調べ物をしてみました
書斎の本棚を調べた結果、それらしい記述のある物が数冊、見付かりました。
「ですが、これは……」
あまり喜べる結果ではありません。
一つは、日に焼けてボロボロになった、古い物語の本。
一つは、魔法の研究に関するレポート。これが僕が記憶していた物だと思うのですが、最後まで読んでみたところ……考察のみで、実際に試したという記述はありませんでした。
最後の一冊は、多分昔の貴族令嬢の日記でした。
最初の方は、日々の習い事や家族についての細々とした事が書かれてありました。ですが、ある日から突然、日記の日付が一月もとんでいます。
そこからは、日記の主の苦悩と苛立ち、不安等が弱々しい字で、時には荒々しい言葉と文字で書かれていました。
「……これは、父様にお伺いしてみるしか、無さそうですね……」
日記の内容も含め、父様がお帰りになるのを待つことにしました。
父様は夕食には間に合わず、僕が湯浴みを終えたあたりに帰宅されたみたいです。
父様の帰宅を教えてくれた侍女長さんと一緒に父様の書斎へ向かいます。手には昼間見付けた三冊の書物を忘れずに抱えます。
「父様、カインです。今宜しいですか?」
「あぁ、入ってくれ」
「失礼します」
侍女長さんに扉を開いてもらって書斎へ入ります。
領地の書斎と違い、王都の書斎はこじんまりしています。書類もあまり無いようですね?
……いけません、話がずれてしまいました。
父様は手元の書類らしきものにサインをしていき、区切りがついたのでしょうか、僕の方へ来てくれました。
「お待たせカイン。さ、こちらへおいで」
「はい、父様」
書斎には領地のものより簡素なソファとテーブルがありました。
そちらへ、父様と対面するように座ります。さすがにもう膝には乗りませんよ。
父様に、母様にもしたようにリリーナ様の事を説明して、持ち出した書物に書いてあったことも説明しました。
僕の考察などは一切ありません。全く解らないので、考察しようもない、というのが正しいでしょうか。
「…ふむ………」
「母様が、学生の頃には、そういった方は見えられなかったとおっしゃっていました。……やはり前例などは、無いのでしょうか?」
僕の話を聞いた父様は、目を閉じて考え始めてしまいました。
五分ほどでしょうか? 父様は閉じていた目を開くと、僕の持っていた書物の三冊目 ‐ 日記について教えて下さいました。
この書物は、とある令嬢の日記なのですが、どの家の令嬢かが分からないのだそうです。
父様の父様 ‐ 僕の祖父のお姉様のご友人からお預かりしたそうなのですが、詳しいお話をお聞きする前に、ご友人とは疎遠になってしまったそうです。
なので、何故突然魔法が使用できなくなってしまったのか? というのが解らないままだそうです。
「そうなのですか。何か、切っ掛けになれば、と思ったのですが……」
「すまないな。王宮の書庫になら、何かあるやも知れん、少し調べてみよう」
「本当ですか! お願いします、父様」
何かを考えながらですが、調べてくださるというので、眉間に寄った皺と、少し潤み出していた目は気付かないふりをしておきました。
父様、日記の令嬢について、本当は何か知っているのでしょうか? そして、それは僕には聞かせられない内容なのでしょうか。
リリーナ様とシシィの自主練? は二週間に一度のペースで続いています。
勿論、僕やカルロさん達も一緒です。
「リリーナさん、今日は体を動かしてみましょう」
「体を、ですか?」
「えぇ。護身術程度の物なのですが、それをゆっくりと、意識して動かしてみてはどうかしら?」
シシィは、リリーナ様に肩の力を抜いて欲しいそうなので、運動をすすめてみました。
なかなか魔法を使えるようにならないと、リリーナ様は最近凄く落ち込んでいたので、一度全く違うことをして、頭や体をリフレッシュさせよう、という試みなのです。
これは、書斎で見つけたレポートに書いてあったのですが、魔力は体に浸透しているもので、体を動かすことで魔力も動き、スムーズに魔法の発動が出来るようになるのではないか。と考察されていたのです。
何が切っ掛けになるのか判らない今、とりあえず何でも試してみよう、となったのです。
リリーナ様には詳しい説明は伏せます。伝えて、変に力が入ってしまうと怪我をしやすくなってしまいますから。
シシィもリリーナ様も、動きやすい服装をしています。
貴族の令嬢としては失格なのでしょうが、ワンピースやスカートでは動きにくく、怪我をしやすいので、二人ともパンツスタイルです。
「さ、まずは軽くストレッチをして、体を温めましょう」
「は、はい」
ゆっくり体を伸ばすように柔軟をし、体をほぐしていく二人。
柔軟を終えたら、カルロさんがチェックしながら、護身術の基礎的な動作を行います。
僕は相変わらず救急箱を持って座って見ているだけです。
サブリナさんは休憩時のお茶 ‐ 水分補給用の冷たいもの ‐ を準備しているので今はいません。
正直、暇です。
「幼い頃から習っているからか、シシィは完璧ですね。無駄な動きもブレもありません」
リリーナ様は護身術を習ったことがないらしく、カルロさんが口頭で説明を入れながら、シシィが手本を見せる。という感じになっています。
覚えて損はありませんので、気分転換も兼ねてマスター出来ると良いのですが。
「リリーナ様、大分反応が速くなってきましたね」
「本当ですか!?」
「ええ。これならば、ちょっとした暴漢位は怯ませる事が出来ると思いますわ。そうよね、カルロ」
「はい。後は力を込めるコツを覚えるくらいでしょうか」
最初は魔法が使えずに煮詰まっていたリリーナ様への気分転換だった筈の護身術は、上達が目に見えるのが良かったのか、今や魔法そっちのけでカルロさんの指導が入り、二週間もすればリリーナ様もほとんどマスターされるまでになりました。
まぁ、リリーナ様もシシィも楽しそうですし、良いのですけれどね。
二人共、怪我をしなければ。の話ですが。
僕も、毎週毎週シシィ達に付き合える程暇ではありません。
クラスでの課題や、孤児院への訪問などありますので、一度顔を出せなかった時がありました。
そういった時に限って、シシィとリリーナ様が模擬戦紛いの事をしたらしく、出す足を間違えたのか絡め手が離せなかったのか、二人仲良く転倒したそうです。
勿論、カルロさんもサブリナさんもいましたが、模擬戦でしたのである程度離れていたそうで伸ばした手は届かず。
シシィは肩と背中を。リリーナ様は額と左手首を。それぞれ負傷したのです。
幸い軽い怪我だったものの、女性として怪我をするなんて。しかもリリーナ様はお顔です。
シシィも、まさかお顔に怪我をさせてしまうとは、とリリーナ様に謝罪したおしたらしいですが、リリーナ様は、自分が不注意だったから。と笑って許してくださったらしいです。
「シシィ、リリーナ様、そろそろ休憩にしましょう」
「あら、まだ大丈夫よ。もう一通り型を…」
「シシィ?」
「……分かりましたわ」
僕は許してませんよ、怪我をしたこと。
多分、疲労しているにもかかわらず体を動かし続けていたために、体の反応が鈍くなってしまっておきた怪我だと思うのです。
なので、適度な休憩は絶対です。無理は許しません。




