恋愛と愛情と結婚
「そんな真似は許さん!」
国王陛下がそう言い捨てた。
「そう仰られても……、
こうなった以上、もう取り返しがつきません。
私は身を引きます。
ですからどうか王太子殿下とミレニア男爵令嬢様を、一緒にさせてあげて下さいませ。」
「ジュリエッタ嬢は、盛んにそう言うが、
一体何を根拠に騒ぎ立てる。
第一証拠もないだろう。
此処は頭を冷やし、落ち着いたらどうだ。」
あら、証拠も証人もワンサカありましてよ。
「国王陛下、失礼をお許しください。
スティール王子殿下。」
はいはーい。と機嫌よくその場に登場したスティール様。
その後には、あの時の少女たちが、まるで打ち首を待つ囚人の様な顔をし、並んで付いて来る。
「此処に居る方たちは、ミレニア男爵令嬢様が、私に結婚の事を教えて下さった時に、一緒にいらっしゃった方々。
ね、あの時確かにミレニア男爵令嬢様はアンドレア王太子殿下と結婚なさると仰っいましたよね。」
「そ、そんな事しらな……。」
「確かあなたは、メアリー男爵令嬢でしたね。
国王陛下並びに大勢の方々の前で、まさか嘘などつきませんよね。
偽証とはかなり重い罪のはず。
此処でそれを免れても、後々発覚すれば。かなりの罪が加算されるでしょうね。」
私は扇で口元を隠し、メアリーに教えてあげた。
でもあなたには見えないでしょう?
私の口元が、笑っていることを。
「え!あの、それは………。
あ、あの時ミレニア男爵令嬢様は、確かにアンドレア王太子殿下と結婚すると仰いました!」
「そう、良かった。私の聞き間違いでなくて。
それで、他の方々はお聞きにならなかったの?」
すると次々と、他の少女たちも”聞きました。” ”ミレニア様はそう仰いました。” ”ジュリエッタ様の仰っている通りです。”と告白する。
そうでしょうとも。それに関して、私は何ら嘘偽りを言っていない。
これが真実なのですから。
「なっ、ミレニア!お前はジュリエッタに本当にそんな事を言ったのか!」
「えっ、だって、だって、アンドレ…。」
「アンドレア王太子殿下、どうぞミレニア男爵令嬢様をそんなに責めないであげて下さいまし。
彼女はあなた様を愛する一心で、そう仰ったのでしょう。
そうですよね?ミレニア男爵令嬢様?」
「そう、その通りです。
私はアンドレア様を愛しております。」
「そしてアンドレア様も、あなたの事を愛していると仰って下さったのですね。」
「ええ、確かに私の目を見つめ、とてもやさしいお顔でそう呟いて下さいました。」
「私はそんな事!」
「あら、仰らなかったの?
それではこれはミレニア男爵令嬢様の嘘?
ならば罪人ですわね。
王太子殿下が、自分に愛を囁いたなどと言う偽証を働いた以上、
その嘘は、国家をも揺るがしかねない偽証。
ならば、牢に幽閉し、首を刎ねられても文句は無い筈。」
そうですわね、王太子殿下。
「いや、まて!言った。確かに私はミレニアに愛していると言った。だがそれは…。」
ねえ、ご来場の皆様。
今の言葉を確かに聞かれましたよね。
「では、お二人は相思相愛の仲。
なんて素晴らしいのでしょう。」
「ま、待て、ジュリエッタ嬢。
確かに二人は恋仲かも知れんが、それが結婚に結び付くかどうかには繋がらん。
これは国の問題でもあるのだ。
愛情が有ろうとも、それで結婚できるとは限らんぞ。」
国王陛下が、慌てた様子でそう言った。
「まあ、嫌ですわ。
国王陛下ともあろう方が、それを言いますか?
確か王妃様とは、大恋愛の末結ばれたとお聞きしましたが、違いましたでしょうか?」
「い、いや、確かにグレーシアとは、その、大恋愛で……。」
次第にお顔を赤しく照れまくっている国王陛下。
「お羨ましいですわ。やはり愛情が有ると言う事はいい事ですわね。」
「まあ、否定はせんが。」
「ですので、私はこのお二人に必ず結婚していただきたいのです。
そして私は隣のグレゴリー帝国に行く。
全ては丸く収まります。」
「それはならん!!」
「まあ、何故ですの?」
「そなたの父には、王位継承権が有る。
引いてはそなた自身にもその血が受け継がれていると言う事。
それを易々と、グレゴリー帝国に差し出す訳にはいかぬ。」
ですわね。
だからこそ、私はこの話をしているんですもの。