婚約破棄へのプロローグ
ちょっと長めの短編です。
「アンドレア王太子殿下、本日ここにおきまして、あなたとの婚約を破棄させていただきます。」
私は我が国の第一王子である、アンドレア様をにらみつけ、そう宣言した。
「なっ!一体何を言っているんだ!」
何って、今の私の言葉を聞いてなかったんですか?
あなたと私の婚約を破棄すると言ったのですよ。
私ジュリエッタとアンドレア様は、幼少の頃からこの婚約を余儀なくされた。
理由はいたって簡単。
わが父にも王位継承権があったからだ。
その上かなりの人望もあった。
それを脅威に思った王室は、私とこの王太子殿下を結婚させ、
この国に波風を立てず、且つ我が家が継承権を行使しないようにと、一方的にこの婚約を進めたのだ。
両親は何とか断ろうとしたらしいが、王室の声がかかっている上級貴族からの圧力が有り、断れなかったと言う。
「だが、お前が大きくなって、この婚約が嫌になったら必ず私たちに相談するんだよ。
必ず何とかしてあげるから。」
両親は、私が幼い頃から、まるで呪文のようにそう言っていた。
でも、私にだって、考える頭は有る。
押し付けられた結婚など、普通は反感を持つだろう。
たとえ相手の事が気になっていたとしても、
押し付けられた相手を、素直に好きだなんて言えないのがセオリーだ。
王子さまとの結婚。
最初の頃は、子供ながらにドキドキもした。
それも王太子殿下が嫌がらせを始める迄の話だ。
誰が意地悪をされてまで、相手の事を好きでいるものか。
(まあ、中には例外もいるかもしれないけど。)
それでも私は、淑女であれとの教育を素直に受けた。
婚約が成立した以上、一応王太子妃となる身だ。
その為の教育も我慢して受けた。
この結婚がなされた場合、それを身に付けていない事で、後々恥をかくのは自分だ。
だから小さい頃から、不平も言わず、顔にも出さず、王太子妃たるものの教育を受けのだ。
かなりきつかったけれど、努力したなりの見返りは必ず有る筈だ。
だが、限度にもほどがある。
アンドレア様は、多分私との結婚に反感を持ったのだろう。
いつも私に冷たく当たり、そのうち嫌がらせをするようになった。
そのくせ、陰では私の事を熱い目で見ていた。
何て大人気の無い。
ところがそれだけでは済まなくなった。
ある時から、アンドレア様は、たまたま舞踏会で知り合った男爵令嬢のミレニアと、
まるで私に見せつけるかのように親密になっていった。
アンドレア様にとっては、私に対する嫌がらせだったのかもしれない。
しかし、相手のミレニアは、まるで自分がシンデレラになったかの様子だった。
それはそうだろう。
しがない男爵令嬢に、いきなり王太子妃への夢が降ってわいたんだ。
もう、今の彼女にはアンドレア王太子殿下の事しか考えられないだろう。
「ごめんなさい、ジュリエッタさん。
でもアンドレア王子様は、私を愛してしまったの。
どうか私達をそんなに責めないで下さい。
そしてお願いだから、何も言わずに身を引いてちょうだい。」
馬鹿ですか。
おまけに王子様ですか。
ちゃんと王太子殿下と仰い。
ミレニアは伯爵令嬢でもある私に、人の目のある所で声を掛け、堂々と裏庭に呼び出し、
まあ予想はしていたけれど、いきなり直球でそんな事を言う。
彼女の周りには、10人ほどの少女が、皆同じように目を潤ませ、私を見つめている。
多分、同じ男爵令嬢や、大地主の娘、大手の商家の娘達だろう。
夢見る一団と言う表現がぴったりだ。
大方、ミレニアと、王太子殿下のラブロマンスに萌え、
まるでコバエの様にミレニアの周りに群れているのでしょう?
私は呆れかえって深いため息をついた。
「あなたは、爵位と言うものをご存じなの?
私は伯爵令嬢、そしてあなたは男爵の娘。
これがどういう意味を持つのか、教えてくれる人はいなかったの?」
「そ、それは知っているわ。
確かに今の私は、あなたより格下よ。
でも、アンドレア王子様と結婚すれば、私は王子様の妻になるの。
あなたは私に逆らう事は許されない立場になるのよ。」
いかにも勝ち誇ったような顔で私を薄ら笑う。
そうね、何事も無く、無事にあなたたちが、結婚すればの話だけれど。