思ったより、暇です
「………本当なら、カインのお見合い話も持ってきたかったのですけれど、なかなか…… 」
侍女さんが新しい紅茶を淹れてくれたので、一息ついていると、ポツリと姉様が息を吐きました。
「僕には、分不相応ですよ」
子爵家の次男で、将来は家を出る事が決まってますし、騎士や文官にはなれません。
そもそも、僕の専攻、薬草学や聖属性魔法ですから。
頑張って神官見習いってところです。
そんな、将来市井に下りるのが決まっていそうな男にわざわざ嫁いで来てくれる貴族子女はいません。
「カインは、どちらかと言うと母似だから、可愛いという表現が似合う」
「そうですわね。カインは可愛いですから、あまり女の子の、異性の対象には……ちょっと……」
「兄様、姉様、ひどいです」
二人の言い方では、まるで僕の容姿のせいでモテないみたいじゃないですか。
ジトリと見れば、苦笑されてしまいました。
夏季休暇には、前世のように課題や絵日記などの宿題はありません。
まぁ、貴族ですし、夏の間は社交の場も賑わいますから、学園に通う年齢の子供であっても、お茶会やパーティーに出なければなりません。
うちは、当主である父様と、次期当主である兄様がいるので、次男の僕は特には呼ばれませんし、お茶会や御婦人達の集まりは母様と姉様が担当です。
つまり、
「……暇です」
朝の鍛練と朝食が終わってしまうと、途端にやることがなくなってしまいます。
運動はあまりやり過ぎると怪我をしますし、父様の蔵書は、小さい頃からお借りしていたので、もう殆んど読んでしまいましたし。
お菓子作りは一昨日と昨日作り過ぎて母様に怒られてしまいましたし。
「流石に僕が刺繍や編み物をしたら、侍女さん達にも怒られる気がします」
お菓子作りまでは、まぁ、料理人さんは男性もいますから、許されました。
作ったお菓子が目当てな気もしなくはないですけど、そこは見ない振りです。
でも流石にお針子さんに男性はいませんから、許されません。
次男とはいえ、貴族ですから。
「……明日、教会へ行ってみましょう」
孤児院のお手伝いや、薬師様のお手伝いなら、やれることはあるハズです。
侍従さんに頼んで、教会へ明日行っても良いか聞いてきてもらいましょう。
侍従さんの行動はとても早くて、昼食前に頼んだことが、夕食後にはお返事がありました。
明日は冒険者さんへ依頼を出した日らしく、森の方へ採取に行くことになっているのだそうです。
僕も一緒に採取に出掛けましょう。とお誘いがありました。
早速父様へ報告に行けば、邪魔をしないように。と注意をされましたが、同行を許していただけました。
……同行するのは、初めてではない筈なのですが、毎回この注意を聞いている気がします。
信用がないのでしょうか?
「それだけ、カイン様を心配なされているのですよ」
「そう、なのでしょうか……」
翌日。
孤児院へお邪魔させていただき、採取の同行のお礼をお伝えした時にシスター・クラメンスに父様のことを溢したら、クスクスと上品に微笑みながら返されました。
「お待たせしました。こちらが今日の護衛を受け持っていただいた、『尖鉄の楔』の皆様です」
「ガストールだ。前衛で片手剣を扱う」
「短剣と槍、遊撃が主だ、ヒツマという」
「風魔法を使うわ、後衛のシェンラよ、よろしくね」
「カイン・ロンガヴィルです。本日はよろしくお願いいたします」
ガストールさんは縦も横も厚みもある、大柄な男性。ヒツマさんは僕より少し背の高い、でも成人男性としては小柄で華奢な男性。シェンラさんはヒツマさんよりも背が高いですが、細身で綺麗な女性です。
三人は此処ではないですが、孤児院の出身らしく、町や村に寄ると必ず孤児院の依頼を受けているのだそうです。
『尖鉄の楔』の方たちと、僕、教会の薬師であるルドーさんの五人で、森の入り口周辺での採取に出掛けます。
お話を聞きながらも、早速出発です。
「カイン様は、学園では薬学を専攻しているのですよね? 」
「はい。まだ薬草の種類と効能などを覚えている段階で、実際に薬草の処理や調薬などは、休暇が終わってから徐々に、と聞いています」
ルドーさんに採取する薬草の種類を聞きながら、冒険者さん達とあまり離れないように気を付けながら森を歩きます。
「坊っちゃん、下ばかり見ていると方向感覚が狂う。もう少し視線を上げておけ」
「あ、姫リンゴが生っているわ。少しとっていきましょう」
「む。角栗鼠がいるな、暫し止まっていろ」
『尖鉄の楔』の皆さんは、やはり慣れているのか、常に動いていて、僕とルドーさんが中心になるように三角形を描いた位置取りをしています。
シェンラさんも、後衛とは言っていますが、オーク位までなら一人で対応出来る実力があるそうです。
「ルドーさん、彼処にキノコが生ってます」
「おや本当ですね。あれは弱い麻痺に掛かる胞子を持っているんです。採取する時は、手袋を着け、キノコに密閉袋を被せてから、根本を揺らさないように切り取るんです」
ルドーさんは、鞄から袋と手袋を取り出して、解説しながら採取を見せてくれました。
麻痺の成分は、上手に処理をすれば痛み止めになるそうです。
間違えてしまうと、呼吸器が麻痺して酸欠になる毒薬が出来るのだそうです。
「毒と薬は紙一重です。カイン様も、それを忘れないようにしてください」
「はい、解りました」
「あぁっ、ルドーさん、カイン様、黄リンドウが咲いているわ! しかも群生よっ」
「ほう、珍しい。俺ら冒険者でも滅多に見ないやつだな」
シェンラさんの声に振り返ると、木々の間に黄色の花がポツポツ見えます。
ルドーさんとそちらへ向かうと、ちょうど木が無い、ぽっかりと空いた小さな空間に、花畑のように黄リンドウが咲いていました。
「黄リンドウ……花粉は糖密と練ると喉の炎症に、花びらは煎じてお茶にすると婦人症の緩和に、葉と茎は乾燥させて数種類の薬草と混ぜて聖水と聖魔法で温めると中程度の回復魔法薬になる。 ……です」
「正解ですカイン様。それに、根の部分はゴボウのように食べられるのですよ」
知識を引っ張り出して確認するように呟くと、ルドーさんが頷いて笑ってくれました。
というか、食べられるんですか、根っこ……。




