9月14日
夏の終わりを告げるように台風が本州に近づいているらしく、テレビではこれでもかというほどに台風の進路予測ばかり流れていた。
送別会で忙しいすずさんと話す機会は少なく、あわただしく週末を迎えた。
「どうも、白血病みたいなのよね」
すずさんは努めて明るい表情で話しかけてきた。
「まいちゃったわね。でも多分大丈夫よ。こんなに元気なんだもん」
「え?」
それ以上言葉が出ずにすずさんの顔を眺めた。
「あ、でも私もいろいろ考えたけど、香港には予定通り行こうと思うの。あれこれ日本で考えていても仕方ないし」
いつもより少し早口のすずさんは自分に言い聞かせるようだった。
「病院とかはどうするの?」
やっと発した僕の言葉は弱々しく、発した本人が不安になるくらいだった。
「これから香港の仕事を紹介してくれた人に相談してみようと思うけど、向こうも医療は整っているのできっと大丈夫よ」
すずさんの表情を見ていると、日本で闘病するつもりはない強い意志が感じられた。
「今も体調悪いの?」
「まあ、今はそうでもないから不思議なんだけどね」
「そっか、まあ心配だと言っても、きっと行くんでしょ?」
「心配してくれているの?」
「まあ、ちょっとはね」
「ちょっとだけか。しゅんちゃんは冷たいね。お嫁さんになってあげないよ」
「お嫁さん?そんな柄にもないことを」
「嫌なの?三年経ってもう海外勤務に思い残すことがなくなって帰ってきたら、結婚するということでどう?」
「はい、はい」
「いいの?」
「多分」
「あいかわらずはっきりしないわね。まあ、いいわ。これで三年頑張って生きていけそうだし」
二人の未来がどこまで続くかわからないという不安を、明るい希望で二人乗り越えようとしていた。




