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プラトニック・ウィッチと科学文明の使者  作者: 巫 夏希
第一章 五つの魔術結界
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第三話 理解

「ぶち殺す……。お前それ本気で言っているのかよ!?」


 柊木は、エレンの言葉に強く反発した。

 しかし、反発したところで何かが生まれる訳でもない。

 寧ろ、魔術師にとってはそれが有難いことだったのかもしれない。

 魔術師にとっては、その選択が正しいことだったのかもしれない。

 いずれにせよ。

 魔術師はこのままこの若者を背負っていくつもりは毛頭ない。何処かで必ず『処分』するタイミングがやって来るはずである。

 しかし。

 しかし。

 しかし、だ。


「……しかし、君をここで放っておく訳にもいかないんだよねえ。君は既に僕達の仲間だと認知されてしまっているだろう。その状態で、君を放っておいたらどうなると思う? 答えは単純明快だ。……君は殺される。間違いなく、ね。殺されなかった、としても尋問にかけられるのは間違いないだろう。科学文明の尋問のやり方には詳しくないが、薬とか使うのだろう? 我々魔術サイドじゃやりたがらないやり方だ。君がそれに耐えられるなら、ここで逃げても良いけれどね。まあ、君が持っている情報なんて殆どない訳だし。どちらでも構わないよ? 足手まといになることは間違いないだろうけれど」

「……その言い方って、ひどいんじゃないですか」


 言ったのは、柊木だった。


「だって、間違っていないじゃないか。君はただの一般人だ。普通なら、このまま家に帰って飯でも食って勉強でもしてそのまま寝ればまたいつもの日常がやって来た人間だ。そして、その間に僕達は任務を終え、内側から研究都市を破壊する予定だった。しかし、お互いに予定外のことが起きてしまった。これは大変なことだよ。分かるかい? 分からないだろうねえ」

「……だったら、どうすれば良いんですか」

「もし、君がついていくというのなら、これを君に預けよう」


 そう言って取り出したのは……小さな紙だった。紙には何か色々な文字が書かれているようだった。それが数枚、束ねられた状態になっている。


「ちょっと、あんた。それって……」

「何、たいしたことではない。ただの護符だよ。君を様々な災厄から守ってくれるだろう。ただし、一枚につき使えるのは一回だけ。枚数は全部で五枚。限りあるタイミングで使ってくれたまえ。……さあ、どうする? ついてくるかい? ついてこないかい? 選択は君に任せるよ」

「ついていこうが、ついていくまいが、結局は振り回されるってだけなんだろ」


 柊木は言った。

 はっきりと言い放ったのだ。

 そして、さらに話を続ける。

 それにどんな意味を持っているのか、分かっているのは彼だけだったかもしれない。


「だったら、ついていくよ。あんた達に。今更逃げるつもりはないよ。逃げたところで、何かされるというのなら……俺はあんたについていく。それで何も悪いことはないだろ。あんた達にとって、俺がどれくらいの価値になるかは分からないけれどさ」

「その覚悟だけは受け取ってやる」


 言ったのは、マリナだった。

 マリナは小さく舌打ちをした後、そのまま右手を差し出す。


「私はマリナだ。改めてよろしく頼むよ、柊木カナメくん?」

「……こちらこそ」


 そして二人は握手を交わす。

 それがどれ程のことだったのかは分からない。

 しかし。

 魔術サイドと科学サイド。

 お互いの存在がここに居るということは、少し場違いだったのかもしれない。

 だとしても、それが正しいかどうかを見極める術は今の彼らには持ち合わせていない。

 それが正しいか正しくないかは――後の歴史が決めることになるだろう。


「よし。だとしたら作戦開始と行こう。……僕達がこれからするべきことは何だと思う?」

「さっき言っていた通りなら、魔術結界を破壊するだのどうの……」

「そう。魔術結界を破壊すること。これが僕達の役割だ。それ以上は、裏を返せばやらなくても良い。そこから先は、魔術協会のする仕事だからね」

「魔術協会?」

「この仕事が終わったら、君をそこで保護して貰えるか連絡してみよう。とどのつまりが、魔術側の総本山だよ。敵対している科学文明からしてみれば、敵の総本山と言えば良いのかもしれないけれどね」

「でも、俺は敵だと思ったことはないぞ。魔術のことなんて気にしたこともなかった」

「そうだろう。ああ、そうだろうね。魔術師は……とどのつまり、オカルトは、この世界において弱小な立ち位置になっている。魔術師という存在そのものを潰してしまおうという存在すら現れつつある。そんな僕達がやらなくてはいけないことは、何だと思う?」

「だから、さっき言っていた科学文明の総本山を潰すってことだろ。それぐらい俺にも分かる」

「分かって貰えて助かるよ。……終わったら、確実に君を魔術協会で保護して貰えるように連絡する。だから今は黙って僕達の指示に従ってくれ。良いね?」

「それは分かったけれど……」

「うん?」

「今は、こいつらを何とかするべきなんじゃないのか?」


 見ると、彼らの周りには数人の学生がたむろしていた。

 ただの偶然とは思えない。これは――必然だった。


「奴ら、魔術を感知することが出来るのか……!? だとしたら、時間がない。急いでここから逃げ出さないと……!」

「来るっ!!」


 マリナの言葉の直後。

 ゴバッ!! という衝撃があった。

 


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