一部の人の ハッピーエンド
そりゃぁ、好きか嫌いかと言われたら、そりゃぁ……。
「でもね、スティール様は、今まで弟みたいな方で、
そんな事全然考えてなかったし、
急にそんな事を言われても困るわ。
彼だって、実際に私を姉としか見てない筈だし、
あの時はたまたま…。」
「愛していると仰ってましたよ。」
「へっ………。
うっ、嘘。
だって彼がこんなちっちゃい頃から一緒だったのよ。
その頃から私はアンドレア様の許嫁として、彼の前にいたのに、
恋愛対象になる訳、無いじゃないの。」
「だからこそですよ。
お兄様の許嫁というポジション自体、彼にとっては既に異性として意識させるものです。
それも、既に自分の手に届かない存在。
それこそ禁じられた恋ですわ。
そしてその憧れの女性が虐げられているのを見て、どういう気持ちを持たれたか。
もし、お嬢様がその立場だったらどう思いますか?
それを考えただけで萌えますわよねぇ。」
そ、そんな…。
でも、確かに好きな人が虐められたら、何とかして助けたいと思うわ。
絶対に助けるって……。
「で、先ほどの質問に戻りますが、
お嬢様はスティール様の事がお嫌いですか?」
オーロラ、その聞き方は卑怯よ。
逆の聞き方をしてくれれば、まだ答えやすかったのに…。
「お嬢様?」
「き、嫌いじゃ…無いわ。」
「嫌いでは無いと、では好きなのですね。」
「だから、嫌いじゃあ、無い…。」
「お嬢様、私は好きか嫌いかを聞いているのです。」
「そうよ、だからさっきから、」
「お嬢様、はっきり仰って下さいませ。
このオーロラ、お嬢様をそんな優柔不断な人間にお育てした覚えは有りません。」
ひっ、分かった。分かりましたから、怒らないで―。
「すっ、好きです。好きの方ですー。」
「嬉しい!私も好きだよー!」
そう言っていきなりドアを開けて入ってきたスティール様。
立ち聞きなさってたのですか~。
「私もジュリエッタの事が好きだよ。
愛してる。
そうか、私たちは相思相愛なんだね。」
ものすごく嬉しそうにスティール様が言う。
それも私をギュウギュウ抱きしめながら。
「ですから、スティール様。
好きと愛しているは別物で」
「ジュリエッタは、私を愛していないの?」
何ですか、その捨てられた子犬みたいな目は!?
「良くお聞きください!私はスティール様の事、嫌いでは有りません。
好きです!」
「本当に?私のこと好き?」
「好きです!」
「凄く嬉しい!
ねえ、もう一度言って。」
「好きです。何度言わせるんですか。」
「何度でも聞きたいんだ。もう一度言って。」
「あーもう、好きです。」
「あぁジュリエッタ。私も好き、愛してる。
ジュリエッタ。もう一度、愛しているって言って。」
「はいはい、愛してます。」
……………。
「やった!お義父上、お義母上。
お聞きになりましたよね。
ジュリエッタは私の事を愛しているんです。」
「まあ良かったわ。
これで二人は相思相愛の仲。
何の障害も無くなったことですし、晴れて結婚できるのですね。
良かったわ。ね、あなた。」
喜ぶお母様と、それをあきらめきった目で見つめるお父様。
「………。おめでとうジュリエッタ。」
お父様、そのお顔は全然お祝いを言っているような顔では有りません。
「あの後、ジュリエッタを休ませてから、私達の縁談話が出たんだ。
私はぜひジュリエッタを妻にしたいと言ったんだけど、
ご両親はジュリエッタが本気でないと了承できないと仰って、首を縦に振ってくれなかったんだ。」
当たり前です。私の気持ちが共わなければダメ。
「それでね、条件を出されたんだけど、
その条件が、ジュリエッタが僕を愛してくれれば認めてくれるって。」
それで愛か……。
「でも、ジュリエッタは私を愛してくれているんだよね。
嬉しい。
これで私たちは晴れて婚約者同士…。
結婚できるんだ!」
私はお父様を見つめた。
お父様なら何とかしてくれるはず。
するとお父様は、お母様を見、オーロラを見、スティール様を見て、
最後に私を見つめ、ゆっくりと首を振った。
そうですわね。私達にとって、最強の敵が雁首揃えていますものね。
最強の押しと、最強の理論と、最強の策士。
私達が勝てる相手では有りませんでした……。
「取り合えず、僕の誕生パーティーで、王太子即位の正式な発表が有るんだ。
その時一緒に婚約発表をしようね。」
スティール様、滅茶苦茶嬉しそうですね。
「結婚式は、そうだな、1年後でどうかな。
そうだ、ジュリエッタの20歳の誕生日なら喜びも2倍だ。
いや、それ以上だ。
いいですよね、お義父上、お義母上!」
「まあ、スティール様ったら。
これは国家を挙げての事となる筈。
此処で決める訳には参りませんわ。
でも、私達には、何の異論も有りませんわよ。」
「ようございました。おめでとうございます、お嬢様。」
オーロラ、あなたは私の味方だと思っていたのに…。
でも私には切り札が有るわ。
グレゴリー帝国のお祖父様なら何とかしてくれる筈。
次なる策をめぐらせ、さっさとグレゴリー帝国に。
「あっ、ジュリエッタ。
実はね、あの後みんなでお祝いの乾杯をしようとした時、
私が誤って、ジュリエッタが書いてくれた書付にシャンパンを溢してしまったんだ。
お陰で全然読めなくなってしまってね。
後ほど父上の正式な依頼があると思うけど、もう一度書き直してくれるかな。」
何ですと…。
「私も一緒に立ち会うから、ごめんね何度も面倒を掛けて。
だから、そんなにジュリエッタの手を煩わせちゃ申し訳ないから、ややこしく書かなくていいからね。
ただ一言”グレゴリー帝国に行かない”って書いてくれればいいんだ。」
………………。
「ふふ、ジュリエッタ。
一生幸せに暮らそうね。」
この策士め!
せっかく好きになっていたのに!
書き付けが何ぼのもんだい!!
2か月、そうスティール様の誕生日まで2か月有る!
お祖父様に助けを求めてでも、絶対にそれまでに私はグレゴリー帝国に行って見せるわ!!!!
***** 完 *****
ジュリエッタ。親というものはね、子供の幸せを一番に考えるものなの。
たとえその時は理不尽に思えても、長い目で見て絶対幸せになるって分かれば、
たとえ恨まれようとも…ね。
終わりましたー。
一応考えていたラストまで終わりました。
本当にありがとうございました。
(続編掲載予定です。
彼女が頭の中で、ブーブー言ってますので。)