私はパン屋のマリーベル。
このお話は、かなり過去に戻ります。
ストーリーが本編と最初は繋がりませんが、そのうち”ああそうか”とつながる筈です。
軽ーく説明しますと、これはジュリエッタの祖母のお話です。
よろしくお願いします。
このお話は、かなり過去に戻ります。
軽~く説明しますと、これはジュリエッタの祖母の青春時代のお話です。
よろしくお願いします。
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私マリーベル(後のジュリエッタの祖母)は、死んだおばあちゃんの後を引き継ぎ、王城の裏通りで小さなパン屋を営んでいる。
おばあちゃんが教えてくれた、シンプルなパンが主流だけど、
私はそれにひと手間加え、店の売りにしている。
お陰で、今まで来てくれていたお客様に加え、
新しいお客様も増えた。
ひと手間と言っても、
おばあちゃん伝来のシンプルかつ、美味しいパンをスライスして、
2枚の間にクリーミーな卵ベースのソースを塗り、
ハムとレタスを挟んだものや、
季節の果実をとっても甘く煮詰めたものを塗ったりして、
ガラスケースの中に彩りよく並べただけなんだけど。
それでも、今まで有ったパンとはシンプルなパン以外は、
干した果実を練り込んで焼き上げたものや、
ナッツ類を生地に練り込んだ程度の物だった。
まあ、おばあちゃんのパンは、それだけでも十分美味しいんだけど。
でも私は色々チャレンジしたくて、
自分で試食しながら、美味しいと思った物だけ並べてみたんだ。
まだまだアイデアは有るんだけど、とにかく今は店が忙しくて挑戦するのが難しい。
夜も明けきらぬ内から起きて、元となる数種類のパンの生地を作る。
『パンはね、とても繊細な生き物なんだよ。
ちょっとでも加減を間違うと死んでしまう。』
おばあちゃんはそう言って、パン作りを私に教え込んでくれた。
大切なもの、それは体力と温度。
それも発酵させる時の温度が大事。
『1回目の発酵はこれ位の感じ、2回目の発酵はこれぐらい。
季節やその時の気温によっても違うからね、
よく覚えておくんだよ。』
そう言って、発酵窯の温度を肌で覚えるよう私に教え、
焼き窯の温度も根気よく教えてくれた。
死んだ両親の代わりに、小さい私を引き取り、
将来に困らないよう、パン作りを叩き込んでくれたおばあちゃん。
お陰で、おばあちゃんが死んでしまった今も、
変わらず私は生きていける。
「マリーベル、もう焼き上がってるかい。」
チリンチリンと、店の扉の鈴を鳴らし、常連のコーラルさんが入ってきた。
「プレーンと、レーズンなら出来上がってるよ。」
私はそう答える。
近頃では焼き立てが欲しいと、
まだ6時過ぎだというのに、常連さんが買いに来るようになった。
お陰で私の起床時間も早くなっってしまったけど。
まあ、これもお金を稼ぐためだ。頑張ろうっと。
「ん~、今日は旦那の為に、奮発してレーズン入りにするかな。」
「またまた~、本当はおばさんが食べたいだけなんでしょ?」
「まぁ、そうとも言う。」
そして二人で大笑いをした。
朝のお客さんが絶えると、次は調理パン作り。
取っておいたパンをスライスして、色々なバリエーションを作っていく。
(そうだ、チーズのブロックを加えて焼いたらどうかな……。)
ふとそう思い付いた。
「それなら調理する手間もかからないし、きっと美味しい筈。
あとでチーズ買いに行こう。」
さて、お昼用に調理パンを買いに人が来るまでに、
早く作り終わらなくては。
するとチリンチリンとまた音がして、お客様が来たみたいだ。
「いらっしゃいませ。どれをお求めになりますか。」
「いや、つい香りに惹かれて入ったけれど、
どれもおいしそうだね。
その赤いのが挟まっているのは何だい?」
「これはキイチゴのジャムです、
キイチゴを甘く煮詰めたものがサンドしてあります。」
「へー、キイチゴか。」
目を輝かせ、お客様が言う。
とても良い身なりをしたロマンスグレーのおじさん、
いや、そんな下世話な言い方など似合わないその人は、
多分、身分のある人じゃないかなぁ。
「こちらのは、ハムとレタスかい?美味しそうだね。
そうだな~、それではこれと、そのキイチゴと、
それはもしかしてチョコレートかい?それも包んでくれ。」
結局お客様は、店に有ったほとんどの種類のパンを1つづつ注文した。
これじゃ、大急ぎで追加を作らなくちゃ。
買うなとは言わないけど、常連さんの分が足りなくなりそうだ。
すると、窓の外を、数人の男の人が、慌しく走っていった。
と思ったら、慌てて引き返し、店に入って来る。
「ようやく見つけました!
こんな処で一体何をしているんですか。」
「何って、パンを買っていたんだよ。
旨そうだろう。」
「あなたという方は……。
いい加減にして下さい。
街に行ってもいいとは言いましたが、
せめて護衛を付けるぐらいの常識を持ってください。」
あぁ、やっぱり偉い人だったんだ。
「別にいいだろう。
私は隠居した身だし。」
「良くありません!
失礼します。」
そう言ってその人は、お客様の持っていた大きなパンの包みを取り上げた。
「で、ご用はお済ですか?
よろしければ戻りますよ。
馬車…は必要ないか……。
では参りましょう。
お嬢さん、ご迷惑を掛けてすいませんでした。」
そう言って、周りの人はお客様を守る様に囲み、出て行かれた。
「まるで嵐みたいだったわね…。
さて、急いで追加のパンを作らなくちゃ。
……………そう言えばお客様からお代を貰い損ねた…。」
まあ、流れとは言え、請求しそびれたのは私だ。
仕方がない。
「さっ、さっきの分まで稼がなくっちゃ。」
私は大きな伸びをしてから、調理場へ向かった。