勝敗は決す
「父上、スティールの考えは甘すぎます。
そんな施しをしても、国民はつけ上がるだけです。
納めるものは、きっちり納めさせる。
さもないと”何かあったら国が何とかしてくれる”と思い、努力を怠ります。
おまけに、自身での創意工夫をしなくなってしまう。
国を頼り切った自堕落な国民になってしまいます。
国の財産を放出?
それではまさかの事態に金が無かったらどうしますか。
全く、スティールはまだまだ子供ですね。
国政と言うものをまるで分っていない。」
さも得意そうに持論を並び立てるアンドレア様。
確かにそれも一理あるかもしれません、
しかし、国民の感情を考えれば……。
「兄上、確かに兄上の言いたい事も分かります。
しかし、今まさに、そのまさかの事態が起きようとしているのです。
国民の事を蔑ろにして、良い国になるとお思いですか?
国民有っての国家です。
国民無くして国は成り立ちません。
それに、もし国民の多くが国に不満を募らせ、
それが膨れ上がり、暴動など起こしたらどうされますか。
国の財政を使い、それを鎮圧しますか?
それでは、鎮圧にあたった兵もかなりのダメージを食らい、
多くの民を失う事にもなるでしょう。
街も焼け、かろうじて残っていた作物にも影響が出るやもしれません。
一体幾らの損失になるでしょうね。
それでしたら、どうせ失った物かもしれないと諦め、
国民に還元してあげた方が、よっぽど有益では有りませんか。
まあ、これらは天気が回復さえすれば杞憂となりますが。
ですが、今から有事に備えておく事も大切と思います。」
パチパチパチパチ!
「だが!
だがそれは、単なるスティールの想像じゃないか。
実際に起こるとは限らないだろう。」
「では、兄上の言う通りにして見ますか?
そして、逼迫した国民の様子を眺めればいい。
果たしてその様子を見て、何も感じないようだったら、あなたには国を背負う資格はない!」
悔しそうな顔をしてスティール様をにらみつけるアンドレア様。
そこまで言われても、自分の保身ばかり気にする。ここまで言われて、まだ分からないのですか。
だが、や そんな事を言っていては、などと、スティール様の言葉を否定しようと知恵を絞っている様子。
そこまで言われても考えを改めない時点で、既に国を背負う、つまり次期国王陛下となる資格は有りません。
今までの流れを見ていた会場の方々は、お二人の方に注目し、何やらひそひそと話し合っています。
どうやら、私から興味がそれたみたいです。
よしよし、このままアンドレア様を引きずり下ろし、
私の事は有耶無耶とし、さっさと逃げ出しましょう。
「お前たちの考えはよく分かった。」
「「父上。」」
「ちょうどここには大勢の者たちがいる。
ならばのちに通達を出すより、今決められる事を決めてしまった方が手間が省けるであろう。」
その通りですわ国王陛下。
ここで一気に行っちゃって下さい。
「我が第一子、アンドレアは隣におるミレニア男爵令嬢と近日中に婚姻を結ぶ。」
陛下は声を張り上げ、そう宣言した。
「これに関してはわしも書面に認めた為、覆ることは無い!」
やりましたぁ、これで私はアンドレア様から完全に逃げ切った。!
「しかし!アンドレアとの婚姻を結ぶミレニア嬢は男爵の身。
結婚するのにはいささか不都合となる。」
ま…あ、そうですが……。
もしや国王陛下、ミレニア様をどちらかにいったん養子縁組をした後で王太子妃に……。
「従って、アンドレアの王太子としての位を剥奪したのち、ミレニア男爵令嬢との婚姻を結ぶものとする。
なお、空白となった王太子の座にはスティールをその座に据える事とする。」
おおっと、まさかの爵位剥奪からの婿入りですか。
「そ、そんな馬鹿な!
私がいったい何をしたと言うのです。
なぜこのような目にいきなり……。」
ごめんなさい。まさか私もここまでとは思っていませんでした。
「これと言うのも、スティールのせいだ。
お前さえいなかったら私は!」
そう言い、いきなりスティール様にとびかかるアンドレア様。
その手にはいつの間にかナイフが握られていた。
そんな物、一体どこに隠し持っていたのよー!
私は近くにあった、銀色のトレーをつかみ走った。