9月1日
週末、赴任前の買い出しや持っていくお土産等の買い物で、デパートを一緒に歩き回っていた。
「日本の服ってやっぱり可愛いもの多いのよね」
「そう?香港にもそれなりにあるんじゃないの」
「やっぱりセンスが少し違うのよ」
セール対象と値札のついているワンピースをいくつか手にしながら、どれにしようか悩んでいるようだった。
「どれが似合うと思う?まあどれでも似合うけど」
こちらの反応があまりよろしくないためか、それとも初めから意見を求めていないせいか、返事を待つまでもなくレジに並んだ。
歩き疲れたので、すずさんの意見を尊重し、少し早めの晩御飯をお好み焼き屋でとることにした。
まだ少し晩御飯に早いせいか、他の客は1組しかおらず、空いている場所に座った。
ビールの大ジョッキと王道の豚バラ肉のお好み焼きを注文し、運ばれてくるまで、店の壁紙の芸能人のサインが誰なのか二人で思いつくままに名前を出しあった。
結局ほとんどのサインが誰なのかわからず、また正解を店の人に聞くわけでもなくもやもやとしていたところ、タイミングよくビールが運ばれてきたので、これ幸いと考えるのを放棄した。
「こうやって、向こうで食べれそうにないものを食べたり、行けそうにないところに行ったりしていると、そういったものがなくなった頃には向こうに行くんだなと最近思うのよね」
すずさんは運ばれてきたお好み焼きをほおばりながら、少し寂し気につぶやいた。
「自分で決めたことだしね」
「それはわかっているんだけどね。何だかしゅんちゃん、冷たいね」
「まあ、2,3年でしょ。その間にお好み焼きが滅亡するわけでもないし」
「お好み焼きの話をしているんじゃないんだけどな」
すずさんは少し不満そうな口ぶりで、ビールを飲み干した。
「しゅんちゃんは私のこと忘れないかな」
店の中で流れる懐かしい歌謡曲に耳を傾けていると、すずさんが話しかけてきた。
「大丈夫じゃないかな」
「ほら、冷たい返事」
「そう?忘れたくても忘れられない恋があるって」
「何それ?」
「さっきそんな歌詞が店内で流れてなかったっけ?」
「よくわからない」
「まあ、なんだ、忘れられないっていうことですな」
「初めからそう言えばいいのに」
そして二人肩を並べて少し懐かしいラブソングにしばらく耳を傾けていた。




