訓練は難航しています
まず、シシィとリリーナ様は、魔法とは何か? ということから考え始めているようです。
シシィ達は中央の辺りに立っていて僕達とは距離がありますので、詳しい会話は聞こえませんが、時折、火や水、といった単語が聞き取れます。
「……あの、カイン様、お訊ねしても宜しいでしょうか?」
「はい、なんでしょう?」
暫くシシィ達を見ていたら、サブリナさんが小さな声で話し掛けて来ました。
本来ならば、シシィに仕えているサブリナさんが僕に対して自発的に声を掛ける。というのはマナー的にも常識的にも良くありません。
ですが、まぁここは学園ですし。治外法権ってことで、大丈夫ですよね。
「カイン様の持っている、その箱は何なのでしょう?」
「あぁ、これですか?」
どうやらずっと気になっていたようです。カルロさんも不思議そうにしています。
そういえば、シシィ達にも説明していませんでしたね、僕。
サブリナさんとカルロさんに中身が見えるようにして、入っているものと、僕の考えを説明しました。
「なるほど。携帯用に少量ずつですか」
「素晴らしいですわ。これくらいの箱ならば女性でも持ち歩けますし、応急処置は大事ですものね」
カルロさんは、遠征に、警邏隊に、とブツブツ呟きながら何か考え始めてしまいました。
サブリナさんは、僕から箱を受け取り、重さの確認をしたり中身をよく見たりしながら何か考えています。
少しの怪我でも、最初の処置が遅れてしまえば傷跡が残ってしまうこともあります。
それに、火傷や骨折などはキチンと処置をしないと、後で皮膚が突っ張ってしまったり、変に固まって関節が動かなくなってしまう恐れもあります。
授業でも、教会の薬師様も、薬は万全ではない。と仰られていました。
「………なのですが、……カイン、少し宜しいかしら?」
「はい? どうかしましたか、シシィ?」
サブリナさん達が考え込んでいるのを見つつ、この世界の医療について考えていたら、シシィに呼ばれました。
見れば、シシィが手招きをしています。何かあったのでしょうか?
怪我などではなさそうなので、救急箱はサブリナさんに渡したまま、シシィ達の方へ向かいます。
「何か?」
「ねぇカイン? 貴方は魔法を使う時に何か意識したりするかしら? ……上手く言えないのですけれど、私は、お腹? 胸? の辺りに力を入れているんですけれど、それは私だけかしら?」
「あぁ、そうですね。………僕の場合は手のひらに力? いえ、意識を集中させます。えぇと……確か、魔力を増やす方法の中に、体内の魔力を動かすと良いと書いてあったような……」
しかし、確かあれは父様のお祖父様の頃に作られた書物でしたね。王都のタウンハウスの書斎で見た記憶があります。
物語のような内容だった気がします。創作本でしたか? ですが、物語なのだったら書斎の本棚には置きませんよね?
あぁでも、一番下の隅にありましたから、ただ単に気付いていないだけの可能性も? 埃も被っていた気もします。
曖昧な記憶をシシィに話せば、それでも試してみる価値はあるのではないかと、シシィはリリーナ様に向き合いました。
「リリーナ様。目を閉じて、ご自分の体の内側をじっくりと感じてみてはいかがでしょう?」
「体の内側……」
「そうですわ。ご自分の体の温かさや、頬に当たる髪の毛、腕に触れる服、足の下にある靴と、靴越しの土の感触をじっくりと」
「はい、やってみます! …………」
リリーナ様は力強く頷き、目を閉じられました。
ゆっくりと、深呼吸を繰り返しています。僕もシシィも、音を立てないようにじっとしています。
暫くそうしていると、だんだんとリリーナ様の眉がへにゃりとハの字になってきてしまいました。どうやら失敗のようです。
「………すみません……」
「謝られることはありませんわ。私も確証があってのことではありませんし、色々な方法を試してみましょう。一緒に」
「一緒に……、はい、ありがとうございます。あの、その……シシィ様…」
「まぁ! ふふ」
リリーナ様の手を握って言うシシィに、リリーナ様が微笑まれました。リリーナ様の笑顔、初めて見ました。とても可愛いです。
シシィもリリーナ様の笑顔を見れたのが嬉しかったのか、ニコニコです。
可愛いリリーナ様と綺麗なシシィが並んで微笑み合っているというのは、何とも美しいですね。こんな間近で見れるなんて、僕はとても運が良いです。眼福です。
暫く試行錯誤していましたが、特に何の変化もなく、訓練所の使用時間が終わってしまいました。
リリーナ様はしょんぼりと肩を落とされてしまっています。
「リリーナ様、僕の方でも少し調べてみます。ですからあまり落ち込まないでください」
「え、あ、はい。ありがとうございます」
「何か心当たりがあるの? カイン」
「家に幾つか、魔法に関しての書物があったと思います。物語や古い考察のようなものがあったはずです。それが、何かヒントにならないかなと」
あの書物がまだ本棚に在るかは分かりませんが、それ以外にも兄様や姉様所有の本で数冊、あと、誰のかは定かではありませんが、研究レポートのようなものを見た記憶があります。
週末に一度タウンハウスへ帰ってみましょう。
さて、休日になりました。
前日に家へ戻る旨を母様に知らせておいたので、学園の門から出た所に家の馬車が待っていました。
学園からタウンハウスまでは馬車で三十分程掛かります。大通りしか通れないので仕方がありません。
「只今帰りました」
「まぁまぁカイン、お帰りなさい。今週は家でゆっくりするのかしら?」
「母様。いえ、少し調べたい事があるのです」
玄関で出迎えてくれた母様に抱き締められ、休日の予定を告げます。
まぁとりあえずは休憩をしましょう。
姉様はまだ帰ってきていないようですね。母様と二人でリビングへ向かいます。
「まぁ、ではリリーナ・アドリアーノ様は、本当に手探りなのですね」
「えぇ。しかしシシィのお友達ですし、出来るだけのお手伝いをしようと思います」
母様に近況をお話しするついでに、リリーナ様の事をお話ししました。
僕達が知らないことでも、大人の方達なら何か心当たりがあるかもしれません。
因みに、用意していただいたお茶とお茶菓子を食べながらお話ししてます。
僕の好きなジャムクッキー。わざわざ用意してくれたようで、とても嬉しいです。
クッキーを頬張りつつも、母様は何か知っているだろうか? と首を傾げながら母様を見つめれば、僕の言いたいことを理解していただけたようで、母様はう~ん、と考え始めました。
「私達の頃も教会でしたもの…そのリリーナ・アドリアーノ様のような方は見えられなかったですし……一度お父様にお伺いしてみたらどうかしら?」
「そうですね。父様に伺ってみます」
その後は暫く他愛ないお話をして、姉様がなかなか帰って来られないので、一度母様とわかれることにしました。
母様に言って、書斎の本棚を調べても良いとお許しをいただきました。早速調べてしましょう。




