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記憶喪失の私が世界のどこかで頑張る話!  作者: 不治和
プロローグ
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PROLOGUE:アイテム、文化

“アーティファクト”

魔法を使えない人でも手軽に魔法が使えるようにと人の手により生み出された魔法器具の事である。

今回貰うのはステッキとボックスのアーティファクトだ。

スカルさんも使っている種類のアーティファクトで使い方はステッキのスイッチを押して、ボックスを装填してトリガーを押すだけで不思議な能力を持った道具の完成!!と言うものだ。

一見して聞けばカッコよさそうな道具だが、これはかなり残念な道具と仕上がってしまっているのだ。

残念と言うのも、ステッキとボックスから子供向けの現代玩具の如く音声が流れてしまうのだ。

“DX魔法道具アーティファクト”とタイトルロゴと写真を箱に付ければ、かなり売れそうな代物だ。

大型スーパーのおもちゃ売り場で売っていても違和感無しの一品と化してしまうのだ。

私なら買わないだろうけど、小さな子供、大きなお友達ならば買うであろう。

なお、他のアーティファクトからは音声は流れない模様。

そして、このアーティファクトシリーズを作っているのはイージスさんだ。

さて、私はイージスさんの探偵事務にやって来た。

事務所は開いており、謎の言語で『オープン』と書かれている札が私たちを出迎えた。

ドアを開くと鈴の音が私たちお客を歓迎する。

中には沢山の資料で埋め尽くされた本棚と少し高そうなテーブルが置いてある。

不気味なインテリアが沢山置いてあり、中は若干のお化け屋敷成分が強めだ。

そして、お化け屋敷のような探偵事務所の奥のソファーにイージスさんが座って居る。

「来たね、夜葉ちゃん」

イージスさんは両手を口の前で組み、優しい目線で私たちを見る。

イージスさんはどこか掴み所の無い人だ。

いつもフワフワとした顔持ちで仕事をしており、言葉もフワフワとしている。ミステリアスな人物だけれども信用できる。

簡単に言い表せば“飄々とした優男”

イージスさんはその言葉で簡単に言い表せてしまうのだ。

「ハクタイ君、すまないけど夜葉ちゃんたちに紅茶を出してくれないかい?」

「もう用意してる」

「流石早い、有能な助手!!」

薄茶色の髪をした女性がテーブルにカップを3つ並べ、紅茶を注ぐ。

「ハクタイさん、ありがとうございます」

「いいよ、お客さんだしね、それも夜葉ちゃんたちだし」

アカツキ・ハクタイ。

この事務所で働く十代後半の女性だ。

元アウトローで捨て子だったという。

7年ほど前にイージスさんに拾われて雇われた。

「まあ、座りたまえよ」

イージスさんはそう言い、私たちを招く。

私たちはソファーに座る。

ところで、スカルさんはどこにいるかと言うと、奥の窓際の椅子に座ってのんびりとしている。

ニヒルに紅茶を飲みながら新聞を見ている。

とてもハードボイルドだ。

悪人面がここまで似合うとは……。

「似合うでしょ?」

イージスさんが私に振る。

「似合い過ぎですよね……」

私は同意の言葉を表す他、無かった。

まさに映画に出て来るヒットマンのようだ。

ハリウッドスターのような雰囲気がある。もしかしたらスカルさんはハリウッドスターかもしれない!!

悪役でいつも起用されている名役者だろう!!そうに違いない!!

ここにいるみんなが役者に見えて来た!!

なお私はこの空間に似合わない程の一般的な少女だ!!

「さて、話の路線を戻してと。夜葉ちゃんに直接渡したいものがある」

イージスさんが何処からかステッキとボックスを取り出して、テーブルにゴトンと置く。

「アーティファクトステッキと魔女のボックスだ」

そのステッキは綺麗なクリーム色で彩られていた。星のマークが沢山彫ってあり、夜空を連想させられる。

ボックスにも綺麗な星の模様が付いていた。一見してシンプルだがそれでもかなりの物に見える。

「夜葉ちゃん、この魔女のボックスはかなり特殊でね、下手したら国宝級かもしれないんだ」

イージスさんは壮大なスケールなことを話す。

「国宝級ですか……?イージスさん……なら、これを私にタダでやらないで国に売りつけた方が良かったのでは?」

イージスさんは首を横に振る。

「それは国にも売るべきじゃない。その魔女の箱は戦争の火種にもなるレベルのヤバい代物なのさ」

「……なら、魔法もロクに覚えていない私に渡さないほうが……」

「寧ろ好都合だよ」

イージスさんは紅茶を飲み干して言う。

「この国にはある魔女文化があるのを知っているかい?」

「……知りません」

残念ながら私はそこまでこの国を知っていない。

経済や昔からの文化、歴史までは少ししか知らない。

「木葉の魔女の継承……」

プラチナさんがその単語を口に出した。

「そうだね。木葉の魔女の継承。これは3000年前からある文化でね、十数年に一度、木葉の魔女から普通の少女に魔女としての継承される文化さ。この文化は俺から言わせてもらうと残酷だと思うね……」

「……木葉の魔女」

私はその魔女の称を噛み締めた。

その名に聞き覚えは無くとも、何処かで見たような不思議な感覚だった。

「その魔女は凄まじい力を持っているのさ。国を1つ、いや最低でも8つは守れるくらいの力をね。で、その魔女に近いものに疑似的になれるボックスがありますと……」

私の目線がステッキとボックスに行く。

「……ヤバい奴じゃないですかぁ」

「ああ、ヤバいよ。世界を軽く10回は捻り潰せるくらいの力を持っているよ」

「だとしたら、余計に預けるわけにはいかない気がするんですけど!?」

イージスさんが手を額に当てて、キザったらしくフッと笑う。

ハクタイさんはその仕草が気に障ったのか歯ぎしりを立てる。

「夜葉ちゃんだからいいのさ、夜葉ちゃんのような一般人が持てば余計バレにくい。魔力漏れも無いし、まだバレてないし、お偉いさんも“まさか”と思うだろうしね。それにスカル君が近くにいるって言うのがまた良い」

スカルさんは確か……商人ギルド連盟のハンター組合の顔的人物だ……。

一応、お偉いさん……。

「仮にバレたとしても、すぐにスカル君のフォローが入る筈」

「なるほど……なるほど……」

私は取り合えず分かったように頷く。

「つまりね、このイージスさんは夜葉ちゃんにパンドラの箱を持たせて、カモフラージュしようと言うワケだよ」

そこにプラチナさんが皮肉ったらしく、天然な言葉でまとめる。

「それ壊せば良くない?」

アンバーさんは腕をブンブンと振り回し、そう疑問を投げつける。

それに関しては私も同じことを思っていた。

確かに壊せばそれで終わりなきがする……。

「思ったよりもこれ、かなりの魔力が濃縮してあるみたいでね、壊れたら核爆弾以上の被害が出るよ」

……壊しちゃいけない。私は現代知識に基づいて心の中で答えた。

魔力が分裂して拡散して周りを吹き飛ばすイメージが出来た。

「カクバクダンってなに?」

アンバーさんが無知に疑問をポイポイと投げる。

「……ヤバい毒爆弾……です……よね?」

「核分裂する物質同士を高速でぶつけることで放つヤベー爆弾だよ」

イージスさんがフワフワとした物言いで説明する。

「核分裂ってなに?」

埒が明かない。

アンバーさんは好奇心に任せて次々と疑問を投げる。

「とにかく夜葉ちゃんにはこれを守っていて欲しい」

とイージスさんは私にステッキとボックスを差し出してくる。

「まあ、いいですけど」

仕方無さげに私はそのステッキとボックスを手に取る。

しかしこうして手に取ってみるとただのキラキラした棒と箱にしか見えない。

本当にヤバい道具なのだろうか?

「そう言えば残酷とはどういう意味ですか?」

イージスさんは魔女の文化について“残酷だと思う”と言った。

私はそれが気がかりだった。

「ああー、それはね魔女から継承されるのはいつも突然なんだよ。ある日突然、普通の女の子が魔女にさせられる」

「別にいいのでは……?」

「良くないよ。不幸さ」

キッパリとイージスさんはそう断言した。

「魔女になるというのはね、孤独になるという事さ。魔女の少ないこの国中から、力の為に恐れられて神のように扱われて挙句の果てに心が悪に染まって行く。そして継継承し終えた魔女は力を全部失い、それが運命だったかのように死ぬ……夜葉ちゃん、魔女は悪魔と契約することでなれる。でもこの魔女の継承には悪魔との契約が必要ない。寧ろ悪魔を作り出す(・・・・・・・)のがキモだ」

イージスさんは目を閉じる。

「この箱はもしかしたら、その可哀そうな魔女の運命を変えるものになるかもしれないのさ……」

「……イージス、もういいだろう?」

スカルさんが言った。

「夜葉、あまり重く考えるな。このことは考えるだけ無駄だ」

「考えていませんよ。それに探偵さんから頼まれるなんてまるで私が助手になったみたいで楽しいじゃないですか」

私はその日からヤバそうなアイテムを持つことになった。


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