アイドルになって半年とか、マジ?
いきなり半年後です。
思えば、とぉくに、来たもんだ。とくらぁ。
公爵令嬢から悪辣令嬢にジョブチェンジして。
屋敷を追い出され、魔獣の森のほとりにある砦の街の修道院へと、まさに島流し。
そこで更にシスター見習いのジョブが付いて。
色々やってたら、スキルに白狼召喚が。
更に色々やってたらメインのジョブが聖女になって。
うん。
またもや王子たちが遣って来て、街から逃げ出して。
そうして、今では男装してアイドルへとジョブチェンジしてる。
そんな摩訶不思議で異様に濃い遍歴をたどっているリリンシャールでっす!
突然ですが、モイライのライブコンサート初日から半年が経ちました。
とりあえず、まだアイドルをやれています。
マジで明日の我が身をも知れない紆余曲折を経てきたので、半年も同じアイドルという職業に就けていることに安心しております。
というわけで。
今日も今日とて、歌とダンスの練習をサシャとロッカとして、食事をもりもり食べている私なのだ。
「ほんと…よく食べますわね」
サシャが呆れたように言う。
実際に呆れているんだろう。
なんせ私のランチは大盛りも大盛り超大盛だ。
肉体労働をしている男の人が食べるのと同じくらいの量なのだ。
「ねぇ?」とロッカがジト目を向けてきた。
「これってさ、リリンの入れ知恵だよねぇ?」
スプーンを私に向けて訊く。そのスプーンの上には黄色いぷるんぷるんの物体が掬われている。
最近になって食堂で出されるようになったプリンだ。大人気商品で、予約が必要なほどなのだ!
私はそっと目を逸らした。
「リィリィン」
地の底から響くような声で追及がくる。
「だって、だってさ! 食べたくなっちゃったんだもん」
玉子は高価なのだ。前世だと安かったけれど、あれは飼育方法とかが確立されているからであって、この世界だと鶏は放し飼いがデフォルト。しかも街中で鶏を飼うわけにはいかないから、周辺の村落から玉子を売りに来たのを買い取らないといけない。つま~り、値段が高いうえに、品物自体も稀にしか手に入らないという…。
だから、プリンはどんなに思い焦がれても作ることができなかった。
ず~~~~~と、片思いしてたのだ!
それが…それが!
モイライの歌を気に入ったという、ある集落の村長さんが大量の玉子を持参して挨拶に来てくれたのであります。
しかぁも! これからも定期的に玉子を売ってくれるんだって!
そうとなれば、作るしかないじゃん? そう、プリンを!
プリンは意外と作るのが簡単だから、レシピを含めて手順は憶えてたし。
「もん、じゃない! 口を酸っぱくして言ってるでしょ、何かする前に、まずあたしに相談することって。これだってレシピを無料で教えてるんじゃないでしょうね?」
「む、無料じゃないよ?」
「だったら、代金をもらったのね?」
「代金…というか…ランチを無料で大盛りにしてもらえるようになったというか…」
本当なら追加で200円ぐらい取られるのだ。因みに前にも言ったけど、ゲーム世界のお金は『円』である。
ふ~、とロッカが眉間を揉んでる。これは更にお怒りが増したというサインでもある。
私は助けを求めてサシャを見たのだけれど
「プリン、でしたっけ? 確かに美味しいですわね。それをリリンは独り占めしてたってことですわよね?」
怒ってらっしゃる。
確かに私はプリンをつくったのを黙っていた。
でもさ、代わりに厚焼き玉子つくってあげたじゃん! 甘々のふかふかの美味しい奴。あれで玉子のストックがなくなっちゃったんだもん、仕方ないじゃん!
……私は孤立無援だ。
「このプリンのレシピだけで、いったい幾ら稼げるか…」
ぶつぶつとロッカが呟いている。あの呟きが終わったら、お説教タイムの始まりだ。
私としては、むしろ無料で広めちゃって、いっぱいの人に美味しいものを食べてもらったほうが良いと思うんだけど。
それはロッカからしたら許せない考え方らしい。
「そういえば、そろそろだよね?」
と私は目の前の脅威から意識を逸らすために、サシャに新しい話題を振った。
綺麗な所作で固いパンを咀嚼していたロッカが、もぐもぐゴックン、してから
「そろそろ?」
と訊き返す。
「な~に言ってるんだか。ジャックの授業参観だよ」
幼児ジャック改め、少年となったジャックは、学校に通うようになっていた。
訊きもしないのに毎日のように話してくれるサシャの報告によると、成績は抜群で、運動も得意で、友達も多いらしい。
…リア充予備軍だ。
こうしてジャックの話題をふれば、サシャは嬉々として食いついてくれる。
はずだったんだけど?
今日に限って、サシャは「ふぅ」なんて溜め息をついた。
あら、色っぽい。
「なんかあったの?」
「ジャックが授業参観に来ないでくれって言いますの」
「反抗期?」
「そうかも知れませんわ…。部屋でわたくしが抱き着くと、嫌がるようになりましたし」
「…というかさ、サシャはジャックに抱き着く癖があるよね?」
「ジャックの匂いが好きなんですもの」
「匂いたって、みんなと同じ石鹸つかってるんだから同じ匂いじゃない?」
「違いますわ! あの子はお日様の匂いがしますのよ!」
バン! とテーブルが叩かれる。
でも叩いたのはサシャじゃない。
ロッカだった。
「あたし、王都に行きたいんだけど!」
はぁ? 私とサシャは顔を見合わせた。
どういった道のりをたどったんだか、プリンから王都になったらしい。
「なして、王都?」
「ママのお店が上手くいってるか心配なのよ! というか、ママのために新しいレシピを考えてくれるって言ってたわよね、リリン?」
う~ん、すっかり忘れてた。
なんてことを言えるはずもない。
だから、私はニッコシ笑った。
「もちろん、考えてるよ?」
「…なんで、疑問形なの?」
鋭いロッカが突っ込みを入れてくれる。
けれど、それ以上の詮索はされなかった。
何故なら
「ちょうどよかった」
とリリジさんが速足で遣って来たからだ。
「王都に行きたいんだって? なら問題ないね。1ヶ月後に王都へ出発だよ」
改めて告知させていただきます。
11月の25・26日は投稿しません。よろしくお願いいたします。