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良い報告があります


「ルーベンス様、カイン様。マーラお嬢様がお帰りになられました」


家の裏庭で、朝から兄様の鍛練に御一緒させてもらっていたら、侍従長さんが姉様の帰宅を教えてくれました。


部屋に戻って湯浴みをして着替えてから、兄様と一緒にサロンへ入れば、姉様がニコニコと笑顔で迎えてくれました。


「マーラ姉様、お帰りなさい」

「お帰り、マーラ。その様子だと、良い報告が聞けるのかな?」

「ただいま戻りましたわ、ルーベンスお兄様、カイン。良い報告を、二つほど持って帰ってきましたわ!」


さぁさぁ! と招かれて兄様とソファに座れば、使用人さんがお茶を出してくれると同時に、姉様が書類を見せてくれました。

手に取った兄様の横から、覗き込むように一緒に書類を読んでみます。


「婚約、書? えっと、甲は、乙との婚約に際し、一切の………」


なんか、とても難しく書いて有りますが、兄様に解説していただくと、姉様との婚約及び結婚に対して、愛人や妾は駄目ですよ、浮気は万死に値しますよ。お嫁さんになったら、領地に来てもらいますよ。子供は乳母や使用人任せにはせずに、一緒に育てますよ。などなど、書いてあるそうです。


しかもこれ、マーラ姉様から言い出した事ではなく、お相手の男性から提示されたそうです。

浮気に対してトラウマとかあるのでしょうか?


……というか、乙とか甲とか、何故に日本的なのでしょ……ぁ、乙女ゲームの世界でした。日本産の。

なら仕方ない、のでしょうか?


「……随分とまぁ、熱烈? 一途? な御仁のようだな?」

「私が望んだ方ですもの、当然の誠実さですわ」


誠実で済ませて良いのでしょうか?

まぁ、姉様が良いのなら何もいいませんけれど。


御相手の方、バーナード・グラビス様といって、グラビス辺境伯子息なのだそうです。

この方は長男で、後継者に確定しているので、姉様は辺境伯婦人となるのだそうです。


「…辺境伯子息とは、また……」


兄様が喉の奥で唸るように呟き、黙ってしまいました。


うちは子爵家ですからね。

辺境伯って、結構上の御家な上に、王家から特別目を掛けられている事が多々ある爵位です。


グラビス辺境伯家は、数世代前の当主様が武勲によって賜れ、興した御家です。

隣国とその向こうの国が小競合いをしていた時代、この国にも争いが飛び火してきたのです。

隣国とその向こうの国の戦場を、この国の土地で繰り広げさせ、三国を疲弊させて一気に襲おうとした国があったのです。漁夫の利甚だしいです。いえ、もっと酷い話です。


当時のグラビス辺境伯様は、法衣貴族の、男爵家四男。

家は継がないし、領地もないので、冒険者をされていらしたそうです。

二国間の小競合いがこの国近くでおこった時、ギルドが国防の一端を担う為に呼び掛け、それに応えて戦場へ。

Bランク冒険者だったグラビス辺境伯様は、先陣を切り、二国の大将の間に割り入ったそうです。

そして、大将二人の身柄を押さえられた。


大事なのは、グラビス辺境伯様は、大将二人の首を取ったのではなく、拘束したことです。

無傷とはいきませんでしたが、二人とも生きていたのです。

そして、大将と一人ずつ話をして、裏で糸を引いていた国の存在に気付き、戦準備をしていたそちらの国を、三国で叩いたそうです。


歴史書にも記載されている、とても凄い御家です。


「……そこへ、姉様がお嫁に行かれるのですか?」

「そうよ。というか、カイン。あなた歴史書を暗記でもしているの? そんなにスラスラ語れるなんて……」

「ヨーリンが好きなんですよ」


昔から、時間があれば聞かされていましたから、嫌でも覚えてます。

ヨーリンは強さと忠義溢れるグラビス辺境伯様に憧れていますから、聞きあきたとは口に出せません。


「父様は何と仰っているのですか?」

「勿論、父様も母様も、了承していただいているわ。お伺いする前に報告をしたもの。卒業前に決まって、ほっとしていましたわ」

「マーラの婚約か決まったら……僕の肩身が狭くなるな………」


兄様がため息を吐かれました。

後継ぎよりも嫁入りが先になってしまいましたからね。焦ってしまうのでしょう。

そんな兄様に、姉様がフフン、と嬉しそうに笑って、別の紙 (厚紙? 羊皮紙? )を取り出しました。


「良い報告の、二つ目ですわ! 」

「………マーラ、これは……」

「ルーベンスお兄様への、お見合いの釣書ですわ! 」


二つ折りにされたそれを開くと、女の子の姿絵がありました。


「兄様に、お見合いですか? 」

「そうですわ。嫁入りの私よりも嫡男の結婚が先にならなくてはいけませんもの、お友達から紹介していただきましたわ」


兄様が釣書を、僕にも見せてくれました。


「プラナ・モルガン子爵令嬢。マーラ姉様と同級生ですね。長女ですが領地はなく、学園での成績も、基礎学科はほぼ満点ですってありますよ」

「プラナ様は私と一緒の侍女学科を専攻していたのですけれど、恥ずかしながら、三年になるまで接点がありませんでしたの。ですが、共通のお友達がいて、その子が、ルーベンスお兄様のお相手にどうかしらって、紹介していただけましたの」


プラナ様は、もの静かであまりお喋りをしない方のようで、普段は自席で本を読んでいるのだそうです。

そして、おっとりした性格なので、王子妃を狙う筈もなく。


「それなのに、婚約者さんは居なかったのですか? 」

「モルガン子爵様も子爵婦人も、プラナ様と同じでおっとりされているの」

「いや、それおっとりで済ませられる問題か? 」


コロコロ笑う姉様に、兄様が呆れた表情になりました。

でも、兄様ってば目はプラナ様の絵姿に固定されてますよ。可愛い方ですもんね。

姉様が何も言わないってことは、この絵姿、御本人様と似ているのでしょう。


プラナ様のことは父様達にも話してあるらしく、夏季休暇中には両家の顔合わせ (お見合いですね) をするのだそうです。

グラビス辺境伯子息様は、一度領地へ帰ってから子爵領へ見えられるので、十日くらいはかかるそうです。



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