私に友達が出来た日 その1
昔話をしようと思う。
私とイージスとスカルが知り合った日の話、私が魔女になった日の話。
その話をしようと思う。
私は夜葉ちゃんに話すことにした。
やっと話す決心がついたんだ。
理由は一つ。そろそろ私の事を知ってもらおうと思ったからだ。
もう、夜葉ちゃんと知り合って1カ月以上が過ぎた。
私は夜葉ちゃんの事は大体分かった。
何となくだけれども、夜葉ちゃんの過去もだ。
「話すんですね?いいですよ。聞きたいです」
夜葉ちゃんは笑顔で答えた。
「……」
夜葉ちゃんは本当に素直でいい子だ。
私を知ろうとする人間なんて中々居ない。
私はそんな夜葉ちゃんを見てか、昔の自分と重ねてしまった。
「……じゃあ話すよ」
まず私たち。私とイージス、スカルが知り合ったのは私が8歳の時だ。
だから、大体19年くらい前。
私は生まれつき体が弱く、家から一回も外に出たことが無かった。
私はお城暮らしのお嬢様の引きこもりだ。
母は木葉の国の魔女で、私はその娘。
だから外に出たことが無いのは仕方が無かった。
だって外に出れば、魔女の娘だということで恐れられてしまうだろうし。
外の事を知るには色々な本が必要だった。
図鑑や小説や論文や絵本。それだけが外を知る為の全てだった。
そうして、物心を持ってから数年の間本を読んで生きていた。
そして、家の本、8歳の頃に家にある本、全てを読み終えてしまった。
私はその事を誇っていた。
誇っていただけあってか、本だけで外の事全てを知っていた気になっていた。
私は外の事は全部知っているから外に出る必要もない!!と私は気を張っていた。
だが、子供の好奇心と言うのは衝動的に体を動かしてしまう。
ある時、外に出てみたいなあ。なんて思っていたらいつの間にか外に出ていた。
私はその日に初めてこっそりと家の外に出て外の世界を知った。
外には沢山の人が居て、沢山の家があって、空には沢山の雲があることを知った。
木葉の国は小さいけれども、子供の私には大きな国に見えた。
街はとても賑やかでお店が立ち並んでいた。
「……凄い」
本や小説や図鑑なんかで見るよりも凄く心に何かが来た。
ドクドクと胸が高鳴って、どうしようもなくなった。
そんな初めて外に出た日、私は紫髪の少年とぶつかった。
私がぼうーっと突っ立って居たからぶつかった。
少年は走っていたらしい。少年と私はぶつかって情けない声を出して反発するように倒れた。
紫髪の少年は持っていた大量の書類を地面に全て落としてしまった。
「うう……ごめんなさい」
私は痛みを堪えて、涙目で少年に謝った。
「いいよ」
少年は慌てて、書類を拾いだす。
私も一緒になって書類を拾った。
私は拾い集めた書類を少年に渡したところで少年が言った。
「君、助手とかやってみない?」
ふと、少年が言った。
「……えっと?なんだか分からないけどやる!!」
助手って何の助手?と思ったものの、私はその場のノリで私はそう返してしまった。
それを言わなければ、私たちの関係は始まらなかったであろう。
「……僕はイージス、イージス・リメンバだ。今は探偵を目指している!!助手、君は誰だ?」
……助手って探偵の助手かぁ。と助手の意味を理解して頷いた。
「アリス・ブラッキアリです。8歳です」
「僕と同い年じゃあないか。じゃあ探偵、始めようかアリス助手!!」
イージスは私の手を引いて探偵の仕事へと招き入れたのだった。
探偵と言えば、探偵事務所。と言うことで私はイージスの探偵事務所へと招かれた。
当時の探偵事務所は今の本格的な探偵事務所とは違う。
木とレンガと藁を適当に組んだ小さな小屋みたいな事務所だった。
その中にテーブルが一つあるだけの貧しいもの。
大風でも吹いたら一気に吹き飛ばされそうな貧弱な探偵事務所だった。
小説で見たような探偵事務所とはまた違うギャップがあった。
そして、その中にもう一人だけ少年が居た。
目付きの鋭い濃い金髪の少年。
私の金髪は金が薄くて黄色に見えるが、この少年の金髪は本当に金だった。
少年は私の方を見るとイージスに「助手を見つけたのか?」と言った。
イージスは「ああ、有能そうな人材でしょう?」と言う。
すると、金髪の少年が手を差し出して名乗った。
「俺は、スカル・アルファーノと言う者だ。因みに探偵ごっこなんかはやっていない」
するとイージスが「探偵ごっこじゃなくて、これは仕事で本気でやっている!!っていう回りくどいスカル君のツンデレな言い分ね」と説明した。
「違う!!俺は探偵なんてやらんと言う意味だ!!」
スカルは中々のキレのあるツッコミをイージスにキメ入れた。
なるほど、このスカルと言う少年は中々の苦労人に違いない。
「ええっと、私はアリス・ブラッキアリです」
私たちが握手したところで、イージスが叫んだ。
「はい、注~目~!!」
イージスは引率の先生が如く、手をパンパンと叩いて私たちから注目を集める。
「今からやってもらうミッションは猫探しです」
「猫探し?……殺人事件じゃあないの?」
「大抵の探偵の仕事は猫探しか、不倫現場の観察か、落とし物探しくらいだからね?」
そう言いながらイージスはテーブルに猫の鮮明な絵を置く。
茶虎の黄色い目をした猫だ。
鮮明過ぎて、まるでその紙の中に猫を入れたかのようだった。
紙も心なしかとても良いものに見える。
「この子の名前は茶虎のチャットちゃんだ。特徴は左耳が少し千切れている所だ。と言うワケで、探すんじゃあ~い!!」
と言うワケで始まった茶虎のチャットちゃん探し。
イージス曰く茶虎のチャットちゃんが住んで居た家から半径1キロ以内を捜索することを条件にみんなで一緒になって探した。
外に出て初めてのお仕事だ。
それも探偵だなんて、小説でしか見たことが無い!!
私はやる気満々で猫の居そうなところに駆けて行った。
だがしかし……お嬢様で箱入り娘で世間知らずの私では……。
「どこにもいない!!」
1時間でギブアップだ。
猫なんてこの町に凄い数いるし、それも茶虎なんてすごい数だ。
こんなのを探すのなんて困難を極める作業だ。
「無理だよイージス」
「甘いな、こういうのは地図を使って地道に探すのさ」
困り果てる私にイージスは得意気に地図を懐から出して言った。
「……地図?」
私は首を傾げた。
「猫には縄張りってのがあるだろ?猫は自分の縄張りに他の猫が入られるのを極端に嫌うそして猫は茶虎のチャットちゃんを縄張りから追い出すはずだ。この町には猫が多い、つまりだ。茶虎のチャットちゃんは縄張りになっていないところに居る筈なんだぜ」
「まさかその地図って……」
私は地図を凝視した。
地図には本来のチャットちゃんの家の周りに×が沢山ついてあった。
この×は他の猫の縄張りという印だ。
「……じゃあ消去法で」
「ああ、ここだな」
イージスは×の付いていないところに〇を付けた。
その場所はゴミ捨て場だった。
ゴミ捨て場に行くとだ。
スカルが先にたどり着いていた。
「あ、スカル。やっぱり早いね」
「お前がじっくりやっているだけだ」
スカルはため息交じりにそう言う。
だが、このスカル……地図も何にも持っていない。
正真正銘の手ぶらだ。
「……地図を持っていないのにどうやって見つけたんだろう?」
私がふとそう呟くとイージスが言う。
「スカルは猫と話し合ってここまでたどり着いたのさ」
「へー、猫と話合ってここまで……マジで!?」
……嘘でしょう?猫と話し合う?馬鹿なの?もしかしてこのスカルって子はもしや電波なの?そうなの?
まともそうに見えていたスカルが何だか狂気的に見えて来た。
「マジもマジさ。スカルは野生的でね、昔から魔獣しか使えない魔法とか使えるし、動物とある程度コミュニケーションが取れるのさ」
そこに割り込む形でスカルが話に入ってくる。
「イージス、余計な事を言うなって」
スカルは後頭部をポリポリと掻いて、また溜息を吐く。
「俺はただ単に野生のカンが優れているだけだからな?いいな、アリス?」
スカルは釘を刺すように私に迫る。
「わ、分かったよ?」
スカルの意外な一面が見れたところでだ。
スカルとイージスの目が同じところを向いた。
「居たね」
「ああ、居たな」
二人が指を刺した。その先に茶虎のチャットちゃんが居た。
茶虎のチャットちゃんが居る場所はゴミ捨て場の隣の杉の木の上だ。
茶虎のチャットちゃんはかなり怯えている。
そしてかなり衰弱していた……。
今にも力尽きて落ちてきそうだ。
「どうやら降りれなくなったみたいだね」
「みたいだな」
「みたいね」
私たちは口を揃えた。
でも、あの木はかなり高い。私じゃあ登れないだろうし、イージスでも登れなさそうだ。
それに落ちてしまったらただじゃあ済まない。
「大体高さ20mの木だね。しかも運悪く天辺に居る」
イージスは状況をまとめて話す。
「取り敢えず、ここは運動神経抜群のスカル君に木登りを頼もうか?」
「……俺が行くのか?」
「ほら、女の子の前で格好いい所見せたいでしょう?」
イージスが流し目のような細めのような微妙で不気味な目でニヤニヤと笑って言う。
するとスカルは。
「分かった、行こう!!」
かなりやる気のようだ。
スカルは結構、女の子の前だと張り切っちゃう系の可愛い男子のようだ。
「じゃあ万が一落ちてきたら俺たちでキャッチするから頼んだよ」
「おう、頼んだぞ」
スカルとイージスはお互いの拳同士をぶつける。
やだ……カッコいい……。
お二人はかなり厚い信頼関係を結んでいる様だ。
と言うことで始まった茶虎のチャットちゃん救出大作戦。
木登りはスカル、万が一の為のキャッチ担当は私とイージス。
スカルは呼吸を合わせて、一気にジャンプしていった。
魔獣の強化魔法でひとっ飛びだ。
思いのほか、イキイキとした顔でスカルは飛んで行った。
そしてチャットちゃんの下にすぐにたどり着いてしまった。
あとは、チャットちゃんを怯えさせないように少しずつ、手を伸ばしてチャットちゃんを掴むだけだ。
「あと、もう少しだぞ……」
スカルが茶虎のチャットちゃんに手を伸ばす。
あと10センチ……あと5センチ……あと少し。
そのあと少しの所でだ。
スカルに異変が起きた。
「ムズムズ……」
スカルの鼻がムズムズとしてきたのだ。
「……やべ」
そう……この木は杉。そしてスカル……実はスギ花粉アレルギー持ちだったのだ。
そのアレルギー反応でスカルは一発ぶち嚙ましてしまった。
「い……いぶっくし!!!!」
ああ、神様……なんて悪戯を……グッドブレスユー。
そのクシャミをしてしまった瞬間に茶虎のチャットちゃんがビクゥっと毛を立てて飛んでしまった。
「ぬ……にゃあおおおお!!」
茶虎のチャットちゃんはその反動で木から落ちてしまった。
「あ、落ちた」
イージスが冷静に言う。
「うっそ!?」
しかも、私の近くに落ちて来る。
ああっ!!間に合え!!
私は全力で手を伸ばした。
「届けーっ!!」
あともう少し!!……届いたっ!!
茶虎のチャットちゃんはギリギリで私の腕に落ちて来た。
茶虎のチャットちゃんは私の腕の中で力無く「にゃあ」と鳴いた。
「か……」
可愛い……初めて猫に触ったけど滅茶苦茶可愛い!!
え?なにこの可愛い生物。飼いたいんですけど?猫良いじゃない?良いんじゃない?ぐっへえ!!
「取り敢えず、ミッションクリアだな」
「……はい」
私は猫にメロメロになりながら答えた。
スカルは鼻をグジュグジュさせながらクールぶって降りて来た。
「……ふっ!!」
スカルは格好つけてないと気が済まないのだろうか?
「お疲れスカル」
「ああ……いぶっくし!!」
スカルはその後も何回もクシャミをする。
「さて、お客さんの所に行きますか」
「……お客さん?」
お客さんと言うのも、茶虎のチャットちゃんの飼い主のおばさんだ。
私たちは茶虎のチャットちゃんを連れて、そのおばさんのもとへと行った。
「あらまあ、イージスちゃん」
おばさんは優しく出迎える。
「おばさん、茶虎のチャットちゃん居ましたよ」
と、イージスがおばさんに茶虎のチャットちゃんを出す。
「チャットちゃん~どこ行ってたの~?チャットちゃんが居ないとネズミが増えちゃうんだから~」
「ゴミ捨て場の高い木に何日も居たみたいです」
イージスは礼儀正しくにおばさんに説明する。
「そうなの~ありがとうねイージスちゃん、それとスカル君と……」
「紹介します、アリスです」
「アリスちゃ~ん?かなりの別嬪さんじゃない」
べ、別嬪さん?……恥ずかしい……。
私の顔がどんどん赤くなってしまう。
と、止まらない。
「お礼に何か上げなきゃねぇ~」とおばさんは奥に戻って、十数秒してから戻ってくる。
「はい、お小遣いとお菓子」
「ありがとうございます」
イージスは礼儀正しい紳士のように頭を下げてそれらを受け取る。
……イージスって一応礼儀正しく振舞えるんだ……。
想像もできないだろうけども、一応イージスは農家のいい所のお坊ちゃんらしい。
だからこれでも礼儀や紳士は知っているとのこと。
「さて、じゃあ仕事も終わったし、みんなで遊ぼうぜ」
私たちは探偵の仕事を終えて、お小遣いで遊ぶことにした。
みんなで好きなお菓子や食べ物を買って探偵事務所で食べ遊んだ。
イージスの話は面白い物ばかりだ。
一緒になって話して遊ぶのはとても面白かった。
スカルもスカルでかなり面白い。
真面目なのに天然なところがあって、とても可愛い。
そして、夕方近くになってしまった。
「もう少しで夕焼けの時間だな」
「うん」
「そう言えばアリスってさ、魔女の子だよね?」
イージスがふと言った。
「うん……ってええっ!?」
後ろでスカルがお茶を吹いた。
「ぶげえ!?」
不意打ちだった。
私の秘密をいつの間に知って居たのだろう?
「……い、いつから知ってたのさ?」
「初めて会った時から。と言うか……あの時“あの子は魔女の子だな。よし、さり気無く遊んでみよう!!”と思ってぶつかったのさ」
何という計算の高い探偵だこと……。
イージス……恐ろしい子……!!
「……私は魔女の子なのよ?……私が怖くないの?」
するとイージスは笑って言う。
「怖いとかねーよ。だから明日も遊んでくれ、アリス!!」
「……」
私は返答に困った。
私は魔女の子でイージスたちは普通の子供だ……。相容れない筈の者達だ。
「アリス、俺からも頼む……お前と一緒に居たい……」
スカルまでも……何だろうか……スカルは恥ずかしいことを真顔で言えるからか、こっちが恥ずかしくなる……。
「……あーっもう!!分かったってば!!明日もっ!!明日も一緒に居よう!!これからもずっと一緒に居て下さい!!」
「「あたりまえだ」」
その日、初めて友達が出来た。
色々と分からない子。イージスと天然野生のスカルと言う掛け替えのない友達が出来た。
それから、何年も探偵の仕事は続いた……。
楽しい日々だった。
学校にも行けない私が唯一、みんなと一緒に居ることができる秘密の場所。それが探偵事務所だった。
が、私が探偵を止める日は突如としてやってきた……。
17歳のある日に突如としてやってきたのだ。
本当に在り得ないくらい突然と……。