を聞くと、またまた固まる男たち。
なぜその名を…と言っているが、お前達の内緒話はよく聞こえたぞ。
「どうぞマリーベル様とお呼び下さい。
その名をあなたが呼び捨てになさるなど、許されませんので。
そして、マリーベル様は確かにジュリエッタ様の御祖母様でいらっしゃいます。」
はぁ~?
「ちょっと待て、確か私のデーターでは、
ジュリエッタの祖母は平民で、裏通りでパン屋を営んでいると聞いた。
何故そんな人間に敬称を付けなければならないんだ。
それにこの茶番劇を計画したのもそいつだろう。
一体何者なんだ。」
すると徐に男達は、私をまた縄で縛りあげる。
「無知とはいえ、不敬にもほどが有ります。
あなたの立場であれば、言葉一つで戦争にもなりかねないのですよ。
私達の話を聞いていたのであれば、その言葉で状況を判断し、
よく考えてからの発言が好ましいですね。」
状況を考えろと言っても、
余りにもデーターが少なすぎるし、情報が滅茶苦茶だ。
そう思った私に、とんでもない情報がもたらされるとは思いもしなかった。
「考えてみれば、あなたはまだ思慮の足りない小さな子供。
仕方が有りませんので、許される限りの事をお教えしましょう。
まあ、いずれあなたにも知らされるのかもしれませんが。
それ以外にも、5歳児でも分かるような、事柄もじっくりとお教えしましょうか。」
「私を馬鹿にする気か!」
「その言葉は話の後に、
もし言える物なら後程お聞きしましょう。」
何だと!
「いいですか、最初から一つづつ、よく分かるようにご説明します。
よーく聞きながら、理解するように努めて下さい。
いいですか、実は……………。」
「ちょっと待てぇぇ!
い、今、頭の中を整理するから待ってくれ。」
え~と、マリーベル様の夫だった人は、現王つまり父上の祖父だと?
つまり、マリーベル様は、先々代の王の後妻だと言うのか。
と言う事は、義理では有るが私の曾祖母か?
何だかとんでもない人間が出て来た。
じゃない。
よく考えろ。
後妻とは言え、正式な王妃だった人だ。
それがなぜ、ジュリエッタの家は伯爵なんだ?もっと高位の筈だ。
て、それ処じゃ無い。
なぜマリーベル様はパン屋をしているんだ?
あぁ、違う、落着かねば。
それなら先代の王とジュリエッタの父は、兄弟なのか?
つまりジュリエッタは血は薄いが、俺の叔母に当たるのか………。
最終的に思いあった事は、かなりのショックだった。
まず最初に頭に過ったのは、ジュリエッタと結婚できるのか?と言う心配だ。
しかし、最初に兄との婚約をしていのだから、
この件に関しては成立するとスルーした。
あ~、安心した。
だが、まだ大問題が控えている。
「で、マリーベル様は私の行動に対して、大変ご立腹なんだな。」
「その通りでございます。」
男は俺のマリーベル様呼びに満足したようだ。
だって、そんな事情を聞いたなら、俺だって自然に様を付けるだろう。
「しかしマリーベル様が何をそんなに怒っているんだ。私が何をした。
ジュリエッタに協力し、彼女の望むように兄上から解放したし、
そのまま私の事を好いてくれているジュリエッタを私の婚約者に据えた。
見返りとしたら安い物だろう。
それに彼女は私を好いてくれているんだぞ。何の不都合が有る。」
「お坊ちゃん、よくお聞き下さい。
ジュリエッタ様の望む結婚は”愛の有る結婚をしたい”と言われたんですよ。」
「だからそれは徐々に……。」
「これほど言ってもまだ分からないのか!
ジュリエッタ様は、”愛の有る” ”結婚をしたい”と仰ったんだ。
あんたがしようとしている事と、その違いをよく考えてみるんだな。
もしそれが分からないのであれば、
あんたもそこらへんにゴロゴロと転がっている、つまらない貴族と同じだ。
こんなのが皇太子だなんて、臍が茶を沸かすぜ。
本当にマリーベル様に進言し、あんたを潰してもらうか?
え、どうするね。坊や。」
「貴様!」
酷い言われようだ。
走る馬車は刻々とジュリエッタから離れて行く。
それでなくてもこいつらはジュリエッタの味方の様だ。
このままでは、たとえ他力だったとしても、
せっかくジュリエッタの近くに行けたのに、また振出しに戻る事になる。
くそっ、考えるんだ、ジュリエッタを取り戻す方法を。




