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囚われの王子

ジュリエッタともう一人の女性が寝付いたと思われた後、

私はその部屋の窓から静かに、且つ強引に運び出された。


そのまま馬車に放り込まれ、そこから大分離れてから、

ようやく私にされていた、さるぐつわを解かれた。


「一体どういうつもりだ!

せっかくジュリエッタがあそこにいたのに、

これでは取り戻す事も出来ないではないか。

さっさとあの家に引き返せ!」


私はそう怒鳴った。


一見して、今乗っている馬車は、庶民が乗るような普通の馬車の様だが、

覗き窓には、ぶ厚いカーテンが閉められ、外を見る事は出来ない。

ここに連れて来られた時は、何やら薬を嗅がされたようで、

昼食を食べ、店を出たまでしか覚えがない。

つまりここが何処なのか、全然予想もつかないんだ。

私を連れ回しているこいつらも、顔形が分からないほどの覆面を付け、

体付きすら隠すように、全員が同じマントを着て、ご丁寧に手袋までしている。

唯一ばらつきが有るとしたら、身長ぐらいだな。


それにしても、俺と一緒にいた護衛はどうしたんだ。

俺が攫われた時、ケガを負わされたとか、とにかく引き離されたんだろうな。


「私にこんな事をして無事に済むと思っているなよ。」


私はあえて、低い声でこいつらに忠告した。


「思っておりますとも。

なにせ、あなたですら逆らえ無い方のご命令ですから。」


「父上か?

そんな…父上は一体何を考えていいるんだ。」


「その方の事は、あえてお教えいたしませんが、

ただお手紙を承って来ました。」


「手紙だと、寄こせ。」


と、その前にこれを解け。

いつまでも俺を縛っておくなど、不敬もいい所だ。


男は失礼しました、と言うも、

解かれたのは手のみで、足はそのまま縛られたままだ。

これでは馬車を飛び出し、ジュリエッタの下に行く事すらできない。


それから手紙を受け取り、開封して広げる。

中にはきっと、ジュリエッタに関しての事が書かれているに違いない。

気が急く中、ざっとそれを読んでみた。


「!?」


”スティール様、いつまで子供のような我儘を通すのですか。

もう少し頭を冷やし、今の状況をよく考えなさい。

人の気持ちも思いやれない人は、国民の事を考えない王と同じ。

あなたが悟らない限り、あなたには人の上に立つ資格は有りません。

私が言いたい事が分かったのなら、自分が進まなければならない道を把握し、

ちゃんと対処するように。

もしあなたが改めないのであれば、私にも考えが有りますので悪しからず。”


どうやら手紙は自分を叱っている様だが。


「なぁ、これは一体何を言っているのだろう。

それに一体だれが…。」


言葉使いから言って、差出人は女性だろう。

しかし何を言いたいのか、何を指しているのかがよく分からない。

私に対して、叱ることが出来るのは多分私より身分が上か、近親者だろう。


「母上…か?

いや、それならわざわざこんな事をせず、直接言う筈だ。

ならば叔母か、それとも祖母?

それにしても一体何を言いたいのだ?」


しかしその手紙を読んだ男たちは、無言のまま固まってしまっているようだ。


「一体私に何を言いたいのか、私は知らずに何かしたのか?」


そう呟きながら首をひねる。


「あの…王子は何も心当たりが無いと言われますか?」


そう言われて、もう一度考えてみるが、全然心当たりが無い。


「あぁ、そうだな。

思い当たら無いが、それは本当に私宛なのか?」


男たちは私の返事を聞き、再び固まる。


「先ほどの家で、ジュリエッタ様のお話を聞かれましたよね。」


「あぁ聞いた。それが何か?」


「……失礼ですが、ジュリエッタ様が言っていらした事を

本当に聞いていらっしゃいましたか?」


「しつこいな。聞いていたと言っただろう。

ジュリエッタは私の事を好きだと言っていたぞ。」


「なぜその部分だけ言うか。」


「他の話は聞いていなかったのか。」


「一体どういう耳、いや頭を持っているんだ。」


男達が小さな声で、互いに言い合っているが、

内緒話なら、もう少し小さな声でやるべきだ。


「王子、はっきり申し上げますが、

確かにジュリエッタ様は王子の事は好きだと仰っていました。

しかしそれは愛ではないと言っていたのをお聞きになりましたか。」


何だ、そんな事を気にしていたのか。


「確かにそうも言っていたが、そんな話は貴族の中でもよくある話じゃないか。

家や利益の為、愛の無い結婚を強いられる事など日常茶飯事だろう。

だが、私はジュリエッタを愛しているし、

ジュリエッタも私に好意を持ってくれている。

これ以上ない程の良縁だ。」


「ですがジュリエッタ様は、

愛の有る結婚がしたいと泣いていらっしゃったのですよ。

それをご覧になって、何も感じなかったのですか?」


「感じたとも。

私はジュリエッタを愛している。それは先ほども言ったな。

ジュリエッタの私に対する好意が、一緒に暮らしていくうちに情が湧き、

それが愛情に変わる筈だ。

最初に愛と呼べずとも、じきにそうなるのだから何の問題も無いだろう。」


以前母上が、そんな事を言っていたような気がする。

だが男達は、また小声で盛んに私を非難しているようだ。

何をそんなに興奮する。

一般常識だろうが。


「やはり子供は子供か。」


「人の心をこうも理解できないとは。」


「いや、5歳児だって、もっと思いやりが有るぞ。」


「これはもうマリーベル様にご報告して、叩き直してもらった方がいいだろう。」


酷い言われようだな。

マスクで覆われている以上、顔は分からぬが、

お前達の声は、良く覚えとくからな。後で後悔するなよ。

しかしマリーベルとは誰だ?

最近どこかで聞いた覚えが有る。

……………。

そうだ、確かジュリエッタの…祖母の名だった筈だ。

裏通りでパン屋を営んでいると報告に有ったが、

たかが平民のパン屋のばあさんを、何故お前達が敬語を使うのだ?

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