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大波 小波 1

大叔母様の家は、思っていたより裕福だったらしい。

想像していた以上に屋敷も大きかったし、メイドさんらしき人も数人いた。


「さあ後の事は、大船に乗ったつもりでこのジゼルに任せなさい。」


「すいません、ありがとうございます。大叔母様。」


「いや~ね~。

これからは、ずっと一緒にいるのだから、

そんな水臭い呼び方は無し。

ジゼルって呼んでね。」


いや、大叔母様を、それも、これまであまり会った事も無く、

これからものすご~くお世話になる人を、

”ジゼル”なんて、呼び捨てになどできません。


「もし呼んでくれないのであれば、就職口紹介してあげないわよ。」


「よろしくお願いします。ジゼル。」


すぐさまそう言って頭を下げた。


「よろしい、それじゃあこれからの相談とか、しちゃいましょうか。」


はい。


でも、それからの話は、相談と言うより命令でした。


「これから言う事は、経験者からのアドバイスよ。

多分あなたは、じきに悪阻で具合が悪くなると思うわ。

だからその間は安静にしている事。

その時期が過ぎれば、ある程度動いて良し。

ある程度の時期になれば、閉じこもってばかりいると、反って赤ちゃんに悪いの。

だから軽い運動や仕事をしてもいいんだけど、

赤ちゃんが生まれると、そちらに掛かり切りになっちゃうのよね。」


「はあ。」


「だから、悪阻が収まった時点で、何処かに就職しても、

すぐに辞めなければならないわ。」


「そう…なんですか?」


「そうなの。

だからね、あなたがもしよければ、この家の事を手伝ってくれない?」


「?」


「丁度、メイドが一人辞めて困っていたのよ。

マリーベルはどこかに勤めるつもりだったんでしょ?

だったら、このままこの家に勤めた方が、融通もきくし、

子育ての経験者、このジゼルおばあちゃんが近くにいる方がいいと思うのよ。

勿論ちゃんとお給金も出すわ。ね、そうしなさい。」


それは願っても無い話だけど……。


「でもそれは大叔母様に甘え過ぎになってしまいます。」


「ジゼルよ。

大丈夫、甘え過ぎにはしませんよ。

お給金の分はちゃんとお仕事をしてもらうから。

だから、私も新しいメイドを探す手間が省けるし、

あなたも仕事や住む所を探さなくてもいい。

いいことづくめじゃ無い事?

これで万事解決。」


笑いながら、お叔母様はそう言い切った。

はい、言い切ったんです。

反論は言わせないという様に。

いいのかなー、これって給料をもらうんじゃなくて、

反って私の方が家賃とか払わなきゃいけない立場になると思うんだけど。

しかし、大叔母様の優しさに感謝しながら、

私は有りがたく、そうさせてもらう事にした。



それからジゼルの言った通り、悪阻の日々が始まった。

酷い時は一日中ベッドに伏せる日も有った。

そんな時は、ジゼルは度々部屋に顔を出したり、

ともすれば、私の枕元に椅子を引っ張ってきて、そこでさりげなく私の様子を見ながら本を読んでいた。

あぁ、私はグレゴリー帝国に来て本当に良かった。

そして、ベッドの枕元で、ぽつりぽつりとジゼルの色々な話を聞いた。


「だから、主人は未だにお城で料理長をしているのよ。

もういい加減に引退して頂戴って言ってるのに、聞いてくれないの。」


「そうなんですかぁ。」


大叔父様だって、もうかなりの年じゃないかな。大変だなぁ。


「それでね、来月に近隣の国の代表の方を招いて、パーティーがあるみたいなの。

その事で、更に大忙しみたい。」


「そ、そうなんですか?」


まさかおじ様は来ないよね。

来るのは代表の人だよね。


「どうする?その頃だったら悪阻も収まっているかもしれないし、

もし何だったら、裏から行って覗いてみる?

主人に頼めば内緒でお城に入れてもらえると思うのよ。」


気になる。気になるけど絶対行かない。

もし見つかってしまったら、絶対連れ戻されてしまうから。

私は夢中で首を振った。


「そう言うと思ったわ。

そう、それが賢明ね。」


ジゼルはそう言いほほ笑んだ。


そして私は嵐が過ぎるまで、ここで息をひそめている事にした。

ジゼルは私に、街で有った事などを話してくれる。


「それでね。明後日後のパーティーの為に、色々な国の豪華な馬車が、大通りを走っていくのよね。

そのアンバランスさと言ったらおかしいの。

だって、野菜や、鍋を売っている出店の間を、きらびやかな馬車が行くのよ。

そうそう、今日見た1台の馬車が、

何となく見た事のある紋章だったのよね。」

ジゼルはにやりと笑いながら私を見つめる。


「そうですか、やはり来ましたか。

でも、おじ様が来たとは限りませんよね。」


「それがね、現国王陛下だったと主人が教えてくれたわ。」


そっかーやっぱり来ちゃったか~。

多分本人が来るような予感が有った。

きっとおじ様は、色々な所を本人が見て回り、私を探し回っているんだろう。

私も気を付けなくちゃ。

事が済むまで屋敷から一歩も出ない方がいいかもしれない。

もしかしたら、庭にさえ出ない方がいいかも。

そう、パーティーが済み、代表が全て帰るまで閉じこもっていよう。




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