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プラトニック・ウィッチと科学文明の使者  作者: 巫 夏希
序章 科学文明にようこそ!
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序章Ⅰ


 ■『研究都市』北門


『はいはい、皆さんようこそいらっしゃいました。研究都市へ! 世界最高峰の技術が揃うこの研究都市では、技術を持ち帰ることは出来ませんが、自由に見学することは出来ます! その場合、カメラなどの持ち込みは固く禁じられています。ああっと、でもご安心ください。研究都市では特別なカメラを研究しており、それを利用することが出来ます! それは持ち帰ることは出来ませんが、研究都市での皆さんの思い出を彩ることは出来るでしょう。ですから、是非カメラのご購入を検討ください。スタンディング・カメラ・カンパニーの提供でお送りしました!』

「どうしてカメラに拘るのかと思っていたら、カメラメーカーのスポンサーだったのかよ。何でもかんでもスポンサーを付ければ良いと思っているよな、この『研究都市』は」

「まあまあ、目立った行動は抑えた方が良いよ? これから僕達がやるべきことは重要なことだから」


 異質な二人だった。

 黒いロープのようなものがローブに引っかけられているスタイルで(決して洒落を言った訳ではない)、そのロープがとても邪魔に見えてしまう。しかし、そのロープとローブの間を通して腕を伸ばしている彼女は、その格好がとても良く似合っている。金髪である、ということも影響しているのか、和服や普通の制服ではない何か別の服でも似合ってしまうのかもしれない。

 もう一人は、至ってシンプルな学生服だ。黒のズボンに、白のYシャツ。持っている鞄の大きさに着目しなければ、彼は至って普通の学生であると認識されてしまうだろう。

 そう。彼らはただの人間として侵入しなければならなかった。

 ならば、彼女の格好をまともな格好にするべきである、と思うのは当然なことであるが。

 しかしながら、彼女がその格好をしているのも魔術的に意味を持っている。ロープは円形を描いており、それが循環するように出来ている。しかし、魔術を知らない人間からすれば、それはただのファッションだとしか認識しないだろう。


「……それにしても、荷物検査もなしとは、これが世界最高峰の技術を持っている研究都市のセキュリティなのかね?」

「僕に言われても困るよ。……でもまあ、楽に進めるだけ良いと思うべきじゃないか? もし荷物検査があったとしたら魔術でどうこう封じ込めなくちゃいけない。その手間が省けただけマシと言えるんじゃないかな?」

「……それもそうね。それにしてもこの長大な列、いつになったら終わるのかしら? 荷物検査がないとはいえ、この列うんざりしてきたわよ。ねえ? 魔術で潰しても良い?」

「駄目に決まっているだろ、それ」




 ■『研究都市』第七学区



「……やれやれ、漸くここまで到着したか」

「魔術の行使は簡単だと聞いたのだけれど?」

「ああ、簡単だよ。五つのポイントに『疑似的に』空間を作り上げる。それだけであとは術式を唱えてやれば良い。それで全てが完成する」

「順序は? 空間はどうやって構築する?」


 持っていた大きな鞄を指さし、彼は話を続ける。


「それは、これに入っている『簡単術式セット』を設置すればOK。……イギリスも楽な時代になったものだよ。部下の魔術師が簡単術式セットを用意してくれるだけ。僕達は順番に沿って設置していけば良い。ただそれだけの話。いかにも完璧なやり方だとは思わないかな?」

「……なんつーか、女王陛下も危機感抱き過ぎなんじゃない? こんな都市に出来るとは思わないけれど」



 ――私達、魔術文明の崩壊なんて。




 ■『研究都市』第一学区・セントラルタワー最上階



 研究都市自体は『学区』というエリアに分けられている。理由は単純明快で、研究都市自体が数多くの学生を抱えているためである。その学生達を教育し、生活の基盤を立てさせることもこの研究都市の役目であると言えよう。

 そして、研究都市の中心に位置する、第一学区。

 政府機能を保有しているセントラルタワー、その最上階。


「理事長」


 黒髪の男性だった。その男性はスーツを着用してサングラスをかけており、何処かのSPか何かを彷彿とさせる。


「何かあったかね、笹ヶ根」

「北門を通った人間に魔力反応がありました。恐らく、魔術師である可能性が高いかと」

「……成程。きひひ、とうとうイギリスが攻めてきたか! この『研究都市』を潰すために!!」

「お言葉ですが、あまりお喜びにならない方が宜しいかと。何せ、魔術師の攻撃に対してはこの科学文明、何も耐えることが出来ません」

「いいや、出来るとも。何のために、私がこの世界を作り上げたと思っている」


 理事長――パラケルススは語る。


「世界のパワーバランスは魔術と科学で出来ている。そのパワーバランスを大きく崩そうとする、旧来派のイギリスと『対等に』会話が出来るチャンスじゃないか。そのチャンスを棒に振る訳にはいかない」

「……捕獲されますか?」

「まあ、待て。先ずは様子を見ようじゃないか。奴らがどんな破壊工作をしてくるかは分からない。しかしながら、彼らが破壊工作をしたという証拠を掴んだときは……潰すしかあるまいて」

「そのときは、能力者を使うので?」

「無論。ただの武器じゃ勝ち目はないだろう。それが魔術師たる人間だ」


 そして、会話は終了する。

 笹ヶ根が立ち去り、ゆっくりと、扉は閉まっていく。

 それを見て、パラケルススは呟く。


「魔術師……か」


 その言葉は、誰にも届かない。



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