最悪のscenario
ところで話はアンバーさんとプラチナさんの部屋を案内してもらう所から変わるがハッキリ言おう。
木葉の魔女、アリス・ブラッキアリはこの世界最強の人間と言っても過言ではない。
寧ろ、宇宙最強ではないだろうか?
表現がコズミックになるほどの強さを持つ見た目は十代後半の女性。それが木葉の魔女、アリス・ブラッキアリだ。
その気になれば、この星を壊せる程の力を持っている。
膨大な魔力を持っており、魔法属性を自在に操り創り出せて、尚且つ魔法を全て使える。
魔女であるゆえに不老。不死でなくとも魔法のおかげで実質的に不死。
こんな生物が宇宙に存在していて良い筈が無い。
先ほど、アリスさんの隙を突いて拘束しようと思ったが、簡単にバレてしまいアリスさんから「変なマネしたらヤバいからねえ~?ウフフ」とくぎを刺されてしまった。
私は彼女の存在に心から恐怖した。
そして、その恐怖の対象である魔女は、私を次の魔女にしようと私を捕まえているのだ。
それどころか、悪趣味な事に人質まで取って私を逃がさないつもりだ。
私は抵抗しない代わりにと、魔女アリス・ブラッキアリにプラチナさんとアンバーさんがいる部屋に案内してもらった。
「夜葉ちゃん、すっかり血の気の引いた顔になっちゃってるわねえ」
「……」
“当たり前ですよ。貴方みたいな化け物と一緒に居るんですから”と軽口を叩こうとするも口が一ミリも動かない。
情けないことに私は完全に怖気づいてしまっている。
なるべく冷静でいようとするも、足取りが覚束ない。
平衡感覚さえ鈍って来た。歩いているのもやっとだ。
「ここよ」
そうして連れて来られたのは、地下の牢獄だった。
洞窟に鉄の柵が刺さっているだけの牢獄。
洞窟はとても深く見える。
「これ」
アリスさんが私にポイッと鍵を投げて来る。
「ここからは一人で行きなさい」
「……」
「大丈夫よ。閉じ込めたりなんてしないから」
アリスさんは私の頭を撫でる。
「お化けも居ないから」
私は牢屋の鍵を開けて、中へ進む。
100mくらい進んだところで、私は気づいた。
「……あ」
天井に無数の目が張り付いていたのだ。
瞳は紅く、白目は黒く、恐ろしい色合いをして私をギロギロと見つめている。
目と目が合う。その瞬間、最悪な気分になる。
「居るじゃないですか……お化け」
私は早足になった。
大体、入った所から奥まで500m。
私はすぐに奥までたどり着いた。
たどり着いた先でプラチナさんとアンバーさんが倒れていた。
「プラチナさん!!アンバーさん!!」
私は二人を必死に起こした。
「夜葉、来てくれたんだ」
「当たり前です……」
「その割にはとても顔色悪いけどね」
その時だった、パチパチと拍手が洞窟に響いた。
「意外でしたよ、夜葉様。チキンな夜葉様の事ですからきっとすぐに牢屋の外に出てきてしまうことだと私は思っていましたよ」
そう言うのはメイド姿のこれまた美人な女性だった。
銀色の髪をしており、こちらも長身。目つきは鋭く凛としている。
恐らく、十代後半から二十代前半だろう。
「……誰です」
「これは紹介が遅れました。私、アリス様の忠実なメイド、シュガー・ロックハートと申します」
シュガー・ロックハートは口悪くも礼儀正しく振る舞い、私に近づく。
「ええ、とても意外でした。とても……」
シュガー・ロックハートは私の首を掴み、壁に叩きつける。
凄まじい握力により、私の首回りが締め付けられる。
「これから、貴方を殺します」
「何……で……ですか!!」
「さあ、なんででしょうね」
シュガーは私にナイフを突き立てようとする。
「嫌だ……っ!!」
その時、私は初めて魔法が使えたのだった。
初歩的な魔法である強化魔法を。
強化魔法により、石のように固くなった皮膚と服はナイフを受け止め、圧し折ってしまう。
「へえ」
シュガーの手がパッと離れ、私は拘束を解かれる。
「……魔法が使えないとアリス様からは聞いていましたが。なるほど……今、初めて使えたと言う所ですか。面白いですね」
シュガー・ロックハートはクスクスと笑いながらサディスティックな視線を私に送る。
彼女はきっと私の意外な行動に期待しているのだろう。
私は首を抑え、咳払いをする。
「……何が面白いんですか……こんなことをして」
「夜葉様の頑張る姿が。ですよ」
そう言うと、シュガーは大槍をどこからともなく取り出す。
「頑張って避けて下さいね」
シュガーはそう言うと、槍を前に突き出してきた。
私は咄嗟に横に動き、ギリギリのところで避ける。
「おお、凄いですね」
シュガーは笑いながら槍の先をプラチナさんに向ける。
「え?」
次の瞬間、プラチナさんの腹を槍が貫いていた。
プラチナよりも私の方が怖い顔をしていたであろう。
「はい、まず一人目」
シュガーはついでにとアンバーさんをも貫いた。
アンバーさんの軽い体がゆっくりと、風に吹かれるように地面に落ちる。
「……どうです?」
シュガーは私の顔を見てただ、そう言った。
私はただ倒れた二人を見つめていた。
何も考えられないまま、ボーっと立ち尽くしていた。
「……つまらないですね。ならば、これならどうです?」
シュガーは私にポンとアンバーさんの髪飾りとプラチナさんの腕輪を投げつける。
その瞬間、私は正気に戻ってしまった。
「……アンバーさん……プラチナさん……」
私はただ、グスグスと涙を流していた。
「まだ、つまらないですね」
シュガーは私の首根っこを掴み、外まで引きずって行く。
「あーあ、夜葉様は情けないですね。友人を二人も殺されて、怒ることさえできないなんて」
シュガーは私を蹴る。
「さあ夜葉様。アリス様が前に居ますよ?」
私は前髪を掴まれて、前を無理矢理向かされる。
進んだ先には先ほどよりも凶悪そうな顔をした、魔女が立っていた。
「よ~る~は~ちゃ~ん♡」
魔女は私の頭に素足を置く。
そして、スリスリと素足で頭を撫で回しながら言う。
「なんだか、夜葉ちゃんって思ったより、魔女に向いてないのかもしれないわね~だってメンタル糞雑魚ナメクジだし」
魔女は水の入ったワイングラスをユラユラと揺らす。
そして私の頭にかける。
「これくらいなら、あの探偵事務所に居た助手ちゃんの方が魔女の素質あるわよねえ」
助手……ハクタイさんの事だろう。
確かに彼女の方がメンタルも強ければ、体も強い。私なんかよりも何倍も魔女の素質があるだろう。
でも……そんなことなんて。
「……ハクタイさんにまで手を出すんですか」
「そうねえ……」
魔女はキラキラとした笑顔で言って見せる。
「させない……」
魔女は撫でるのを止めて、足を上げる。
「……なあに?」
「させない!!そんなことは絶対に私が許さない!!」
次の瞬間、私は強化魔法とは違う別の魔法を発動した。
私の知らない、魔法だ。
空間が裂けて、赤黒い空間が3つ出現した。
「へえ」
それを見た魔女はシュガーの作った槍とはまた違う、槍を出現させた。
「凄まじい魔力量だねえ。でも、そんな魔法じゃあ私には勝てないけどぉ?この槍は、塗り替わる痛みの槍って言うのよお。この槍に当たれば、たちまち、痛みと快楽に襲われて……どうなっちゃうかしらねえ……。それにこの槍は、きっと君の魔法なんかじゃあ止められないわよお?」
そう言うと、魔女は塗り替わる痛みの槍を2つ作り私に投げつける。
槍はまっすぐと私の顔と腹めがけて飛んでくる。
きっと、私の握力と瞬発力じゃあ止められないだろう。
しかし槍が突き刺さる直前に赤黒い空間が私の前に瞬間移動し、槍を呑み込んだ。
「へえ?」
そして、もう一つの空間から槍が同じ速度で飛び出してくる。
その槍は魔女へ向かって飛んで行く。
魔女はその槍を掴み、消してしまう。
「地味だけど強いじゃない。でも、これならどうかしら?」
魔女はそういう。が、しかしどこからも槍やそう言った武器は出現しなかった。
「……どこから……。」
「中よ♡」
「中……?うぅっ!?」
魔女はそう言うと、私の体内に槍を出現させて、ゼロ距離で撃って来たのだった。
槍と共に内臓がベチャベチャと地面に落ちる。
私は槍の効果で、痛みが快楽へと変わってゆくのを感じた。
「どうでしょ?気持ちいいでしょ?」
「あ……あ……」
私は頭がどうにかなりそうだった。
「こんな小さな子を調教するのも心が痛むわあ……でも、夜葉ちゃんならいいわよね」
魔女はそう言うと、私の傷を魔法で癒してしまう。
「……え?」
助かったと思った次の瞬間だ。
槍が私の体を再び貫いた。
「うげ……え……」
「“助かった”と今、思ったでしょ?私には判るんだ」
魔女は私の顔に顔を近づけて言う。
「夜葉ちゃんは、助からないよ」
魔女はそう言うと、私の耳に息を吹きかけて意識を奪う。