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訓練所に向かいます


「…え、僕もですか?」

「ええ。駄目かしら?」


お昼の時間。食堂へ来た僕を待っていたシシィに、珍しく頼み事をされました。

シシィが僕に何かを頼むの、いつぶりでしょう? 小さな頃はわりとあった気がするのですが……思い出せませんね。


「明日はそちらも午前の座学だけでしたわよね? 午後から訓練所の予約を取ることが出来たの」


シシィのお話を聞くと、どうやら先日リリーナ様とお会いした際に、魔力制御のことについて少しお話を聞かれたんだそうです。

詳しくは分かりませんが、大分フワッとしたイメージのみで頑張っていらっしゃるそうで、見かねたシシィがお手伝いを申し出たそうです。

それで、練習をする際に第三者が居れば、違った角度で何か意見が出るかもしれないというのと、万が一怪我をしてしまった場合、即座に手当てが出来る。とシシィは考えたようです。


「確かに怪我の手当ての仕方は授業や教会で習いましたが、僕、ほとんど実践などはしていませんし……」

「それでも、居てくれるだけでも安心感が違いますわ」

「どなたか先生は、」

「お声を掛けさせて貰いましたが、その時間は会議や学会が入るらしいのです」


あぁ、そうですよね。

全学年、全クラスが午前のみの授業で終わるのは、一月に一度あるかないからしいですしね。会議も学会も入りますよね、当然。


カルロさんとサブリナさんも一緒に居るので、万が一があればお二人が対処してくれますが、学園の中でのことは、基本的には生徒のみで対処、解決するのが決まりとなっています。

保健委員とかはありませんし、医務室も近いので、まぁ、擦り傷くらいでしたら、僕でも大丈夫ですよね?


「解りました。お付き合いいたします」

「本当? ありがとうカイン」

「では、明日の昼食後に訓練所の入り口で良いですか?」

「えぇ。何かありましたらカルロを向かわせますわ」


僕が頷くと、シシィは嬉しそうにしながら食事を再開しました。





翌日、クリス君達とお昼ご飯を食べ、暫く食休みをしてから訓練所へ向かいます。

クリス君はプリシラさんと図書塔へ向かいました。何か調べものがあるらしいです。

訓練所の手前で医務室が目に入ります。

ふと思い立ち、僕は医務室へ立ち寄ることにしました。


「失礼いたします」

「ハイハイ、どうかしたかい?」


医務室の中に入れば、数人見えられました。

その中の一人、この中では一番年上の方と思われる女性が僕の前へ出てこられました。

医師のお一人のソフィー様です。


ソフィー様は薬学・医療魔術・医術の全てに精通しており、若い頃は宮廷医師としてお勤めされていたそうです。

今は後進を育てるためにこの学園に居てくださるそうです。


「傷薬とガーゼ、精製水、包帯を少しずつ頂きたいのですが」

「少しずつ? 誰か怪我をしたのかい?」

「いえ。今から友人が訓練所を使用するのですが、念のために応急処置と簡単な手当てを出来るよう準備して持っていきたいのです」


僕が欲しいのは、所謂救急箱ですね。

絆創膏や湿布は存在しないので、精製水で傷口を洗い流して傷薬を塗り、ガーゼを当てて包帯を巻く。それくらいしかできませんが。


その場で手当てを出来るように、という僕の意図が伝わったのか、ソフィー様は少し頷くと、手早くそれらを用意して出してくれました。


「精製水はたっぷり使わなくちゃ意味がないから、ちょっと重いよ。水属性の適性は?」

「あ、はい。水適性はあります」

「そうかい。なら、精製水がもし無くなった場合は魔法で水を出して傷口を洗いな。あぁでも、魔法で出した水は飲まないように」

「はい、質の違う魔力を体内に取り込む事は、危険なのですよね」

「そうだよ。ちょっとくらい、とは思わないことだね」


ソフィー様は真剣な表情で何度も注意くださいました。気を付けなくてはいけません。


手近にあった箱にセットしていただいた簡易の救急箱を貸していただき、訓練所へ向かいます。

入り口の所に人影が見えます。シシィ達がすでに来ているようです。


「お待たせいたしました」

「いいえ、私達も来たばかりですわ。リリーナ様、こちら、私の従兄になります、カイン・ロンガヴィル。カイン、こちらは私のクラスメイトのリリーナ・アドリアーノ様ですわ」

「初めまして、リリーナ・アドリアーノと申します」

「カイン・ロンガヴィルです、宜しくお願いします」


略式の挨拶を終えて、僕達は割り当てられた区画へ入ります。

訓練所には、一人で剣術や体術の練習をする程度の広さから、十人以上で模擬戦が出来る程の広さの区画があります。

どの区画も、四方を三メートル程の高さの壁で囲われていますが、出入口はドアが無く開いていますし、天井もありませんので、窮屈には感じません。


今回シシィが予約した区画は、魔法を放っても大丈夫な、頑丈な壁と床になっている個人訓練場所です。

まぁ、個人訓練場所と言っても、十二畳位はありますが。

カルロさんとサブリナさんは、入って直ぐの壁際に待機となります。

僕もその辺りで待機をすることにします。


「ではカイン、何か気付いた事がありましたら、遠慮なく仰ってくださいね」

「分かりました。シシィも、リリーナ様も気を付けてくださいね」

「あ、ありがとうございます。すみません、私なんかの為に…」

「リリーナ様、なんかなんて言葉はお使いになってはなりませんわ。大丈夫です、私達がついていますもの」


遠慮がちに微笑むリリーナ様は、何か気になることがおありなのでしょうか? 元気があまりなさそうです。


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