お仕事見学です
母様と二人で考えていても、答えは何も出てきません。
取り敢えず、シシィにはこの話題は出さないように。とだけ決めて、本当にシシィを役立たずだと思っているのかどうかは、母様がそれとなく聞いてみてくれるそうです。
僕は、シシィを元気付けるために頑張ります。
「シシィ、今日はお庭に行きましょう」
「何をするのですか? 楽しみです」
朝食を終えた後、ケニーから伝言を貰った僕は、シシィの手を引いてお庭にむかいます。
お庭をさくさくと進み、裏庭の方にある庭師小屋へ。
ケニーがドアをノックしてから開けば、中にはトムさんと、トムさんに少し似た少年がいます。
「おはようございます、トムさん、ナギライさん」
「おはよう御座います坊っちゃん」
「おはようございます、カイン坊っちゃん」
ナギライさんは、トムさんのお孫さんで、今年確か、十二歳です。
去年から少しずつトムさんを手伝いはじめて、今年からは正式に弟子になったのです。
シシィに二人を紹介すれば、シシィは素直に挨拶をします。
母様と一緒で、シシィも庶民や平民分け隔てなく丁寧な言葉でお話しします。
身分が下だからと、歳上の方を 見下すようなことは絶対ダメですからね。
「カイン、お二人と、今日は遊ぶのですか?」
「遊ぶのではなく、お仕事を見学するのです」
そろそろお庭のお花の植え替えの時季なのです。
ケニーに、種まきか、苗を植える様子を見学出来るかどうか、トムさんに訊ねて貰ったのです。
朝、ケニーにもらった伝言で了承はいただきました。なので、今日は土いじりから学びたいと思います。
不思議そうに首を傾げるシシィを連れて、トムさん達の後に付いて庭へ向かいます。
大木と塀に囲まれるようになっている隅には、枯れ葉が土に埋もれるように山になっていて、日陰になっています。
その場所から少し離れた場所に、ナギライさんが道具やプランターを下ろして、作業が始まります。
「トムさん、今日は何の種をまくのですか?」
「ピンクスノーとユリウスの種ですねぃ。それから、カラバラの株分け作業をしますわぃ」
「あの、ピンクスノーは、春にさくお花ですよね? …今からたねをまくのですか?」
ピンクスノーは、春先に咲く小さな桃色のお花です。
背丈が短くて、花びらが雪の結晶のように開くので、満開になると桃色の雪が積もったようになるのです。
名前が判りやすいです。
ユリウスは、日本の百合の花と同じようなものですが、日本のものより花びらが多くて大きいのです。
カラバラは、蔓バラの一種ですね。
赤みがかった蔓に緑色の花が咲く、ほのかに甘い香りのするバラです。
「ピンクスノーは、種を蒔いてから目を出すまでに一月、その後蕾を付けるまでに寒い場所へ二月、その後日の当たる場所で一月、更に寒い場所へ。という具合に場所を移動させなければいけないんですよ」
ナギライさんが説明をしながら、ピンクスノー用、ユリウス用、株分け用、とプランターと土を見せてくれます。
ピンクスノーは、寒暖差を厳しくすることで茎が短いまま、花をつけることが出来るそうです。
とても手間が掛かるので、ピンクスノーを綺麗に咲かせる事が出来るようになったら、一人前の花師だと言われるそうです。
「さ、坊っちゃん達、見てください。これがピンクスノーの種です」
「桃色に見えますでしょう? それで、この先端だけ桃色が濃いのがわかりやすかぃ?」
「ほんとうですね! さきの方だけこいピンク色をしています!」
僕とシシィの目の前に種を一つ、手のひらに乗せたトムさん。
シシィと二人で身を乗り出すようにして良く見ると、確かに片方の先端だけ濃い色をしています。
トムさんの説明によると、色の濃い方が上になるように種を撒くと、キチンと芽を出すらしいです。
種を横にしたり、上下を逆にして撒くと、芽が出てこないのだそうです。
ナギライさんがプランターの用意を終えると、トムさんと一緒に日陰に積んである枯れ葉を持ってきました。
そして、その枯れ葉をプランターに入れていきます。プランターの一番下に敷き詰めるように枯れ葉を入れ、土を入れていきます。
ピンクスノーの土は赤茶色をしています。
土に入っている養分が、お花や樹木によって良い悪いがあるので、土選びも大事なのだそうです。
トムさんとナギライさんは、説明をしながらもテキパキとプランターに土を入れて種を撒いて、株分けもしていきます。
とても丁寧な作業なのが良くわかります。そして動作が速いです。流石です。
シシィと二人、話を聞いて、質問をして、いつの間にかお昼御飯の時間になっていました。
あれ? ついさっき朝御飯食べたばかりな気がします。
「トムさん、ナギライさん。お仕事を見学させてくれて、ありがとうございました」
「ありがとうございました。とってもお勉強になりましたわ」
「いえいえ。お二人とも熱心に聞いてくれたんで、仕事のしがいがありますわぃ」
「新しく種を購入したら、またお知らせしますよ。お二人の好きな花が見つかったら良いですね」
トムさんもナギライさんも、笑顔で言ってくれました。
本当は、僕達が居ない方がお仕事がもっと速く終わる筈なのに、また何時でも来てください。と笑ってくれます。
父様に、あまり甘やかさないでくれ。と言われているのも知っています。
僕は、本当に恵まれているのだと、こういうちょっとしたことで実感します。
今世は、もっともっと、人の役に立てるように頑張りたいです。
皆で昼食を食べたあとは、少し食休みをしてから、父様にいただいた絵本をシシィと二人で読みました。
僕がマーラ姉様の授業を見学していたのを知った父様が、絵本の方が理解しやすいだろうと、魔法の属性を描いたものを買ってきてくれたのです。
簡単な説明だけですが、イラストが入っていてとても分かりやすいですし、解らなかった場所はマーラ姉様やケニーに聞けば良いので、とても勉強になりました。
貴族の子供は、七歳になる年に魔力検査があります。それを元にして魔法の勉強が始まるのです。
あと二年。楽しみです。
お花、土、育て方は全て架空です。
こういうちょっとしたことを考えるのが、苦手なので、きっともう詳しく書くことはないと思います。
花の名前めめ安直すぎる……