小学校へ突撃とか、マジ?
来るな、絶対だからね!
と言われていたジャックの授業参観だけど。
行かないはずないじゃん? むしろ、それって前振りなの?
ということで、遣ってきました小学校。
アッチラの街は王国の中でも群を抜いて裕福だ。大抵の街や村なら、暮らしの為に子供にだって家の手伝いをさせなければならずに学校なんて通わせていられないけど、アッチラの街は福祉政策として授業が無料で、かつ授業を受けた子供には無料の給食があるということで、ほとんどの家庭は子供を学校に行かせていた。どの時代だって、無料という言葉に人は弱いのだ。
就業年齢は6歳から15歳まで。
学年はA・B・Cの3つあって、上の学年にあがったり卒業するにはテストに合格しないといけない。
だからCの学年に6歳の子と15歳の少年が一緒にいるなんてこともある。
とはいえ、小学校に10歳以上の子供は少ない。
「何でですか?」
訊くと、リリジさんは教えてくれた。
「10歳ともなれば働けるからねぇ。学校で遊ばせておくよりも稼がせようとしちゃうんだよ」
「将来を見据えたなら、ぜったいに学校に通わせたほうが良いのに」
「それが分かる大人は少ないし、実際のところお金が必要な家庭がほとんどだからねぇ」
で、成績のいい子供は上の学校への推薦状を貰える。
上の学校。中学校じゃない。
いきなり大学なのだ。
小に対しての大、なのだろう。
だけど大学はアッチラの街にはない。王都みたいな大きなところにしかないらしい。
「ま、ジャックには関係ないか」
な~んて言ったら。
「あら、そんなことありませんわ。ジャックは優秀ですもの、大学だって行くことになるに違いありませんわ」
とサシャに噛みつかれてしまった。
「親バカ親バカ」
ロッカが呆れたように言うけど、実は彼女が家庭教師役でジャックに勉強を教えていたのだ。
芸能活動が忙しくなって、そんな暇がなくなっちゃったんだけどね。
私、サシャ、ロッカ。
3人は小学校を門前から眺めていた。
「結構おおきいね」
建物は3階建てだ。前世の小中学校の校舎によく似てる。効率を重視すると、同じような建物になってしまうんだろう。
「孤児院もかねてるらしいから」
「午前中だけが学校になるんでしたっけ?」
「無駄がないねぇ」
私とサシャは家庭教師に習っていたし、ロッカはお母さんに勉強を教えてもらっていたらしい。
だから、3人とも学校なんて始めてなのだ。
立ち尽くす私たちの横をママだろう人達が通り過ぎていく。
みんな若い。早くから結婚して出産してるからだろう。ほとんどが20代の前半に見える。ママ、というよりもお姉さんみたいな感じだ。
前世の記憶がある私からすると、大学の登校風景にみえなくもない。もっとも私は高卒なんだけどね。
とはいえ、さすがに私たちみたいに10代半ばのママさんはいない。
通り過ぎるママさん達が、チラチラとこっちを見てから通り過ぎていく。
「モイライだってばれて…ないよね?」
「バレてたら、もっと大袈裟なことになってるでしょ、きっと」
「変装してるんですもの、大丈夫ですわよ」
そうなのだ。今回、ジャックの学校に来るにあたって、私たちは変装をしていた。
私は男装をして付け髭にシルクハットの紳士風に。
サシャは日傘をさして、何処ぞの若奥様風。
ロッカは…なんと、お腹に詰め物をして妊婦さんに変装してるのだ!
むふふ、これで誰が、今を時めくアイドルユニットのモイライだと見抜けようか。
否! 見抜けまい。
「いざ、行かん」
私たちは校内へと歩みを進めた。
「ジャックの教室って何処?」
「Aの2ですから、3階の真ん中ですわね」
ん?
「ちょっと待って。なんでジャックがAなの? Aって最終学年だよね?」
飛び級してるじゃん!
「ジャックは優秀ですから」
親バカなサシャじゃ答えをくれない。
私はロッカを見た。
「あたしのおかげってワケよ」
ロッカが得意げに鼻をぴくぴくさせる。
同時に膨らんだお腹がもぞもぞと動いた。
すわ、出産か!
ちがいます。ぽんぽんお腹のなかのチビ狼クリスがロッカの感情に反応したのです。
「要するに……ジャックはロッカのスパルタ教育をものともしない天才なんだ」
私が総括すると
「そうなんですわ!」
サシャが満面の笑みでうなずいた。
ほとんどのママさんは1階のC学年に集まっていた。
2階のB学年には20人くらいかな? 廊下で和気藹々とお喋りしてた。
で、A学年だけど。
階段を登ってきた私たちに、廊下で待っていたママさん達から値踏みするみたいな視線が飛んできた。
人数は、ひのふの…8人。
「おはようございます」
と紳士の私だと声でバレるから、外面のいいロッカが挨拶をしたんだけど、見事に無言で返された。
「な~んかギスギスしてるね」
私は小声でささやいた。
「あったりまえじゃない、ここはA学年なのよ。大学への推薦状を貰おうと、親からして鎬を削ってんのよ」
ニヤリ、とさっきまでの人好きのする笑顔はどこへやら、妊婦さんが邪に唇の端っこをつり上げる。
ガラリ、と教室のドアが開いた。
「どうぞ、お入りください」
教師だろう男性が招いてくれる。
ママさん達は教師が開けたドアじゃなくて、教室の後ろにあるドアから中へと入っていった。
私たちは一番最後だ。
教室へ入る。
子供たちからの好奇の視線が向けられる。
そのなかにはジャックもいて。
「は~い」
と声に出さなかったけど、私は手を軽く上げた。
サシャもロッカも同じようにジャックに手を振っている。
対して、ジャックは愕然とした顔をしていた。面白いくらいに顔色をなくしてる。
へへへ、どっきり大成功だぜ!
法事のため、明日と明後日の投稿はできません。
よろしくお願いいたします。
というか、毎日の投稿が1ヶ月ちょっと続いたことに我ながら驚いてます。