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ようやく、休暇が終わりそうです。


ルドーさんに新しい事を教わりながら採取を終え、『尖鉄の楔』の皆さんには森の歩き方や逃げるための森の走り方なんかを数日に渡り教えてもらいました。

十日ほど街に滞在した『尖鉄の楔』の皆さんは、ランクアップ試験というものを受けるために、辺境伯領へ向かわれました。


孤児院で畑仕事を手伝い、薬師様に薬草の乾燥のさせ方や切り方などを新たに習い、お庭に咲いているカラバラをナギライさんに教えてもらいながら剪定したりしていたら、夏季休暇も漸く終わりが見えてきました。





「学園でお茶会、ですか? 」

「えぇ。ジルベルト殿下が御入学されて約半年、御学友の方々とは良い御関係を築かれておいでの御様子。

ですが、婦女子の皆さんとも、もう少し交遊を持っていただきたいと、国王陛下と王妃様が仰られて、学園側の主催で開かれるそうですわ。」


バーナード・グラビス様とグラビス辺境伯様と辺境伯夫人が邸へご挨拶に見えられて、マーラ姉様との婚約を正式に書面にしたり、ルーベンス兄様と両親がプラナ・モルガン子爵家へご挨拶に伺って婚約を正式に調えたりと、僕以外が忙しくしていたのが一段落したら、母様が学園からの手紙を持ってきました。


「……お見合い、的な? 」

「まぁカインったら。………そんな感じかしら、やっぱり」


つい下世話なものに思い至って呟いてしまいましたが、母様も思われたのでしょう、頬に手を当てて真顔になられてしまいました。


ゲームでは、幼少期にシシィと王子は婚約していたので、そんなイベントはなかった筈です。

ですが現実は、シシィの父親であるサルグリッド公爵様が娘溺愛のため、シシィには未だお見合い話すら無い ‐ というより公爵様がはね除けている状態です。


王子と釣り合う高位貴族の娘の中では、シシィが婚約者の最有力候補です。

ですが、公爵様が縁談をやんわりとですが断ってしまったため、王子の婚約者探しが難航しているそうです。

上位の家から打診していくらしいのですが、一番最初であるサルグリッド公爵家が断ると、その下の方々が困惑されたり、王子に何らか ‐ 趣味や嗜好が危ないとか悪いとか ‐ の原因があったのでは、と怪しんだりしていて、皆さん二の足を踏んでいるらしいです。


「シシィ様に婚約者が居られれば、それほどでもないのですよ? ですが、義兄様ったらまだ早いと仰られていて、候補さえあがっていないのですって」


伯母様に愚痴を聞かされたようです。

母様が苦笑して、学園のお茶会でどなたか良い方とお知り合いになられないかしら? と呟きました。


「お茶会で、ですか」


多分、皆さんお友達と固まってしまうのではないでしょうか?

それか、王子が話しかけにまわられるのでしょうか?


う~ん、と悩んでいたら、母様がポン、と手を合わせられました。


「そうそう、カイン。お茶会用の服を仕立てなければいけませんわ」

「え? 学園主催ならば、制服で良いのでは? 」

「あらあら。学園主催といえど、きちんとした社交の場ですよ。学園は社会の縮図、こういう場で皆様のお家の評価もされるというものですわ」


いきなり張りきりだした母様に目配せされた侍女さんが、サッと部屋から出ていき、十分も掛からず仕立て屋さんが招かれました。

最初から呼んでいたのでしょう。動きがスムーズです。

あっという間に、ローテーブルに生地や衣装画が溢れました。


「ちなみに、マーラのドレスはグラビス家で用意されますから、逃れられませんよ、カイン」

「………はい」


にっこり笑う母様は、実に楽しそうです。




くるくると、という表現が正しいかは解りませんが、生地を当てられたりとられたり当てられたり……。と早、二時間。

漸く生地の色と素材が決まったと思ったら、その生地ならば、と今度は衣装画が何枚も引っ込められたり出されたり、母様の口出しで新たに描かれたり……。


ネクタイピンやカフスボタン、刺繍のデザインに刺繍糸を選び、靴やハンカチーフも新しくするためにうんたらくんたら………。


「……女性って、パワフルですね……」


全て選び終わるのに、二日も費やしました。

自室のソファにぐったりとなった僕に、ルーベンス兄様が苦笑してます。


「まぁ、カインの場合、デビュタント以降殆どというか、全くか? 公式な茶会に呼ばれていないし、衣装を作るなんて無かったからな。母様が張り切るのも無理はない」

「兄様も、毎回あんな感じですか? 」


聞けば、兄様は嫡男として色々な茶会や、他家への御呼ばれに着いて行くので、予め季節始めになん着か仕立てているらしいです。

なので、細々と小物だけ、シャツだけ、といった新調はあるけれど、今回の僕のように一気に作ることはないのだそうです。


「あぁでも、母様やマーラは毎回あんな感じだぞ。二人で楽しそうにやっている」

「女性は、新しいものやキラキラしたものが、好きですからね……」


何かもう、疲れました。

お茶会って、半日もないのに、二日も掛けてこんな準備がいるんですか?

僕、跡取りじゃなくって良かったって、今心底思います。


深くため息を吐いて、用意されたお茶に手を伸ばしながら、兄様を見ます。


「兄様、そういえば何かご用があったのでは?」

「そうだった。あまりにもカインがぐったりしているから、思わず話を聞いてしまっていた」


ポン、と手を合わせた兄様は、テーブルの隅に置いていた紙を僕へ渡してきました。


「学園のお茶会の、詳しい書類。母様が渡し忘れてると思ってね。招待状の方だけを見て、はしゃいでいたし」

「わ、ありがとうございます。日付だけじゃなく時間や、場所も分からなかったから助かります」


お茶会をする日付だけは母様が言っていましたが、それ以外の情報がなかったのです。聞く暇がないというか、聞く間がないというか……凄く楽しそうですからね、母様。


お茶会は新学期の始まる一日前。皆さん寮に戻られているでしょうし、無難な日です。

時間はお昼ですね、昼食も兼ねているのでしょう。お料理も出されるみたいです。

高位貴族の方々と中位貴族までと、下位貴族から平民の皆さんは開始会場が別ですね。始まってしまえば行き来は自由。

平民の方々への配慮でしょうか? 高位貴族と平民か同じテーブル、同じお皿の料理を取るというのは、やはり色々ダメなのでしょう。


「給仕募集?」

「あぁ、侍女科の者が主だが、将来の職業訓練も兼ねて一度体験してみるのも良いんじゃないか、と考えられたのだろう。マーラが応募しようとしていた」


お茶会の概要の書類に紛れていた求人募集に首を傾げたら、兄様が、マーラ姉様のクラスに配られたものだと教えてくれました。


中位、下位貴族の方々には、将来親戚や派閥関係の上位貴族のお邸で侍女や侍従として働く方がいます。

もちろん授業で習いますし、授業実習として他家へ行くこともあるそうですが、実際に働く時に、同学年の方へ奉仕する事になるので、とても良い機会だと、学園側が考えられたそうです。

平民の方でも、希望すれば応募出来るそうです。お給料もきちんと出るのだとか。


「……ん? マーラ姉様は応募したのですか?」

「応募する気だったらしいがな、バーナード様に慌てて止められたよ。辺境伯夫人になるのに、使用人の仕事などさせられないとね」


ですよね。



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