道程
そして私はまた馬車に揺られたいた。
ただし、キルラルに行く馬車では無く、ゴートに行く馬車でもない。
先ほどの街と、10キロほど離れた街を1日数回往復している、ただの乗合馬車だ。
私は御者のおじさんに、家に帰る事にしたから、ここから引き返すと嘘を付き、
それから回復した天気の下、乗って来た馬車を見送ってから、
あのもう一つの停車場から出る馬車に乗り換えた。
この馬車は隣町のスファックスに行くらしい。
「街ならホテルぐらいあるでしょう?」
今日はそこに1泊して、後の事を考えよう。
そう思ったのだ。
しかし、この街にはホテルなど無く、私が困っていると、
すぐ隣の町ならあるよと、御者さんが教えてくれた。
そして運よく、隣町に行く今日の最終便に乗ることが出来た私は、
無事に今夜の宿泊場所を確保できたのだった。
チェックインも済み、ようやく部屋に落ち着いた。
それから街で買ってきた食料をテーブルに広げ、夕食とする。
人の多いレストランで、自分の目撃者を極力増やさない為だ。
「ごめんね赤ちゃん。
あなたが生まれる前から苦労させちゃうね。
だけど、もう少し頑張って。」
そう言いながら、お腹を優しく撫でる。
今日はずいぶん長い時間馬車に乗ってしまった。
明日はもっとゆったり移動しよう。
赤ちゃんの事を考え、そう決めた。
次の日は、チェックアウト間際までホテルでのんびりし、街に出た。
街をぶらつきながら、店を物色する。
帽子屋でつばの広い帽子を買った。
本屋さんで、地図と、薄いガイドブックを買った。
食料品店で、日持ちのする食料やお菓子を買った。
それから雑貨屋さんで、布でできた肩から下げれる
少し大きめのバックを見つけ買った。
公園のベンチで軽く食事を取り、荷物の整理をする。
安物に見えるけど、肩から掛けれるバッグには大切なものを入れる。
手で持つバッグにはどうでも無い物や、小銭入れを入れる。
「さて、これでいいでしょう。」
私は食べ終わったごみを捨ててから、停車場に向かった。
さて、どこに行こうかな。
停車場には、2台の馬車が停まっていた。
最終的にグレゴリー帝国に行き着けばいいのから、時間の制限も無いし、道はどこを通っても構わないのだ。
ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な。
結局右に止まっていた馬車に乗った。
終着地はキカタ。到着はおよそ4時ごろ。
無理もしないし、理想的な距離だ。
私はキカタまでの切符を買い、馬車に乗り込む。
馬車の中では、ひたすら寝ているふりをしたけど、外の様子のチェックは怠らない。
そして、そこそこ大きな町を通り過ぎる時、
ホテルを見つけたので、途中下車をした。
それから、そのホテルにチェックインし、部屋で地図を確認する。
今はここ、グレゴリーはここ。
大分遠回りしているけど、まあ順調よね。
とにかくゆっくりでもいいから、おじ様達に見つからず、
赤ちゃんに負担を掛けないようにグレゴリーに着けばそれでいいのだから。
それからの私は、まるで観光をしているような気持ちで、
度を楽しみながら、のんびりと旅をした。
グレゴリー帝国への国境付近に着いたいたのは、
家を出てから1週間後ぐらい経っての事だった。
さて、今日でこの国ともお別れ、
きっと故郷では、私の事を心配し皆が大騒ぎをしているだろう。
そう思うと、心が痛んだ。
でも、私は決めたんだ。
この国と、グレゴリーの間には大きな国境の川が流れている。
かなり上流に行けば川幅もこれほどで広くはないみたいだけど、
そこまで逆上るには、かなりの日数と、危険が伴うようだ。
私は手に入れたガイドブックを見て、この船に乗った。
この船は国境を渡る船。
中で身分証明書をチェックされ、問題が無ければそのまま隣の国に入れるのだ。
ラッキーな事に、この船の検査官さんはまだ新米みたいで、
どうやら船酔いでチェックどころではなかったようだ。
国の職員なので、代理の人を立てる訳にもいかず、
何とか真っ青な顔のまま仕事を終えて、部屋に戻っていった。
私の事が手配されている可能性も考えていてけど、
もしかして取り越し苦労だったのかもしれない。
とにかく結果として、私は堂々と国境を超えたのだ。
そして私は、晴れてグレゴリー帝国の地を踏んだのであった。




