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私はパン屋のマリーベル。

このお話は、かなり過去に戻ります。

ストーリーが本編と最初は繋がりませんが、そのうち”ああそうか”とつながる筈です。

軽ーく説明しますと、これはジュリエッタの祖母のお話です。

よろしくお願いします。


このお話は、かなり過去に戻ります。

軽~く説明しますと、これはジュリエッタの祖母の青春時代のお話です。

よろしくお願いします。


  *********


私マリーベル(後のジュリエッタの祖母)は、死んだおばあちゃんの後を引き継ぎ、王城の裏通りで小さなパン屋を営んでいる。

おばあちゃんが教えてくれた、シンプルなパンが主流だけど、

私はそれにひと手間加え、店の売りにしている。

お陰で、今まで来てくれていたお客様に加え、

新しいお客様も増えた。


ひと手間と言っても、

おばあちゃん伝来のシンプルかつ、美味しいパンをスライスして、

2枚の間にクリーミーな卵ベースのソースを塗り、

ハムとレタスを挟んだものや、

季節の果実をとっても甘く煮詰めたものを塗ったりして、

ガラスケースの中に彩りよく並べただけなんだけど。

それでも、今まで有ったパンとはシンプルなパン以外は、

干した果実を練り込んで焼き上げたものや、

ナッツ類を生地に練り込んだ程度の物だった。

まあ、おばあちゃんのパンは、それだけでも十分美味しいんだけど。

でも私は色々チャレンジしたくて、

自分で試食しながら、美味しいと思った物だけ並べてみたんだ。


まだまだアイデアは有るんだけど、とにかく今は店が忙しくて挑戦するのが難しい。

夜も明けきらぬ内から起きて、元となる数種類のパンの生地を作る。


『パンはね、とても繊細な生き物なんだよ。

ちょっとでも加減を間違うと死んでしまう。』


おばあちゃんはそう言って、パン作りを私に教え込んでくれた。

大切なもの、それは体力と温度。

それも発酵させる時の温度が大事。


『1回目の発酵はこれ位の感じ、2回目の発酵はこれぐらい。

季節やその時の気温によっても違うからね、

よく覚えておくんだよ。』


そう言って、発酵窯の温度を肌で覚えるよう私に教え、

焼き窯の温度も根気よく教えてくれた。

死んだ両親の代わりに、小さい私を引き取り、

将来に困らないよう、パン作りを叩き込んでくれたおばあちゃん。

お陰で、おばあちゃんが死んでしまった今も、

変わらず私は生きていける。


「マリーベル、もう焼き上がってるかい。」


チリンチリンと、店の扉の鈴を鳴らし、常連のコーラルさんが入ってきた。


「プレーンと、レーズンなら出来上がってるよ。」


私はそう答える。


近頃では焼き立てが欲しいと、

まだ6時過ぎだというのに、常連さんが買いに来るようになった。

お陰で私の起床時間も早くなっってしまったけど。

まあ、これもお金を稼ぐためだ。頑張ろうっと。


「ん~、今日は旦那の為に、奮発してレーズン入りにするかな。」


「またまた~、本当はおばさんが食べたいだけなんでしょ?」


「まぁ、そうとも言う。」


そして二人で大笑いをした。


朝のお客さんが絶えると、次は調理パン作り。

取っておいたパンをスライスして、色々なバリエーションを作っていく。


(そうだ、チーズのブロックを加えて焼いたらどうかな……。)


ふとそう思い付いた。


「それなら調理する手間もかからないし、きっと美味しい筈。

あとでチーズ買いに行こう。」


さて、お昼用に調理パンを買いに人が来るまでに、

早く作り終わらなくては。


するとチリンチリンとまた音がして、お客様が来たみたいだ。


「いらっしゃいませ。どれをお求めになりますか。」


「いや、つい香りに惹かれて入ったけれど、

どれもおいしそうだね。

その赤いのが挟まっているのは何だい?」


「これはキイチゴのジャムです、

キイチゴを甘く煮詰めたものがサンドしてあります。」


「へー、キイチゴか。」


目を輝かせ、お客様が言う。

とても良い身なりをしたロマンスグレーのおじさん、

いや、そんな下世話な言い方など似合わないその人は、

多分、身分のある人じゃないかなぁ。


「こちらのは、ハムとレタスかい?美味しそうだね。

そうだな~、それではこれと、そのキイチゴと、

それはもしかしてチョコレートかい?それも包んでくれ。」


結局お客様は、店に有ったほとんどの種類のパンを1つづつ注文した。

これじゃ、大急ぎで追加を作らなくちゃ。

買うなとは言わないけど、常連さんの分が足りなくなりそうだ。


すると、窓の外を、数人の男の人が、慌しく走っていった。

と思ったら、慌てて引き返し、店に入って来る。


「ようやく見つけました!

こんな処で一体何をしているんですか。」


「何って、パンを買っていたんだよ。

旨そうだろう。」


「あなたという方は……。

いい加減にして下さい。

街に行ってもいいとは言いましたが、

せめて護衛を付けるぐらいの常識を持ってください。」


あぁ、やっぱり偉い人だったんだ。


「別にいいだろう。

私は隠居した身だし。」


「良くありません!

失礼します。」


そう言ってその人は、お客様の持っていた大きなパンの包みを取り上げた。


「で、ご用はお済ですか?

よろしければ戻りますよ。

馬車…は必要ないか……。

では参りましょう。

お嬢さん、ご迷惑を掛けてすいませんでした。」


そう言って、周りの人はお客様を守る様に囲み、出て行かれた。


「まるで嵐みたいだったわね…。

さて、急いで追加のパンを作らなくちゃ。

……………そう言えばお客様からお代を貰い損ねた…。」


まあ、流れとは言え、請求しそびれたのは私だ。

仕方がない。


「さっ、さっきの分まで稼がなくっちゃ。」


私は大きな伸びをしてから、調理場へ向かった。

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