モイライ始動とか、マジ?
対決勝負はうやむやになってしまったけど、宣伝効果は抜群だ。
アッチラの街でのモイライの知名度は飛躍的に跳ね上がった。
それまでは街中を自由にぷらぷら歩き出来ていたけれど、今では『あれって、もしかして?』なんてひそひそ話をされた挙句に『握手してください!』と言われるまでになった。
とはいえ人気は、まだまだ、これから、といった感じだ。
ライブコンサートのチケットも売れ始めはしたけれど、半分は残っているような状況。
それが変わったのは、ラジオでモイライの楽曲が流されてからだった。
アポロスターとの対決を聴いていたラジオ局の人が、モイライの歌を放送スケジュールの隙間にねじ込んでくれたのだ。
これが切っ掛けとなった。
ラジオではモイライの歌がどんどこ流れるようになって、それに併せてチケットも加速度的に売れ始めた。
そうして遂に。
「おめでとう! チケット完売だよ!」
リリジさんが満面の笑顔でそう報告してくれた。
それがライブコンサート開催初日の9日前。
スタッフさんからしたら気をもんだ挙句のギリギリで間に合った、て感想だろう。
よかった、よかった。
あとは練習を繰り返して、本番で最高のパフォーマンスを披露しようね!
といけば良かったんだけど。
「マズいことになった…」
昨日は笑顔だったリリジさんが、眉をハの字に下げて遣って来た。
「チケットをもっと売ってくれって、人が引きも切らないんだ」
ちなみにチケットの販売は代理店とかがないので、アポロ・プロのビルで売っている。
そうなるとビルに人が押し寄せるわけで、業務に支障がでているらしい。
「コンサートの期間を延長してもいいかな?」
と問われて、拒めるほど私たちは恩知らずじゃない。
結局、コンサートの開催期間を延長して、それでチケットを購入できずにいた人たちも買えることになった。
ライブコンサートの初日。
アッチラの街でいちばん大きな建物である音楽堂は満員だった。
っても、収容人数は1000人弱なんだけどさ。
これでも建物は大きいほうなんだぞ。
控え室で、私たち……モイライは呼び出しを今か今かと待っていた。
私は椅子に座って鼻歌を口遊んでいる。前世なら乙女ゲーでリラックスできたんだけど、こっちにはないからさ。
レイは、タップダンスをしている。本人曰く、動いてないとプレッシャーでおかしくなってしまうらしい。
んでも、本番の前にそんな運動して平気なの? そう思うでしょ? 私もそう思った。
けど、ここで意外な真実が!
私の歌声には癒しの効果がある。それは勝手に発動してしまうからどうしようもないんだけど、そんな癒しの効果を最も傍で受けているレイとユウは、ステージで幾らダンスをしても疲れ知らずなんだってさ! しかも、お肌もツルツルらしい。
マジ!?
私は疲れるしお腹は空くしで、毎日が限界への挑戦だったていうのに!
道理で、レイもユウも余裕のある様子だったわけだよ。お肌が赤ちゃんみたいなわけだよ!
で、もう1人のユウはといえば。
チビ狼のクリスを膝に乗せて、毛並みを撫でている。
うんうん、絵になるなぁ。
「ふふふ、あたしの魅力で男も女も屈服させてやるんだから」
…………。黒い。
なんでロッカはユウになると黒さが倍以上になるんだろう?
不意にクリスが顔を上げた。
コンコン、とドアがノックされて、スタッフの女性が顔を覗かせた。
「出番です」
言い置いて、忙しいのか直ぐに引っ込んでしまう。
私たちは、ほとんど同時に立ち上がった。
「いよいよだね」
「遂にですわね」
「ようやくね」
同じような意味のことを、これまたほとんど同時に口にしてしまい、私たちは小さく笑った。
手を出す。
レイの手の平が重なった。
ユウの手の平がのった。
うなずく。
「行こう!」
「「 おう! 」」
私たちは気合いを入れて、楽屋を出た。
モイライは、ココから今日から始動するのだ。
アポロスターとの対決でライブの描写はしたし、コンサートの様子は割愛しようかな…。
同じような感じになっちゃうだろうし。
あと、先に告知しておきます。
11月の25・26日は法事があるので投稿できません。ご了承ください。