大変なことを思い出しました
「カイン、少しお話良いですか?」
「なんですか? かあさま」
ある日、昼食を終えた時に、母様に呼び止められました。
母様のアンシィ・ロンガヴィルは、一言で言うとおっとりさんです。
貴族には珍しく、家族、使用人、領民分け隔てなく丁寧に接する方です。領民の皆さんも気さくに応対してくれますし、ロンガヴィル領は皆仲良しです。
僕の口調は母様に似せています。何処でどういうボロが出るか分かりませんので、防衛策なのです。
前世の口調も同じような感じだったので、特に苦労はしていませんしね。
「五日後に、私の姉の娘…貴方の従妹のお誕生日パーティーがあるのです。カインも一緒にいらっしゃいとお誘いがありましたから、出席しましょうね」
「いとこ、ですか? わかりました。では、なにかプレゼントをかんがえなければなりせんね」
「そうですねぇ。私と一緒に考えましょうか」
「はい!」
従妹の名前は、シシィ・フォン・サルグリッド。僕と同じ三歳になります。
サルグリッド公爵家の一人娘さん。
名と姓の間にあるミドルネームのようなものは、サルグリッド公爵が王族の血を引いているという証だそうです。
三代目までは、ミドルネームのようなものを付け、その後四代目以降は血が薄れていくので、名乗れなくなるそうです。
シシィが三代目になるようです。
「シシィ様もカインと同じ、三才になられるのですよ。仲良くしましょうね」
「はい、かあさま」
サルグリッド家は公爵です。
本来ならば子爵位である僕が仲良くしていただく立場、下の地位に居るのですが、母様と母様のお姉様は姉妹仲がとても良く、父様と公爵様は学園の同級生でこちらも仲が良かったそうです。
だから両親同士家族として接しているそうです。
僕も仲良くなれると嬉しいですね。
「ぼくとおなじ、さんさいになられるのでしたら、ごほんはどうでしょうか?」
「ご本ですか。それも良いですが、確かお義兄様が幼少の折から集められた書物が公爵家に揃っているとお姉様が言っていらしたわ」
「そうなのですか? なら、もっているものをおわたししてしまう、かのうせいがありますね……」
「難しいですわね……」
僕と母様はプレゼントするものをいくつか候補に上げていきますが、流石に公爵家にあるものを贈り物にするのは失礼なので、思い付いた先から却下になってしまいます。
あれでもないこれでもない。と母様と唸っていたら、ドアがノックされて姉様が入ってきました。
「まーねえさま! おべんきょうはおわったのですか?」
「えぇ。終わりましたわ。お母様とカインが、何やら悩んでいると執事が言っていらしたので、わたくしで役に立たないかしら、と思いまして」
「まぁ、嬉しいわ。マーラも一緒に考えてくれるのね」
侍女さんが持ってきた椅子にマー姉様も座り、三人で案を出し合います。
流石姉様、三才の女の子ならば、と幾つあっても困らないものをポンポンと出されます。
姉様の意見も聞いて、父様に許可を貰い、侍従長へ手配をお願いしました。
女の子ですので、髪紐やリボンのセットにしました。
包む前に見せて貰いましたが、レース編みが繊細な水色に銀糸を使ったリボンや、サテン生地にふわりとオーガンジーのお花が付けられた髪留め、薄めの橙色の組紐と、色とりどりなセットになっていて、姉様と母様のセンスの良さに驚きました。
これなら、きっと喜んでくれますよね?
「……あれ、シシィって、あのシシィ!?」
寝て起きたら、日本人だった頃のある記憶を思いだしていて、僕は朝から一人、パニックになりました。
今更新しい記憶を思い出せたのも吃驚ですが、その内容に慌ててしまったのです。
いきなりですが、日本人だった前世、僕は俗に言うオトメンでした。
母子家庭で、姉が二人の女系家族で育ち、掃除洗濯料理裁縫なんでも仕込まれました。普通の主婦よりも上手く出来ると思います。
少し姉と歳が離れていたので、とても可愛がられました。まぁ、今もマー姉様やルー兄様にとっても可愛がられている自覚はありますけれど。
姉二人が読んでいた漫画も、聴いていたアイドルソングも、やっていたゲームも、一通り同じ様にこなしてきました。
その中の一つ。
いわゆる乙女ゲームといわれるジャンルのゲームなのですが。
タイトルは忘れてしまったけれど、ファンタジーな舞台設定の乙女ゲームがありました。
庶民の主人公が魔法の素質を見出だされて、魔法学院に入学するところから始まるのです。
貴族と庶民の壁や差別に負けず、明るく元気に人と接する、裏表も打算もない主人公。
天真爛漫で一所懸命な彼女の態度に、四人の貴族の男の子達は自身のコンプレックスや悩みを相談したり励まされたりして、好意を持ち、恋愛していくゲーム。
そして、個別ルートに入った辺りで現れて、主人公に嫌がらせをしたり勝負を挑んでミニゲームをしたりする、ライバルがいます。
攻略キャラの婚約者で、我が儘で高慢、全て自分の思い通りにならないと気がすまない、絵に描いたような貴族の令嬢。
簡単に言えば、悪役令嬢。
その令嬢の名前が、確かシシィ・フォン・サルグリッドだったはずです。
「そうですか…僕、乙女ゲームの世界に転生したんですね…」
深呼吸をして落ち着き、良く思い出せば、兄様のルーベンス・ロンガヴィルは、ラストシーン近くでシシィ・フォン・サルグリッドを処刑台、もしくは修道院へ力ずくで連れていく役割の人です。
ファンディスクでは追加攻略キャラとして出てきました。
紳士的でやさしいのに、時に大人の余裕と色気で迫ってくるギャップ? が人気だったらしいです。
………まぁ、ゲームスタートは十五歳、魔法学院に入学してからなので、当分は普通に暮らしましょう。きっと今慌てても仕方ないですよね。
シシィ・フォン・サルグリッドも、まだ三才です。婚約者すら決まっていないはずです。
第一、僕はゲームに登場しないモブみたいですし。問題はありませんね。
カインの独り言は、漢字が入っています。
普段は幼児を多少なりとも演じているので、カイン本人が舌足らずを意識しているため、全て平仮名です。
うっかりミスでは…ない…よ?




