父様に嫌われたら、幸せにはなれません。
「カイン坊っちゃま、旦那様がお呼びです」
「父様が? 分かりました」
シシィが帰った次の日、夕食が終わった後に、執事長がお部屋に来ました。
父様は今帰って来たようですが、お食事は食べたのでしょうか?
呼ばれたので行きますけど、お食事はキチンと食べて欲しいです。
執事長に付いていき、父様の書斎? 執務室? へ。
執事長がノックをすると、すぐに返事があり、入室を許可されます。
僕も一緒に入ると、父様は正面にある実務机ではなく、ソファの方に座っていました。
テーブルにはサンドイッチと飲み物があります。軽食ですが、ご飯は食べるみたいです。良かったです。
「お帰りなさい、父様」
「ああ、ただいまカイン。さぁ、こちらへおいで」
「はい」
優しい表情で手招きされたので、素直に父様の隣に座ります。
父様は背がとっても高くて、筋肉も確り付いています。マッチョマンです。
だから、隣に座ってもお顔が遠いです。腕が太いので横幅もありますし。
太い眉毛は一直線で、切れ長の二重。口も一文字です。
父様のお顔は、はっきり言うと恐いです。ヤクザ屋さんです。
親分ではなく、若頭風です。
僕も大きくなったら父様みたいにマッチョになれるでしょうか?
あ、でもここまでムキムキは嫌ですね…適度にマッチョになりたいです。憧れますよね、男らしい男の人。
ちなみに、僕のお顔は母様似なので、ヤクザ屋さんにはならないです。
身長だけ父様のDNAが欲しいです。
……兄様は、父様にそっくりです。剣の腕も父様譲りですし、きっとムキムキマッチョマンになるでしょうね。
あれ、シシィの婚約より、兄様が婚約者探さないとダメなんじゃ…?
「今日、サルグリッド公爵に御会いしてきたよ」
「! 公爵様はシシィのことを、何て言っていましたか?」
母様と一緒に、父様にお聞きしてみたのです。伯母様が掴まらなかったっていうのもありますが、やはり言っていた本人に聞いたほうが早いのです。
貴族の政略結婚は良くありますが、サルグリッド公爵家が王家と婚姻する意味はあるのか。シシィのことを、何故役に立たないなんて言ったのか。
とっても疑問なのです。
「公爵領は隣国と接している場にあるだろう? そして、公爵は国防を考えあの地を領地とした。というのは、前にルーベンスの授業を聞いていたな?」
「はい。公爵様は、国益を第一に考える方だと聞きました」
「そうだ。だからこそ、言い方は悪いが、シシィ嬢は領地を継ぐのに向かないと考えたのだろう」
女であるシシィが領地を継ぐには、婿養子をとるしかありません。
ですが、婿に来てもらうとなると、貴族位が低くなるし、次男、三男といった、言い方が悪いですが、相手の家的にその家に必要のない方が候補になるらしいです。
そういった方では、国境の守りは完璧にはいかない。
だから、シシィは家から出し、公爵領は他から国防に足りうる方に守らせると、公爵様は考えているそうです。
「…そうしたら、シシィは幸せになれるのですか?」
「カイン?」
シシィは、父親に切り捨てられ、居ないものとされ、王子に嫁がされて。
そんな扱いをされて、シシィは幸せですか? シシィは、公爵様に愛されていないのですか?
ジッと父様を見上げて言えば、父様は黙ってしまいました。
視線を逸らさずに暫く見上げたままでいたら、父様は目を瞑り、深く息を吐きました。
「……幸せ、か…」
「僕は、父様や母様にそんなことをされたら、兄様や姉様になんと言われても、父様達から嫌われていると、僕は要らない子なんだと悲しくなります。そうしたら、どんなに恵まれた場所に居ても、幸せではないと思うのです」
「…そう、だな…」
父様は僕を抱き上げて、膝に乗せて頭を撫でてくれました。
何か考えているみたいです。ぜひ、公爵様に考え直すよう言って欲しいですね。
今気付いたのですが、ゲームの中でシシィの言動なんかについて、公爵さまや伯母様が止めたりしなかったのは、シシィが切り捨てられていたからではないでしょうか?
養子をもらって公爵領を継がせるのならば、シシィが問題を起こしても、行く場所が王子のお嫁さんから、修道院へ変わるだけです。
……本当に、公爵様はシシィのことを、嫌いなのでしょうか…。
シシィは両親から嫌われていたから、行動や言動を諌める人が居なかったから、あんな傍若無人な性格になってしまったのではないでしょうか?
だったら、僕はシシィに沢山の愛情をあげましょう。悪いことをした時に叱ってあげましょう。
「父様、僕はシシィを守ります!」
「ん? そうか」
思いを新たに宣言した僕を、父様は不思議そうな表情で見ていました。