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この別れはきっと。

この別れはきっと。

とりあえず、短編で。


「別れてほしい」

 それは、1か月ぶりに会う恋人からの言葉だった。紗英はまるで知らない言語で言われているかのようにその言葉を受け取った。

「実は、紗英の他にもう一人の人とも付き合ってて、…そいつに子どもができたんだ」

 どうして涙は流れてほしい時に限って、出てこないんだろう。紗英は乾いた目で、まっすぐ瑛士を見つめる。

「紗英は、しっかりとした仕事にも就いてて、ちゃんとしてるだろ?顔だって綺麗だ。新しい男なんてすぐに見つかる。…でも、あいつは俺がいなきゃ、ダメなんだ。俺が支えてやらなきゃ」

「…そう」

「だから、ごめん。紗英の隣にはいられない」

 瑛士から出た「隣」という言葉に、紗英は笑い出したい気分だった。

 隣にいたことなんて、あっただろうか。瑛士と一緒にいた日々を思い出す。付き合って1年。たったの1年だ。けれど20代後半の貴重な1年でもあった。その1年、紗英はずっと、瑛士の背中を見てきたように思う。先を歩く瑛士の背中をずっと。

何をするのを決定権は瑛士にあった。瑛士がしたいことをした。付き合ってすぐに気が付いた。瑛士が好きなのは木村紗英という女性ではなく、有名大学を出て、商社に勤めていて、見た目も「上」と言えるアクセサリーなのだと。

でも、それでも、傍にいられればよかった。背中を見ていられるだけでもよかった。それなのに、それすら許してはくれないらしい。

どうしてこんなに好きなのか、友だちによく聞かれた。そんなとき、紗英はいつもこう答える。

「初めて見た時の笑顔が、可愛かったから」

瑛士は高学歴とは言えない大学を出ている。仕事だって、普通のサラリーマンだ。どこにでもいる普通の男性。二股をしてしまうような普通の男性だ。それでも紗英は好きだった。初めて見た時の幸せそうな笑みを宝物のように思い出している。一目惚れだったのだと思う。ずっと背中しか見てこられなかったけれど、それでもいいと思えるほど好きだった。きっと、彼が一度も振り返らなかったから、だからこそ、こんなに好きになったのだ。瑛士の背中を見ていられることが、どれほど幸せだったのか、きっと瑛士は知らないままだ。

「…私の事、好きだった?」

 最後だからとずっと聞くのが怖かったことを紗英は問うた。そんな紗英の問いに瑛士は小さく頷く。

「紗英は頭が良くて、仕事だって大手で、見た目だって綺麗だし、性格だって優しい。だから、紗英といると、なんだか俺まですごい人になった気がして嬉しかった。でも、…紗英は完璧すぎて、一緒にいるのが苦しくなった」

「…」

「あいつは違う。あいつは俺がいないとダメなんだ。紗英みたいに綺麗じゃないし、頭だってよくないし、フリーターだし。だから、俺が支えてあげたいんだ」

 瑛士の言葉に、紗英は小さく笑う。だって、笑うしかない。1年一緒にいたのに、「好きだったよ」の一言すら出てこないなんて。きっと、瑛士は「好き」と言ったつもりなのだろう。けれど、「好きじゃなかった」としか、聞こえなかった。

「…わかった」

「え?」

「わかったよ。別れよう」

 紗英の言葉に瑛士は頷いた。その顔に安堵の表情が浮かんでおり、けれどその笑顔さえ好きなのだから、救いようがないと自嘲する。

「紗英、幸せになれよ。お前なら大丈夫」

 そんな言葉を残し、背中を向けて去っていく瑛士を紗英はただ見ていた。その背中すら愛おしいのだから、やはり救いようがない。


「ずいぶん自分勝手な彼氏だね」

「え?」

 声のした方を見れば、見知らぬ男性がそこにいた。茶色の髪をした、若い男性だった。歳は、22歳か23歳ぐらい。綺麗な顔立ちのその男性は、楽しそうに紗英を見る。

「あ、違うか。別れたんだから彼氏じゃないか」

「…あなた、どちら様ですか?」

「通りすがり。たまたまここに来たらお姉さんたち、修羅場始めるんだもん。面白くて、見ちゃったよ」

「…」

 イライラを隠そうともせず、紗英は通りすがりだという男性に背を向ける。

「泣ければ、良かったのにね」

「…え?」

 思わぬ言葉に紗英は男性の方を振り返る。

「泣きたいのに、泣けない。そんな奴とは別れて正解だと思うよ」

「…」

「泣いていいのに」

 声色が優しかった。空を見れば、真っ黒な夜の中、星が輝いている。一つ、二つ涙が零れ、止まらなかった。

 隣にはいなかった。いつだって、瑛士の後ろにいた。背中を見ながら、後ろをついていっていた。でも、それさえも幸せで。それだけで、幸せだった。

「好き…だったのに…。大好きだったのに」

 言葉に出したら、止まらなかった。どこが好きか、なんてわからない。ただ、大好きだった。それだけだ。

「大丈夫、あなたは愛されてたよ」

 嘘だって、何だって。そんな言葉が嬉しかった。

「…ありがとう」

 頭を下げると、男性は少しだけ照れたように笑った。


 偶然か、必然か。

 泣いている紗英を慰めた彼と、次の日、職場で会うことになったのは。

「初めまして、渡井口太一です。今日からこちらで働くことになりました。よろしくお願いします」

 新人特有のフレッシュさをまき散らしながら右に左にとお辞儀をする。

「…」

 声に出さなかった自分を紗英は褒めてもいいと思った。紗英と目が合うと太一は目を細めて口角を上げる。

 背中を見ているだけで幸せだった。けれど、きっとそれは「幸せ」とは違うだろうと紗英は思う。これからどんなことがあるかわからない。でも、今度こそ幸せになるのだと、紗英も負けじと口角を上げた。



ただいま、小説を書きたいけれど、全然かけない現象進行中です…。

なので続けれる気力があれば、続編を書きたいですが、何も思いつかないので、

恋の予感で止めておきます!

読んでいただいてありがとうございました!!

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