つなしの……
ちょっと昔の。
あったかもしれない話
「お兄ちゃん!見ててね。真希、もう逆上がりができるんだよ!」
京都のお寺の横にある小さな公園で。
二人の兄妹が鉄棒の練習をしている。
そろそろ、夕陽も傾きつつある初夏。
近隣の家からは、夕飯の支度の気配。
まだまだ遊び足りない妹に。
少し真剣な表情の兄。
「真希、お寺のいっぱい木が植わってるとこあるやろ。」
表情は硬いままで、軽い口調で話しだす兄。
「うん。知ってる!なんか。まーっすぐ一列に10本くらい並んでたっけ。」
「10本じゃない。9本や。意味もあるんやで。」
兄の話しを聞きながら、鉄棒に勤しむ真希。
「あれはな。端から一つ、二つ、って数えていくやろ。最後まで数えたら九つや。」
「うん。それで?」
ようやく鉄棒を止め、兄にならんで話しをするために三角座りをする真希。
「オレの年が10才に今日なったのは、真希も知ってるやんな。」
「だから、今、外でママが呼びにくるの待ってるんやん。 まだかな?えらく遅い気がするけど。 お腹すいたね?」
陽もなくなり、ほの暗くなってきた公園で、兄が言う。
「10才や。 10才になったら、もう"つ"はつかんのや。 ……"つ"はつかんのや。」
表情は暗くて見えずらいけど、大人びた声がひびく。
「真希ーそろそろ夕飯やで。帰っておいで。」
その時、ママが呼ぶ声が聞こえた。
「真希お兄ちゃんも、ほら。」
ちょっと昔の話。
"つ"がつくのは、9才までやと。
子供でいられるのは、9才までやと、貧しい家は奉公に子を出していた。
兄妹の名前が同じなら、居なくなった寂しさもまぎらわせるだろうと。
本当の「つなしの木」は、こういう話ではないですよ(笑)