変化
危ない!スティール様!!
しかしスティール様はすでに身構え、アンドレア様の攻撃に対し防御態勢に入っていた。
でも、でもですね。
何故に私の行動を見た途端、にっこり笑って力を抜く!
えーい、ままよ。
私はその勢いのまま、持っていた銀色の金属を、アンドレア様のナイフに向かって振り上げた。
スコーンと小気味いい音と共にナイフはアンドレア様の手を離れ、宙を舞う。
だが、やはり運の悪い人はいるのだ。
私の持っていたトレーは、勢いそのままにアンドレア様の顔面にクリーンヒットした。
あ、あら、ごめんあそばせ?
この銀のトレーは、重いものを載せる為か、かなり頑丈にできていて、且つとても重い。
私にだってこれを振り回すのは無理だ。
でも、スティール様の窮地を救わなければと思ったせいでしょう。
つい、振り回してしまいましたわ。
ほほほほっ。
アンドレア様は、まるでスローモーションのように、綺麗な円を描くようにナイフと共に宙を舞いました。
あら、鼻血が………。
「アンドレア様!!
ジュリエッタ様!何て事を!
私のアンドレア様に何て事するんですか!
御覚悟!!」
その声がする方を振り返ると、ミレニアが般若のような顔付きで、私に向かってワインの瓶を振り上げていた。
あ………、私、終わったかも……………。
暗転
気が付くと、目の前には見覚えのある天蓋。
朝か……。
早く起きないと、またメイド頭のオーロラが、箒片手に起こしに来る。
ガバッと起きると、頭に激痛が……。
「あぁ、ダメだよ。急に動いちゃ。」
誰!私の部屋に、何の許しも無く入るなんて。
見ると、スティール様が私の右手を握ったまま、心配そうにこちらを見つめている。
「ス、スティール様!何故ここに!?」
あたたた……。
「大丈夫かい?見せてごらん、ああ可哀そうに、こんなに大きなコブを作って。」
コブ?
ああ、そうだった。
私はパーティーでミレニア男爵令嬢様……ミレニアに、瓶で殴られたんだった。
不覚!!
「愛しいジュリエッタ、あなたが治るまで、私が付きっきりで看病してあげるからね。」
そう言って私を抱きしめるスティール様。
「な、何をなさるのですスティール様!
ちょっ、放して下さいませ。」
「そんなぁ、婚約者に向かって冷たいなぁ。」
………今…、何て仰いました?
「婚約?誰が?……まさか……。」
「そうか、あなたは気を失っていたから、事の顛末を知らなかったね。
あの後ちょっと有ったんだ。」
「ちょっとって、何が…。」
ふふふと、相変わらずの天使のような笑みを浮かべるスティール様。
でも、その後ろの黒いオーラを消し切れてません。
「その場で君を医者に見せた後、ベッドに休ませてからひと悶着あったんだ。」
まあ、有るでしょうね……。
「とにかく、君を殴ったミレニア男爵令嬢は家を出されるみたいだよ。
伯爵令嬢に暴力を働いたんだものね。それも大勢の人の前で。」
「では、アンドレア様との結婚は…。」
まさか、アンドレア様と男爵令嬢で無くなったミレニアとの結婚はご破算になるかも、不味い、それは困る。
「するみたいだよ。」
「へっ?」
「既に王命が下されているからね。あの二人は結婚する。」
そう、良かった。
「だが、何の身分も持たない男が王太子の命を狙ったんだ。
今は捕らえられ、牢に入っている。」
?????あぁ、アンドレア様の事ですか。
えっ、牢に入っているんですか!?
まあ、あの時点で陛下が、アンドレア様の王太子の位を剥奪すると宣言なさいましたから、
あの時はただの一般人の筈…。
お可哀そうに……てっ、元凶は私か。
「この後詮議され、その処遇を決める。
だけど、二人の結婚は覆らないよ。」
そう、それは良かった。
じゃない!
「でも、ミレニア様は家を出されるんですよね!」
「それはそうだろう。仮にも伯爵令嬢を、それも一応は王家の血を引く女性を、
多くの人の前で殴り倒したんだから。
いくら男爵家が頑張ったって、処分は免れない。
家を出される程度で済んでラッキーだったんじゃない?」
まあ一般論から言ったらそうかもしれない。
「でも、そうなると、アンドレア様とミレニア様の結婚は無理では…。」
「んー、遠距離恋愛?いや、結婚か。」
……………。
仕方ないか、時間が成る様にしてくれるでしょう。
はっ、感慨に浸っていてはダメ。私はそれ処じゃ無かったわ。