これもある意味、藁しべ長者?
シシィとリリーナ様の訓練を眺める。
ヨーリンとザッハ君の話を聞いた後、リリーナ様に変化があらわれました。
ほんのわずかですが、魔力を感じた。と。
一瞬だけだったそうですが、初めての魔力に、戸惑い、驚き、嬉しそうに泣かれてしまいました。
シシィがとてもアワアワしていて、最後には二人で泣き始めてしまいました。
「そう、そうですわ。ゆっくりですわよ、リリーナ様」
「はい……は、ぅぅ……」
今は、体内の魔力を外に、手のひらに魔力を集めて維持する、ということをしています。
リリーナ様の手のひらに、魔力の塊が感じられますが、不安定なのです。
シシィはまず、魔力を完璧に制御出来るように、と言っていました。
「うむむ……っ、あ! あぁぁ~……」
「リリーナ様、もう少し体の力を抜いてみてはどうですか」
「はい…」
魔力が霧散してしまいました。
ガックリと肩を落とされたリリーナ様に、シシィが寄り添います。
頑張るのは良いことですけれど。
「二人とも。一度休憩をしましょう」
「カイン」
「は、はいっ」
口を挟まなければ、ずっと訓練をし続ける二人を止めるのが、僕の役割です。
救急箱の出番は、今のところありません。良いことですが、僕のやることが無い気がします。
「わぁ! 美味しそうです!」
「卵が悪くなってしまう前に、使ってしまわなければならなくて」
カルロさんが厚手の布を地面に引き、サブリナさんが何処からかクッションを用意して、僕がおやつを取り出し並べます。
本来、地面に座り込むような事は貴族としてダメなのですが、学生ですし、訓練所ですし、ってことで、サブリナさんもカルロさんも黙認してくれています。
シシィとリリーナ様は、ピクニックのようで楽しい、といってくださいます。
「カイン、こんなに沢山……卵が勿体ないわ」
「いえ。ええと………実はですね…先週孤児院へ行った後に、商店街の方へ足を伸ばしたのです。そこで、野菜の露店をしていたお婆さんが……」
おやつのエッグタルト。
お皿いっぱいに載ったそれは、僕の手作りです。
シシィがため息をついたのは、三人、カルロさん達をいれて五人でも食べきれない量だからでしょう。
作りすぎた自覚はあります。久しぶりのスイーツ作りが楽しかったというのもありますが、ちゃんと理由があるんですよ?
先週、と言っても、三日前の事ですけれど。
野菜の露店のお婆さんが、大きな白菜を持とうとして転んでしまったので、手を貸したのです。
その時、どうやら足首と手首を痛めてしまったみたいで。
僕は白菜を、買いに来た方に渡して代金をいただいた後、お婆さんの露店を片付けて、お婆さんをお家までお送りしました。
露店に残っていた野菜は残り僅かでしたので、僕一人でも持つことができたので良かったです。
お婆さんは一人暮らしで、野菜を作っている息子さん夫婦に、露店を任されているそうです。
足首と手首の手当てをしているときにお話しを伺っていたのですが、露店は毎日出しているそうです。
ですが、怪我のまま歩いたり、野菜を持ったりは危険ですし、治りが遅くなってしまいます。
僕が露店を変わることも、授業があるので難しいです。
なので、教会に行って、孤児院にお願いしてみました。
孤児院の子達、簡単な計算なら出来ますし、ね?
「……それで、お礼にって、お婆さんの息子さんが、届けてくれたんです、沢山のお野菜。
流石に孤児院だけだと消費出来なくて、一時預りの子達に持って帰ってもらったそうです。その一時預りの子の親に、冒険者夫婦がいたらしくて……」
その冒険者夫婦は、郊外にある養鶏場? に現れた魔獣の退治依頼をうけていました。
そして、その子供は、恥ずかしがり屋さんで、普段はあまり人とお話しが出来ないのだそうです。
ですが今回、計算が出来るから、と他の子供に誘われて露店のお手伝いをしたそうです。
魔獣退治を終えて一緒に宿に戻った後に、子供に野菜と一緒にお手伝いの話を聞いた夫婦は、とても嬉しかったそうです。
恥ずかしがり屋で引っ込み思案な子が! と感動して、依頼を受けていた養鶏場へ。
「依頼金はいいから、新鮮な卵を孤児院へ送ってくれ。と頼んだそうなんです」
卵って、栄養たっぷりですもんね。
子供には必要不可欠ですもんね。
でも、二十に満たない人数の孤児院に、百余りの卵は、贈りすぎだと思います。
シスターに、切っ掛けを作ったのは僕だから、と笑顔で五十個押しつ………渡されたんです。
ザックリと説明をしたら、シシィは呆れ、リリーナ様は唖然としてしまいました。
カルロさんとサブリナさんには、エッグタルトになる前の、大量の卵を見られていますので普段通りの表情です。
「まぁ、良いですけれど。……ん、相変わらず、カインの作るお菓子は美味しいですわ」
「カイン様、これ、少し貰って帰っても良いですか? 明日のおやつにしたいです」
「もちろんです。沢山持って行ってください」
あまり日持ちはしないので、そこは注意してもらい、リリーナ様は三個ほど持ち帰りました。
シシィにも持ち帰ってもらいましたが、まだ十個ほど残ってしまいました。
五十個の卵のうち、半分以上はタルトを作らせていただく為に食堂に賄賂 ? 使用料 ? 的にお渡ししました。
そして、作ったエッグタルトの三つは、僕とカルロさんとサブリナさんが味見で食べました。
あと、たまたま食堂に来たクリス君達に二個ずつ渡しましたし、残ってしまった分は、誰にあげましょう?
「……あ、ヨーリン達に差し入れしましょう」
そうです。そうしましょう。
リリーナ様も、段々と魔力の扱いが出来るようになってきましたし、その切っ掛けを下さったヨーリンとザッハ君に、お礼として差し入れを渡しても、不自然ではありません。
まぁ、男の手作り、と言うのが少しアレですが、言わなければ良いのです。
嘘は吐きませんよ、言わないだけです。
「確か、ヨーリンの部屋は……」
早速、寮の部屋へ向かいます。
前にヨーリンの部屋を聞いておいて良かったですね。
流石に他の学科クラスへ行くのは気が引けてしまいます。
「ありました。………ヨーリン、居ますか?」
ノックをして声を掛けると、直ぐに中から返事がして、ドアが開かれました。
「カイン、どうかしたのか?」
「………いきなりすみません。あなた確か甘いもの食べられましたよね?」
出てきたのはヨーリンですが、何か、沢山人が居ますね?
とりあえずそちらは気にせずに、ヨーリンへ持ってきたエッグタルト (きちんとバスケットへつめてあります。お皿のままは、流石に失礼ですから) を掲げて見せました。
「お、エッグタルトか? 好き好き! くれるのか?」
「はい。あぁそうです、あなたとザッハ君のおかげで、リリーナ様も少しずつですが、魔力制御を出来るようになってきたんですよ」
「あぁ……次はもうちょい心の準備に時間が欲しいわ。いきなりサルグリッド公爵令嬢の目の前に連れてかれて……ザッハなんか数日震えてたんだぜ?」
バスケットを受け取りながら、ヨーリンが呆れたような、疲れたような表情をしました。
まぁ確かに、普通なら僕らみたいな爵位の者や、平民であるザッハ君では、公爵位の方とはお話し出来ませんからね。
「シシィは、爵位などに拘りませんよ?」
「いやいやいや! それもだが、そもそもあんな綺麗な人、緊張すんだって!」
「そうですか……」
凄い勢いでまくし立てられました。
ヨーリン、声が大きいから、部屋の人達が近付いてきてますよ?
部屋にいるのは、四人ですかね? エッグタルトの数は十分にあります。
ヨーリンに、ザッハ君にもあげてください。と言付けて帰りましょう。
ヨーリン、貴方、シシィに会ったこと、あるんですよ?
と (恋愛フラグになりそうなこと) は、決して言わない、カインです。




