帰るべき場所 その10
光の雨がこの場に居る全員の体を濡らしてゆく。
スカルとゴングはこの眩く光る雨の中で目を見開いて立っていた。
「何だい、その情けない紙の付いた棒は?」
スカルの手にある大幣を見てゴングは魔女の悲鳴と共に嘲笑した。
スカルは笑われても怒る事無く、無感情のまま答えた。
「こいつは多分お前を止めるための物だ、それが?」
スカルはそう言うと大幣を大きく振るった。
すると振られた大幣から透明な大鎌が出現し、狂気に飲まれたハクタイとシュガーを切り伏せたのだ。
「やべ」
スカルは間違えたと慌てて、大幣を手前に引っ込めた。
「大丈夫さ」
イージスはスカルに不敵に笑って言う。
なんとハクタイとシュガーの体は実際には両断されていなかったのだ。
それどころかハクタイとシュガーは正気に戻っているのだ。
「アア……あ……え?」
「……う……な?」
ハクタイは自分の胸を触って自分の体を確かめた。
「切られていない……私に何が起こったの?」
ゴングは首を傾げてスカルに聞く。
「スカル、お前一体何をした?」
聞かれたスカルも首を傾げて「俺も知らない……イージス、説明」とイージスの肩を突いた。
するとイージスは叫んで踊って説明をし始めた。
「説明しようっ!!スカルは今振っている光の雨に濡れた人間の心を切り伏せることが出来るのさ、今スカルは狂気を切り捨てた。そしてスカルには精神攻撃魔法に耐性が付いたってワケだ……つーわけでゴング、テメーの狂気は完全にスカルには効かねえ!!これで対等にぶん殴り合えるワケだ!!」
イージスはドヤ顔でゴングにそう指を向けて言った。
……にしてもこのアーティファクトボックス作っといて良かった~!!精神攻撃魔法とか本当に厄介だったからな、俺ってやっぱり運もあるし天才だしヤバくね?
イージスはそう心の中で自分のアーティファクトボックスとアーティファクトボックスを作る技術を自賛した。
正気に戻った所でハクタイとシュガーは目を鋭く研いでゴングに向けた。
「ゴング……お前を私は始末する!!」
「アリス様とアリス様のお母さまを陥れ弄んだ貴方に死と血の飾り付けを施してあげましょう」
しかしゴングは睨まれても不敵な白々しい笑顔を向ける。
「おいおい、狂気を心に植え付けるだけが俺の力だと思うなよ?」
ゴングはそう言うと高速で移動しスカルに一瞬で間合いを詰めて常人の体程度ならば普通に貫通してしまう程の威力の突きを突き出して来た。
しかしスカルも遅れずに間合いを計り、後ろにステップを踏んだ。
「引っ掛かったな」
ゴングは白々しくも黒い低俗な笑みを浮かべた。
ゴングは突いた瞬間に後ろに一瞬でスカルの後ろに回り込み、首を絶たんと大剣を何処からともなく創り出してスカルに振り下ろしていたのだった。
「しま……」
スカルは強かった。筋力、体力、俊敏性、反応ともにトップクラスの実力を備えていた。
しかしスカルはしくじってしまったのだった。スカルは戦闘の考えが安直だったが故にゴングの裏をかくような罠にまんまと引っ掛かったのだ。
スカルも身体能力は高くとも戦闘のプロではない。戦術、武の心得共にアマチュア程度なのだ。ただの農民のハンターなのだ。
この大剣がスカルに当たればスカルは叩斬り殺されてしまうであろう。
スカルは最後まで足掻こうと回避を試みたが、スカルは本能的に躱せないと察知していた。
……ここまでか?
その時だった。
「おい、私も忘れんなっす!!」
ユルエがゴングに凄まじい勢いでぶっ飛んで来たのだった。
ゴングは大剣を離してしまった。
大剣はあらぬ方向に吹き飛んで行き、壁に突き刺さり、ゴングもまた壁に激突して減り込んでしまった。
ゴングはユルエに馬乗りになられて、顔面に拳の連撃を喰らってしまった。
この連撃によってゴングの顔面はグチャグチャに潰れてしまった。が、ゴングの顔面は点一秒も満たない間にまたしてもゴギゴギベゴグチャと耳障りな音を立てて再生してしまうのだった。
「再生の方が速いっす!?」
このことを悟った次の瞬間ユルエはゴングに凄まじい威力のただの拳を喰らわせられてしまった。
「ぐがあああ!?」
ユルエもまた危険を察知して腕で防御姿勢を取って拳をガードしたものの、腕が砕けてしまったのだった。
ユルエは尋常じゃない痛みにゴロゴロと転がり悶絶した。
ゴングはゆっくりと立ち上がって埃に塗れてしまった体をパッパと払った。
「痛いじゃないか」
ゴングは白々しくまた笑みを浮かべた。
「そのセリフはこっちのセリフでもあるっす……!!」
ユルエは回復魔法で腕を再生させるものの、再生に時間がかかる。
再生完了まで焼く30秒くらいであろう。
ユルエは30秒と言うこの空白時間が戦闘になるととても長い物だと言う事を知っていたので逃げるように飛び上がり、物陰にスッと隠れた。
「うう~んっ?」
しかしゴングは余程余裕でもあるのだろう。ゴングは全く動くことなくカームに目を向けた。
「カーム君だっけ?町案内以来じゃあないか?」
ゴングはこの状況で気ままに挨拶をし始めたのだった。
「……そうだ……ねえ、ゲホゲホ」
カームはさっきまでよりも苦しそうに咳を吐きつつも丁寧に答えて、立ち上がった。
「カーム君、悪いけれど君がイージス君を復活させたせいで台無しだ……だから死んで貰うよ」
カームの方へゴングは余裕そうに歩いて近づいてくる。
「望む所だ……よ……げほ……!!」
カームはアマツガタナの遺品であるビームサーベルのアーティファクトを取り出して構えた。
構えたと同時にゴングの手の抜かれた猛攻が始まった。
カームは残った力を振り絞ってゴングの素早さについて行った。
右の攻撃をギリギリで受け止め、正面も受け止め……。
カームには攻撃する隙も無かった。
「この!!げほ!!」
カームは次第に押されていった。
とここでシュガーとハクタイが同時攻撃をゴングにお見舞いした。
「「……お前の相手は私たちだ!!」」
シュガーとハクタイは相手が再生するような存在であっても交互に強力な多段攻撃を繰り出して体力を温存しつつ激しく攻撃するといった感じで謎に良いコンビネーションで攻撃を繰り出してゴングを追い詰めて行く。
「はあ!!あの糞上司!!」
「アリス様食べ過ぎです!!」
二人は日頃の鬱憤を晴らすが如く激しい動きをしてゴングを抉るように攻撃をし続けた。
「なるほど部下同士辛みを理解しているからか息が合うのか」
スカルは頷いて納得した。
そしてここでイージスが叫ぶ。
「みんなでゴングをぶっ倒せ!!奴の年齢、さっきの再生能力を見るにゴングは不老不死に近い力を手に入れているっぽいが、捕まえて拘束すれば万事OKだ!!リンチタァイムじゃあああい!!」
イージスのその号令に続いてスノウもギベオンも攻撃を始めたのだった。
ギベオンとスノウは魔方陣を展開して魔力をゴングに向かって撃ち出した。
撃ち出された所でシュガーとハクタイはゴングを奥に蹴り飛ばしつつ撃ち出された魔力を回避してゴングに魔力をぶち当てた。
「復活!!」
そしてここでユルエも復活を遂げて自分が相手諸共に壁に減り込む程の強力な飛び蹴りを繰り出した。
今の蹴りでゴングの殆どの内臓は半壊したであろう。
しかしゴングは笑いながら立ち上がり、魔力を貯め始めた。
「魔力を貯めてるな何か巨大な一撃来るぞ!!全力で阻止しろ!!拘束はするな、してもぶっ飛ばされるからな!?」
イージスはそうみんなに命令を下した。
シュガー&ハクタイ、スカル、スノウ&ギベオン、カームはゴングをズタズタにしようとばかりに攻撃を入れまくった。
ゴングの体から腸が外に捻じれ飛び、歯がバラけ飛び、大量の血が光の雨に紛れ込む。
「痛覚はあるのか……?」
ここでイージスはふと疑問を呟いた。
「ばあっ♡」
その疑問に耳を傾けていたのかゴングはそう応えて狂気に笑った。
「無さそうだな」
ハクタイは少し残念そうに顔を顰めた。
そうして攻撃している中でだスカルは愚痴をこぼした。
「にしても鎌が使えないから中々使いにくいなこの武器、死ねよ」
ツンデレなスカルの愚痴は通訳すると、「天才イージス・リメンバの作った、この新アーティファクト後方支援能力は凄く高いけれど思った程威力無いな、他のアーティファクトボックスを使いたいなあ?」と言う物だった。
するとその疑問にフフフと笑いイージスは答えた。
「普通に他のアーティファクトボックスと一緒に使えるぞ?」
イージスがそう言うとスカルは食い気味に「どうやって使うのだ?」と言う。
「ステッキのスロットは一つだけだしもう空いてないぞ!!」
「悪霊ボックスにサイズボックスを連結して」
スカルはイージスに言われるがままサイズボックスを取り出して連結した。
するとステッキからいつものスカルの大鎌が出現した。
スカルは嬉々として大鎌を振り回して手ごたえを確認してゴングに鎌を向けた。
「いつもの鎌だな……こいつで決まりだ……どうせイージスの事だ必殺技もあるんだろうなッ……!!」
スカルはそう言うと悪霊ボックスのボタンを連打してからステッキのトリガーを引いた。
《ヒッサツワザアァッッ!!イケヅクリッ!!》
ステッキとボックスは音声を響かせる。それと同時に巨大な大鎌のオーラが出現した。
スカルは怪力のままに大鎌と共にオーラを振り回してゴングに斬撃を入れるのだった。
しかし斬撃が入った直後にゴングも魔力のチャージが溜まったのか一気にチャージした魔力を大鎌のオーラにぶつけた。