Night of Knight
イージスさんに激励され、外に出て行った。
事務所にたどり着いた時、目の前に変わり果てたハクタイさんとサディストがそこにあった。
ハクタイさんは全身が機械へと変貌し面影も無くなっていた。ただ、その服装でこの機械はハクタイさんだったと判断することが出来た。
サディストは機械に触れて遊ぶ子供のようにハクタイさんで遊んでいた。
遊び終わったのかサディストは「ふう」と息をついてこちらを向いた。
そして気持ち悪い程に早口の大声でこちらに叫んでパントマイムを踊る。
「ああッ!!やっとッ!!来ましたかァッ!!夜葉さァんンンンッ!!」
サディストはパントマイムを踊りながらハクタイさんを地面に叩きつけて私へと迫ってくる。
ハクタイさんは残った意思でサディストを止めようと手を伸ばすもサディストはその手を蹴飛ばし、ピエロのように手品を始める。
手品の内容はトランプの手品だった。
トランプを破いてはくっつけて破いてはくっつけてを繰り返す。
サディストの動きの一つ一つが癪に障る。
「夜葉さんッ!!このようなッ!!光景ですがッ!!如何ですかなァッ!!?」
「最悪ですね」
私は素直にそう答えた。
「そうッ!!ですかァッ!!ですかァッ!!ですかァッ!!ならばァァァッ……!!貴方もッ!!素晴らしい姿に変えて差し上げましょうゥッッッ!!!!」
サディストはサービス精神が如くそう攻撃を仕掛ける。
機械の体を一瞬で改造し、体に砲台を数十個ほど取り付けて砲撃。
狭い部屋で撃ったせいか、砲撃は私の体に命中するも私には傷が一つも付いていない。
「……バカでしたか」
「はァいィッ!!」
サディストも素直に答える。
「ですがァッ……!!」
その時、体に衝撃が走った。
私の着ている甲冑には爆弾がいくつも付けられていた。
「不意打ちで死んでもらいますねェッ!!」
私は青ざめた。
……体中にいつの間にか爆弾がセットされているのだ。
「え、ちょ……」
次の瞬間、爆弾が一斉に爆発した。
「うわ……」
私の声は爆風の中へと掻き消えた。
私の体はきっとバラバラに吹き飛んでしまったであろう。
「ハハハッ!!夜葉さァン。油断しましたねェッ!!これで……」
サディストは残った私の残骸を探しに爆風の中へと入って行った。
次の瞬間、土煙の中でサディストの胸倉を何者かが掴んだ。
それは私でした。
私は若干決まらない顔でサディストを見る。
どうやら、この甲冑かなり頑丈みたいでして。私には爆弾は効かなかったみたいだ。
四肢ももげていないし、鼓膜も無事だ。
「なァッ!!?き、効いて無いィィィッ!!?」
サディストは情けない声を上げる。
「…………し、死ぬかと思いました」
私も情けない声を上げた。
気を取り直して……。
「……今度はこちらから攻撃させてもらいますよ」
私は腰から剣を抜きサディストに斬りかかる。
居合切りだ。
残念ながら、私の攻撃はかなりのふにゃふにゃだ。がパワーだけなら通常の強化よりも何倍も強化されている。
だから斬り付けると言うよりも叩き飛ばすと言った方が正しいであろう。
だが一撃としては強力な物だったようだ。
サディストはその強力でふにゃふにゃな一撃を貰い、事務所の外へとぶっ飛んで行く。
「うゥッ!!!?うォォォ!!!?」
そのままサディストはレンガの壁に衝突し、倒れてきたレンガの下敷きになる。
「次こそはァァァッ!!」
サディストは自身の体から大鎌を生成してレンガを吹き飛ばしながら私のもとへ高速移動して来る。
「はぁっ!!」
しかし私は剣をタイミング良くサディストに突き出す。
サディストは高速移動の影響により自分から剣に貫かれに行ってしまう。
剣はサディストの腹に大きな風穴を開けた。
風穴から黒い血が少しだけ溢れ出る。
「悪いですけど、次も私の番です」
私はそのまま素早く連続で叩きに掛かる。
叩いて、叩いて、叩いて、叩きまくった。
サディストは見る見るうちに体中が壊れ崩れて行く。
「こッ!!こうなればァッ!!現実を改変してェ!!」
サディストはたまらず、現実改変を起こそうと私に掴みかかる。
虹色の光が甲冑を呑み込む。
しかし、私の体は機械にならない。
光はシュンと力なく消えてしまう。
「なッ!!?なぜェェェッ!!?」
サディストが叫ぶ。
「当たり前だよね~」
後方で声がした。
イージスさんの声だ。
「天才の俺がそのアーティファクトボックスを作ったんだ。お前の現実改変もとい機械仕掛けの神なんて効くワケがない」
イージスさんは気持ちよさそうに顔が歪む程のドヤ顔をサディストに見せつける。
あのドヤ顔は天才には見えない……。
「お前はァッ!!?」
「イージス・リメンバだァ~以後しくよろ……ってか以後なんて無いけどね~ゲェ~ッハッハッハッハッ!!俺ってカッコいい!!やべえ!!今、俺イケメンモードだわっ!!」
イージスさんは更に気持ち良くなったのか、奇声を発しながら回る。
「ほぉおおおっっっうっう~!!ひぃやぁほほほほほっお~うっ~!!うえっ!!うえっ!!のほほのほ~!!」
「こッ!!!!このッ!!探偵風情にィイイイッ!!!!」
どういうわけかサディストは相当イラついている様だ。
「さいっこうだぜ~っ!!サディストお~っ!!……あ、そうだ。探偵として言っておかなければ……お前が~犯人じゃあっ!!!!ゲェ~ッハッハッハッハッ!!!!」
「うッ……うォオオオッ!!!!」
サディストは怒りを込めて叫んだ。
怒りのあまりサディストは喀血する。
「い……イージスゥッ!!イージス・リメンバァッッッ!!!!低俗なッ!!糞探偵めえェッッッ!!!!いつかァッッッ!!!!お前を殺してェッ!!さr…………」
「夜葉ちゃん、やれ」
イージスさんはクールな表情でサディストのセリフを遮りながら私に命令する。
「はい……サディストさん貴方のふざけた魔法も終わりです!!」
私は思い切りサディストに剣を突き立てる。
剣はサディストの機械の体を貫き、地面に刺さる。
サディストの体も命も限界が近づいてきたみたいだ。
体中がショートして火花を上げている。
しかし、サディストは死ぬ寸前で私の無防備な部分である首根元を掴んだ。
「一人ではッ!!死にませんよォッ!!」
どうやらタダでは死なないつもりだ。
「マズいな……夜葉ちゃん!!逃げろ!!」
イージスさんは私に向かって必死そうに叫んだ。
「…………なんでこんな奴から逃げなきゃいけないんですか。……サディスト……命で遊んだことを後悔しろ!!!!」
私はサディストの腕を握り潰してサディストに大量の魔力を纏った剣を突き刺した。
そして大量の魔力が機械的なサディストの体内に注入されていく。
「……ああッッッ!!!!……ど、ドラスィィィックゥッッッ!!!!」
魔力を注入し終わったと同時にサディストは断末魔の悲鳴を上げて爆発四散する。
凄まじい爆風と共にサディストの体の破片や部品が飛び散り辺りへ散らばる。
サディストがそこに居た事さえ思わせない程にバラバラになる。
ただ、そこには高く昇る白黒の硝煙と騎士の姿をした私だけがあった。
……サディストは完全に絶命したであろう。
これ以上、サディストの殺人による犠牲者も出ることも無い。
もう誰もサディストの恐怖に怯える必要もない。
私はサディストの部品を拾い、サディストに殺された人々の魂が安らぐことを願った。