アポロ・プロのスターたちの怒りとか、マジ?
「社長にお話したいことがあります!」
それは会議室で、リリジさんと私たち『モイライ』、それにライブ・コンサートの主要なスタッフが話し合っている最中のことだった。
いきなりドアを開けて闖入してきた数名の男女が、そんなことを言ったのだ。
「いきなりなんだね! 今は会議中だ、出ていきなさい!」
演出を担当するスタッフが注意したけど、そんなんで回れ右をするようなら、こんな無茶はしないわけで。
闖入者たちは出て行くどころか、リリジさんの傍まで歩み寄ると
「どうして、こんな小娘どもにこうも肩入れするのです!?」
私たちをジロリと睨め回して意見をした。
遅まきながらで、警備員が駆け込んでくる。
それをリリジさんは「ああ、いいよ。ご苦労さんだね。平気だから、戻っていいよ」と追い返すと、改めて闖入してきた男女に注目した。
「あ~…不満かね?」
「不満です!」
異口同音に声が上がる。
「我々は、これまでアポロ・プロの為に働いてきました」
「自分で言うのも何ですが、人気だってあると思います」
鼻息も荒くリリジさんに迫る人達を見ていて、見覚えがあるな~とは思ってたんだけど。
ようやくピンときた。
この人たち。アポロ・プロの抱えてる歌手やバンドマンたちだ。
ロビーに貼ってあるポスターなんかで目にはしてたんだけど、忙しさにかまけてチラっとしか見なかったから、今の今まで本人たちだと気付かなかった。
とはいえ、さすがにロッカやサシャは気付いてたみたい。
本人たち曰く、人気者らしいし。
けど、私は公爵家でお嬢様として育てられていて市井の歌を聴いたことがなかったし、修道院に来てからも遠くのラジオから聴こえてくる音楽ぐらいしか聴いてないから、さっぱり彼らのことが分からない。
実際に彼等彼女等の曲を耳にしてみたら、聞き覚えがあるかもだけど。
「今まで貢献してきた我々を二の次にして、こんな小娘たちに力を入れる理由を教えていただきたいのです!」
闖入者たちの怒りはもっともだ。
なんといっても私たち『モイライ』は無名だからね。
かろうじて私……リリンシャール改め、アイドル名で『リン』、漢字であらわすなら『凛』かな? が、マダム・キャラのおかげで若い女の子たちに周知されているけど、それだって知る人ぞ知る、てな感じだし。
広報さんも頑張ってはいる。
ポスターを色々なお店にお願いして店頭に貼ってるし、小雑誌みたいなものを無料で配ってもいる。
でも、反応はかんばしくない。
誰だ、この娘たち? って感じだもんね。
だから『モイライ』の楽曲をみんなに聴いてもらうことは早急な課題なんだけど。
これが、どうにも展開が遅い。
というのも、一番の近道であるラジオでの放送が、局のスケジュールが詰まっているとかで入り込む余地がないのだ。
普段なら、こんなことは無いみたいなんだけど。
どうやら、原因は私にあった。
砦の街でシスター達に歌わせた往年のヒットソング。それを聴いた人が、いちはやくココ、アッチラの街に戻って、自分の曲だと発表したらしい。
それが見事に大ヒット!
そりゃー、ヒットするよね。しないほうがおかしいもん。
曲を盗んだ人たちはアポロ・プロの人間じゃなかったけど、そのおかげで、ラジオは今までになかったニュージャンルの曲をかけまくって、それで私たちの新曲の入り込む余地がなくなってしまっているのだ。
前世と違って、ラジオ局にCDや音楽データを送って、ためしに聴いてもらうようなことも出来ないわけで…。
1度でも聴いてもらえたら、放送してもらえると思うんだけどさぁ。
というような状況なので、強引に押し込んだ『モイライ』の楽曲がラジオで放送されるのは早くても1週間はかかるという広報さんからの報告があったばかりなのだ。
「理由? それは簡単さ、この娘たちモイライには世界に衝撃を与える力があるからだよ」
いや~、リリジさん。それってば過大すぎませんかね?
もっとも、ライブ・コンサートのスタッフは真剣な顔で頷いたりしてる。
一方で、歌手やバンドマンの方々は隠すことなく嘲弄を浮かべた。
「この新人に? 世界に衝撃?」
「だよ?」
とリリジさんが肩をすくめる。
「話にならない!」
闖入者側が怒りに声を荒げる。
このままだとアポロ・プロを辞めて、他に移籍しちゃうかもしれない。
私のせいで、そんなことになるのは嫌だな…。
だから、私は言った。
「なら、勝負しません? 音楽勝負しましょうよ?」
作中でもありますが、リリンシャールのアイドル名は『リン』にさせていただきました。
今回、感想欄に名前の案を書いていただいた方々。
狗賓さん、hoshinoさん、Lostさん、ありがとうございました!