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新旧スター勝負が決まったとか、マジ?

「勝負だ?」


聞いたアポロ・プロのスター、略してアポロスター達が鼻で笑う。


まぁねぇ。何処の誰とも知れない小娘に音楽勝負だなんて言われて、本気にしちゃうようなら、それは大人気ないというか、プロのプライドがないもんね。


でも、私としても引き下がるつもりはない。


「恐いんですか?」


なんて、使い古された煽り文句を口にしてみる。


けど、これって前世だからこそ陳腐ちんぷなわけで、この世界ではそれは見事に機能してくれた。


「ほぉ、言ってくれるじゃないか?!」


陳腐なほどに使い古されるということは、それが大昔には効果があったということなのだ。


アポロスター達の顔色が文字通りに変わる。


「社長! いいですよ、この小娘の提案を受けましょう!」


「でも、我々が勝ったのなら。この小娘どもは芸能から退いてもらいますよ?」


「そのようにしましょう」


リリジさんが飄々(ひょうひょう)として受け入れる。


その態度が…モイライが負けるとは欠片も思ってはいない様子がアポロスター達のかんに障ったらしい。


二言にごんんはありませんからね!」


との文句を残して、プンスカしながらアポロスター達はドアを荒々しく閉めて帰って行った。


「リリンってば勇ましい」


ロッカが冗談交じりで抱き着いてくる。


そんなロッカの着ているパーカー(私が提案、マダム・キャラ作成)のフードにちょこんと乗り込んでいるチビ狼のクリスがシャーとか毛を逆立てて私を威嚇している。


うんうん、ロッカは取らないから…。てゆーか。あんた、ハッキリと私のことをライバル認定してるよね?


一方でサシャはといえば両手を組んで、例の夢みる少女トキメキ状態で私を眺めていた。


「リンさま」とか呟いてるのが聞こえる。


近頃のサシャは、男装している私を確実に男として意識している節がある。


うんうん、ジャックも睨まないでいいから。あんたの好きなサシャを取ったりしないから。つーか、私は女だから、性癖はノーマルだから。リリンシャールだから? 股間についてないのもパンパンして確認したでしょ?


そんなカオスな私たちを、スタッフの皆さんは微笑まし気に見ている。


「勝負ですか。なかなかいいアイデアだと思いますよ」


リリジさんが言う。


基本、ココに揃っているのはその道のプロだ。私の意図なんて、みんな…ロッカも含めて分かっているだろう。


とはいえ、説明は必要だ。


「アポロ・プロの新旧…と言っちゃっていいのかな? アーティスト対決。これなら確実に絶対に、街の人の注目を集めることができますよね」


「集まるだろうねぇ」


ニヤニヤとリリジさんが相槌をうつ。


「宣伝効果として抜群ね」


私から離れたロッカが、人の好さそうな顔に、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべる。


「それから、本番前の練習にもなるよね? 悪い部分の洗い出しもできるし」


「そうですわね、度胸づけにもなりますわね」


サシャが言うけど、モイライのなかで一番に腹が座わっているのは彼女だと思う。この街に来て、サシャは確実に変わった。何処がとはハッキリ言えないけど、何ていうのか……目的をもって進んでいる人に特有の強い意志みたいなものを感じるのだ。


たぶん、だけど。帰る場所を捨てたサシャは、アイドルとして大成することを決意したんだと思う。


「さらに言っちゃうと。あの人たちは焦ってるんだと思う。いきなり流行したニュージャンルの楽曲にね。その焦りを、私たちに怒りとしてぶつけてきた」


まぁ、元をただせば私が原因なわけで、関係がないとも言えないんだけど。


「だから、同じような…ううん、はるかに先端をいく音楽をモイライが披露したのなら、大人しくならざるを得ないと思う。そして、なかには吹っ切れてくれる人もいるかも知れない。新しい音楽を自ら作ろうと発奮する人が出るかもしれない」


栄枯盛衰。しょせん、芸能は水物だ。もてはやされた次の日には、転落することなんて珍しくもない。


であればこそ、あがくのだ。


みっともなく、もがくのだ。


それも、ファンには見せないように。


裏で、プライベートで、必死に努力するのだ。


間違いなく。モイライのせいで、今、街に聴こえている歌謡曲は古臭いジャンルとされるだろう。

そうなれば、アーティストとして生き残れない人もいるはずだ。


でも、それが芸能なのだ。

アーティストなのだ。


芸能で生き残りたければ、流行に合わせる才覚も努力もいるのだ。


10人のうちの3人。

それぐらいが頑張れたのなら御の字だろう。

発奮してくれたら大成功だとも思う。


3人は猛勉強をして新しい楽曲を発表するはずだ。


そこで初めて、この世界で生まれ育った人のつくった歌が、この世界の人の耳に聴こえるようになる。


それは、残酷だけど、素敵なことだと。思うのだ。


……なーんて小難しいことは置いといて。


「じゃあ、会議を再開しましょうか?」


「そうですね。まずは、対決勝負でモイライに何を歌ってもらうのか。それを決めましょう」


リリジさんが心底から楽しそうに言った。


それが決まったら、モイライは歌の練習とあわせてダンスの練習。

さらには時間がないので、バック・バンドとの擦り合わせも同時進行で行わないといけない。


だけじゃない。


衣装デザインをマダム・キャラと相談したり、演出の先生と照明さんや音響さんとで話し合う必要もある。


マジで1日が過ぎるのが早いのだ!


あ~、曲も考えないといけないんだ。


「はやく提出してくださいね」


リリジさんが笑顔で追い込みをかけてくるけど、スタッフのみなさんの目が笑ってない…。


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