表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プラトニック・ウィッチと科学文明の使者  作者: 巫 夏希
序章 科学文明にようこそ!
2/5

序章Ⅱ

 ■『研究都市』第十三学区



「ったく、夏休みに補習なんてほんとう勘弁して欲しいぜ」


 少年、柊木カナメはそう言って自動販売機の前に立っていた。

 ジュースを買おうとして、自動販売機の前に立っていたのだが――彼の手持ちが今、小銭が尽きていて、千円札しかなかった。


「まあ、でも千円札でも良いか……なんて思っていたらこれだもんなあ」


 見ると、小銭のお釣りがなくなりましたと表示されたランプが点灯している。

 ICカードでもあれば良かったのだろうが、簡単に(セキュリティがあるとはいえ)無尽蔵にチャージ出来てしまうICカードをそう簡単に持ち歩くことなんて出来やしなかった。そういうこともあって彼はこのご時世に珍しく現金を持ち歩いていた――訳なのだが。


「仕方ねえ、ここでくよくよしていたって何も始まらない。だったら、スーパーなりコンビニなり探しちまった方が良い。……アプリ導入しろって言われるかも知れないけれど」


 柊木の携帯はスマートフォンだ。そもそもこのご時世、『ガラケー』というワード自体が死語になってしまっていて、既に機能していない。だからこそ、そのアプリを導入しろだの言われてしまう訳だが。


「……ったく、電子決済の何処が良いんだか。あれってデータで管理されているから、データ管理のサーバかもしくは機器がおしゃかになったら、それこそ意味ないと思うんだけれどなー」


 そんなことを呟いても、この研究都市では無意味である。

 何せ、この研究都市は、世界最高峰の技術を詰め込んだ、いわば『技術のデパート』的存在。

 それでいて、未来ある若者を多く育てるために学術機関も担っている、いわば科学文明のトップを担う場所である。


「……ま、こんなところでそんなこと言っても無駄なんだけれど。分かっている、分かっているよ。俺の考え一つじゃ、世界が何一つ変わらないことぐらい」

「だから! ジュースを買いたいけれど、外貨しか持っていないって言っているでしょう!?」

「どうして外貨しか用意していなかったんだ! 日本に向かうんだから、日本円を用意しておくのは充分に有り得る話だっただろうが!」

「一応未だ日本円は安定した貨幣価値を持っているんだっけ? でも、電子決済が上手くいくと思ったのよ! その方が上手くカモフラージュ出来ると思ったし!」


 ……自動販売機の前で、何だか変わった風貌の二人が口喧嘩をしている。


(……いったい何を喧嘩しているんだろう? 日本語のようだけれど、背格好は日本人のそれじゃないし。海外から旅行にやって来た、といったところかな?)


 研究都市の技術を見に、海外からやって来る旅行客も珍しくはない。

 だから彼はそんなことを思って――声をかけた。


「あの、」

「うん?」

「もし、あれなら俺がジュース代払いますけれど」

「ええっ? 良いの? ほら見なさい。研究都市に居る唯一の救いよ! これが!」

「うーん、確かに研究都市にも良い人間が居るというのは分かったけれど……。ごめんね、僕達はそういうのを貰わない主義なんだ」

「そうなんですか? でも、こちらの人、とてもジュースを飲みたそうな顔をしていますけれど。……もしあれなら、外貨も使えるコンビニの場所とか調べましょうか?」

「ほら見なさい1 こんな素晴らしい人間も居るのよ、この場所には! やっぱり……潰すべきじゃないのかしら?」

「マリナ。まさか彼に情が移ったなんて言わないだろうね?」

「冗談よ、冗談。私は何も思っちゃいないわ。……ごめんね、坊や。ありがとう。私達はこれからやらないといけないことがあるの」

「やらないといけないこと?」

「そう。それは――」


 ざっ、と土を蹴る音がした。

 気がつけば、彼らの周囲を学生服の女子達が取り囲んでいた。


「……これはこれは、随分と立派な歓迎じゃないか。これが研究都市流のやり方、ってことかい?」

「え、え、ええっ? いったいどういうことなのか、さっぱり分からないんだけれど?」

「……ここは乗り越えるしかないね」


 そう言って、青年は柊木の目の前に紙を置いた。


「これは……紙?」

「紙は紙でもただの紙じゃない。そう、それは……」


 刹那、少女達から電流が迸る。

 それを受けてしまう位置に立っていた柊木だったが――その紙が生み出した『結界』によって守られた。


「これは……?」

「うんうん。上手く動いているようで何より。……これはね、魔術結界さ。魔術で生み出した、結界のことだよ。魔術についてどれくらい詳しいかな?」

「魔術って……要はオカルトだろ? それなら、図書室の本で読んだぐらいの知識しかないけれど」

「そうか。ならば質問を変えよう。……彼女達に心当たりは? 見た感じ、この研究都市で開発されたように見えるけれど」


 バチバチ、と電流が弾ける音がする。

 その電流の発生源は――明らかに少女達からだった。


「知らねえよっ!! 知っていたら、ぺらぺら喋っているって! そもそもこんな技術、研究都市で生み出されたものなのかどうかも分からねえしっ!」

「成程……つまり君はこれを知らない、と」

「それじゃ、私達と一緒ねっ!」


 そう言って、彼女達は走り去っていく。

 残された彼に、照準を合わせていく少女達。


「……これ、俺も逃げなきゃいけないやつ……っ!」


 急いで彼も、彼女達に追いつくように走り去っていった。


「対象、逃げました。追いかけますか」


 少女達の一人がインカムに問いかける。


『追いかけたまえ、ただし深追いは禁物。相手は魔術師だ。どんな魔術を使ってくるか分かったものではないからね。破壊工作を出来るだけ食い止めて、出来る限り無傷で「テロリスト」を引っ捕らえる。それが君達の役目だよ』


 インカムから聞こえるその言葉を聞いて、小さく頷く少女。


「了解。それでは、追いかけます」


 その言葉を聞いて、先導の少女が走り出す。それを見た後列の少女達も追いかけていく。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ